OBERHEIM OB-X8 レビュー:OB-X/OB-XA/OB-8の特徴と独自の要素を併せ持つアナログ・シンセ

OBERHEIM OB-X8 レビュー:OB-X/OB-XA/OB-8の特徴と独自の要素を併せ持つアナログ・シンセ

 OBERHEIMはアメリカのシンセサイザー・メーカーで、創始者はトム・オーバーハイム氏です。スタートは1973年。そこから約10年にわたり数々の画期的な製品を発表しますが、1985年頃、アナログ・シンセの斜陽などから会社を手放すことになり、以後はOBERHEIMというブランド名だけが残ります。そのOBERHEIMはシンセを発表し続け、それなりの評価こそありましたが、トム氏が関与していないのにメーカー名はOBERHEIMというややこしい状態でした。一方のトム氏は、自らメーカーを立ち上げ製品を発表するなど活躍していたものの、自分の名前をモデルに使うことはできないという、じれったい状態にありました。

 しかし2021年、OBERHEIMという商標を含む、さまざまな権利がトム氏に返還され、晴れて自身の名を社名として出直すことに。今回レビューするOB-X8は、その記念すべき一号機で、8ボイスのアナログ・シンセです。開発には、トム氏と1970年代から師弟関係にあったマーカス・ライル氏、SEQUENTIALのトニー・カラヴィダス氏、そして惜しくも今年5月に逝去したデイヴ・スミス氏も参加。アメリカ・シンセ界のドリーム・チームが生み出した一台です。

USB/MIDI端子やOLEDなどを装備

 1970年代〜80年代のOBERHEIMはさまざまなモデルを発売していましたが、その中からOB-X8に関係するモデルを簡単に紹介しておきます。まずはOB-X、OB-XA、OB-8の3機種。登場したのがそれぞれ1979年、1980年、1983年なので、SEQUENTIAL Prophet-5と同時期に活躍していたことになります。3機種に共通するのは、最大8ボイスで音色メモリーができること。違う点は、表向きにはメモリー数や幾つかのパラメーター、パネル・デザインの変更くらいでしたが、回路的にはOB-Xがオーディオ部分をほぼディスクリートで組んでいるのに対し、OB-XAとOB-8は集積回路を全面的に採用しています。音質面では(あくまで一般論的ですが)OB-Xがベストということになるでしょうし、機能性や安定性を重視する人だとOB-8に軍配を上げるでしょう。

 これら3機種に加えて、もう一つ覚えておいてほしいモデルが1974年に登場したSEMです。“Synthesizer Expander Module”という正式名称からも分かるように、ARP 2600やOdysseyと組み合わせることで、音作りのバリエーションを拡張するというアイディア製品でした。小さな筐体に2VCO/VCF/VCA/LFO/2ENVというモジュールを詰め込んでいますが、最大の特徴はローパス、ハイパス、バンドパス、ノッチというマルチモード・フィルターを搭載していること。当時のシンセはローパス・フィルターしか備えていなかったので、特にシンセ通の間では結構な人気を博しました。さて、予備知識はこのくらいにして本題に入ります。

 OB-X8を遠目に見ると“OB-Xだ!”と思う方がいるかもしれません。パネルの色調が似ているのですが、飽きのこない良いデサインだと思います。触感や質感も忘れてはいけません。“ネットで見て買ったけど、箱から出して触ってみたら結構チープだった”という経験、ありますよね? OB-X8に関しては、その心配は無用です。ノブの触感、回したときの手応えも全くもって良好。ボディ両サイドの木にはウォールナット単板が使われ、高級感を演出しています。

 ちなみにオリジナルのOBシリーズは、どのモデルも重いです。例えばOB-XAは約20kgありますから、移動も一苦労。他方、OB-X8は14.7kgと約5kg軽くなっていますし、外形寸法もOB-XA比で奥行きと高さが一回り短くなった感じなので、可搬性も良いと思います。

 鍵盤はFATAR製のものが使われ、ベロシティとタッチ・センシティブに対応しています。ここはさすがにオリジナルから40年の月日を経て、格段の進化がありますね。MIDI端子やUSB/MIDI端子も備えていますから、現在のDAWシステムでマスター鍵盤として使うのもアリです。

 先に“ルックスがOB-Xと似ている”と書きましたが、明らかに違う点としてPROGRAMMERセクションのOLED、つまりディスプレイの存在があります。昨今のシンセには、文字情報以外にグラフィカルな表示をするものが多いですが、本機は文字情報に絞っています。とは言え、1980年代のスタンダードだった“16字×2段”なんていう世界とは別次元の高解像度で、小さな画面ながらたくさんの文字を表示でき、周囲の明るさに影響されずクッキリ見える視認性の良さです。

OB-X8のリアには、USB/MIDI端子(Mac/Windows対応)やMIDI IN、OUT、THRU、サステイン・ペダル入力(ノーマル・オープン/ノーマル・クローズの両方に対応)、マスター・ボリュームに作用するエクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、フィルター・カットオフに作用するエクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、アルペジエイターを外部機器に同期させるためのクロック入力(フォーン/1〜10V)、オーディオ出力R/モノ/L(フォーン)などがある

OB-X8のリアには、USB/MIDI端子(Mac/Windows対応)やMIDI IN、OUT、THRU、サステイン・ペダル入力(ノーマル・オープン/ノーマル・クローズの両方に対応)、マスター・ボリュームに作用するエクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、フィルター・カットオフに作用するエクスプレッション・ペダル入力(TRSフォーン)、アルペジエイターを外部機器に同期させるためのクロック入力(フォーン/1〜10V)、オーディオ出力R/モノ/L(フォーン)などがある

ひたすら太く厚く倍音の暴れも高度に再現

 OB-X8には独自プログラムのほか、OB-X、OB-XA、OB-8とOB-SX(同時期に発売されていたプリセット音色のみのシンセ)の全ファクトリー・プログラムがプリセットされています。さすがに本稿ではオリジナルとの比較はできませんが、その音は元と全く同じであるとアナウンスされています。これは少し考えるとすごいことですね。OB-XAとOB-8は、シンセ通にはおなじみのCURTIS製ワンチップICを採用しているのに対し、OB-Xはエンベロープ・ジェネレーターこそCURTISですが、ほかはディスクリートで組まれています。つまり、回路的に違う機種の音が一台で鳴らせるというのがOB-X8。これを実現するために、かなりの研究と時間を費やしたようです。

 OB-X8のオーディオ回路は、まずVCOがディスクリート。VCFは、OB-XAやOB-8と同じCURTISのCEM3320を使用しつつ、OB-Xに採用されていたSEMタイプのディスクリート回路も併用という、ぜいたくな仕様となりました。これなら、古くからOBERHEIMを知るユーザーたちも納得の組み合わせではないかと思います。

 ファクトリー・プログラムを順次聴いてみます。ディスプレイには“OB-XAのグループ1の2番、クラビネット”というように表示されるので、呼び出した音がどのモデルを対象にしているかすぐ分かるので便利です。順番はOB-X8の独自プログラムに始まり、OB-8、OB-XA、OB-SX、OB-X、そして後述するSplitとDoubleのプログラムが続きます。

パネル上のOLEDディスプレイ。“どのモデルのファクトリー・プログラムなのか”が左上部のBank欄に表示され、その右のGroup欄にグループ・ナンバー、下部にプログラムの名称が映し出される

パネル上のOLEDディスプレイ。“どのモデルのファクトリー・プログラムなのか”が左上部のBank欄に表示され、その右のGroup欄にグループ・ナンバー、下部にプログラムの名称が映し出される

 一通り聴いて、まずどの音にも共通する見解は“ものすごく音が良い!”です。音の良さについてはおいおい触れるとして、そもそもプログラムがよくできています。オリジナル・ファクトリー・プログラムは今も通用するものばかりで、さすがは時代を越えるOBERHEIMの音だなと感心しました。とは言え多少のノスタルジーもあると思うわけですが、最新のOB-X8はどうかと言えば、これが全く素晴らしいのです。128のファクトリー・プログラムがあり、“どうやって作ったのだろう?”と思う音が数多く入っています。8ボイスのアナログ・ポリシンセで、まだまだこんなにも可能性があったのは新たな発見です。

 各プログラムで、ひたすら太く厚く、高域が重なったときに倍音が暴れるあの感じもそのまま再現。これぞ正真正銘、本物のOBERHEIMシンセの音ですね。次々とスピーカーから飛び出す音が、すっかりデジタル慣れした筆者にアナログの感覚を呼び戻してくれて、200%の爽快感であります。

ノコギリ/矩形/三角波を有する2VCO

 ファクトリー・プログラムだけでごちそうさま状態ですが、各セクションに踏み込んでみます。まずはオシレーター・セクションから。2基のオシレーターにそれぞれノコギリ波、パルス波、三角波が用意され、パルス幅は両方同時に、あるいは個別に変更が可能です。音に関しては、波形が奇麗というより、厚みまでも感じられるのがすごいのです。この波形の生々しさは、ハイエンド・シンセサイザーにのみ共通する質感そのものだと思います。

オシレーター・セクション。2基のVCOがあり、それぞれに周波数を設定するノブと波形選択ボタン(ノコギリ/パルス/三角波)が用意されている。中央には、パルス幅の調整ノブ、モジュレーション・スイッチ(クロス・モジュレーション/フィルター・エンベロープ・モジュレーション)、オシレーター・シンクのスイッチがスタンバイ。クロス・モジュレーションは、VCO2のノコギリ波でVCO1を変調するのがデフォルトの設定だ

オシレーター・セクション。2基のVCOがあり、それぞれに周波数を設定するノブと波形選択ボタン(ノコギリ/パルス/三角波)が用意されている。中央には、パルス幅の調整ノブ、モジュレーション・スイッチ(クロス・モジュレーション/フィルター・エンベロープ・モジュレーション)、オシレーター・シンクのスイッチがスタンバイ。クロス・モジュレーションは、VCO2のノコギリ波でVCO1を変調するのがデフォルトの設定だ

 OBERHEIMの音は、どんなシンセでも割と簡単にまねできると思われがちです。例えばOB-XAを使ったヴァン・ヘイレン「ジャンプ」の音は、2つのVCOのノコギリ波を重ねるだけで似たような雰囲気を出せますが、やはり本物のOBERHEIMは違うのです。固有の響き、質感があり、それは本物じゃないと出ないのです。その独特の質感が、OB-X8でも堪能できるのがまずは素晴らしいと思います。

 機能面ではオシレーター・シンクもあり、OBERHEIMを象徴するギュワーンという音もすぐに出せます。ノブの配置に余裕があるので、ライブ・パフォーマンス中にコントロールするのも非常に容易でしょう。クロス・モジュレーション(X-Mod)とフィルター・エンベロープ・モジュレーション(F-Env)も、このセクションで行えます。クロス・モジュレーションは、VCO2のノコギリ波でVCO1を変調することによりギュワーンという金属的な倍音を生成しますが、三角波で変調したいと思うなら“PAGE2”で設定が可能です。

PAGE2にアクセスするためのボタンは、プログラマー・セクションにある。PAGE2ボタン左のMANUALボタンは、ロード中のプログラムに影響を受けず、パネル・セッティングがそのまま出音に反映される“live panel”モードを有効にするもの。ディスプレイを含むプログラムの呼び出しコーナーを挟んで右側には、プログラムの選択や保存に使用する8つのボタンが並ぶ

PAGE2にアクセスするためのボタンは、プログラマー・セクションにある。PAGE2ボタン左のMANUALボタンは、ロード中のプログラムに影響を受けず、パネル・セッティングがそのまま出音に反映される“live panel”モードを有効にするもの。ディスプレイを含むプログラムの呼び出しコーナーを挟んで右側には、プログラムの選択や保存に使用する8つのボタンが並ぶ

 OB-X8には、パネルに無い機能を設定するPAGE2が用意されていて、ディスプレイでしか見ることができません。つまりパネルの操作子は、概ね使用頻度の高い機能だけになっており、パネルに無い特定の機能へアクセスする場合はPAGE 2を使います。オシレーター・セクション向けのPAGE2のコマンドは、各VCOやノイズの音量、各VCOのパルス幅、先述のX-Modのソース変更です。シンセの音作りをする人には、おなじみのものばかりですから、一度機能を確認しておくだけですぐに覚えるでしょう。まずは大雑把にパネルでコントロールし、足りない要素をPAGE2で追い込むという発想は、パネルをごちゃつかせないためにも良いと思います。

OB-X/XAタイプとOB-8タイプを選べるLFO

 続いてはフィルター・セクションです。OB-X8のフィルターはパネル上の3種類、PAGE2の3種類の計6種類となっています。パネルの方は、フィルター・タイプ・ボタンを押すたびに“X”“Xa4”“Xa”の3種類を切り替えられます。XはSEMタイプの−12dB/octスロープ・ローパス、Xa4はCEM3320の−24dB/octローパス、XaはCEM3320の−12dB/octローパスです。PAGE2の“Filter Type”ではSEMタイプのハイパス、バンドパス、ノッチを切り替えて使えます。

フィルター・セクションには、カットオフ、レゾナンス、モジュレーション(フィルター・エンベロープでカットオフを変調/オシレーターのフィルター・エンベロープ・モジュレーションのアマウント調整)の各ノブがスタンバイ。フィルター・タイプの切り替え、フィルターへの入力ソースの選択(VCO1&2およびノイズ・ジェネレーター。それぞれの音量調整はPAGE2)、キー・トラッキングのオン/オフといったスイッチも備わっている

フィルター・セクションには、カットオフ、レゾナンス、モジュレーション(フィルター・エンベロープでカットオフを変調/オシレーターのフィルター・エンベロープ・モジュレーションのアマウント調整)の各ノブがスタンバイ。フィルター・タイプの切り替え、フィルターへの入力ソースの選択(VCO1&2およびノイズ・ジェネレーター。それぞれの音量調整はPAGE2)、キー・トラッキングのオン/オフといったスイッチも備わっている

 使ってみた感想は、当たり前ですがパネル上の3つは往年の雰囲気そのまま。CEM3320はProphet-5にも採用されていますが、回路設計者によってこうも違うかというほどOBERHEIM独自の切れ方をし、何度も“やっぱりOBERHEIMだな〜”とつくづく思い知らされるシーンに遭遇しました。なお、OBERHEIMは2極(12dBスロープ)だろうが4極(24dBスロープ)だろうが、レゾナンスは自己発振しません。これはOBERHEIMの哲学です。自己発振させないからこそ、あのOBERHEIMサウンドの代名詞とも言える“キュウウウワーン”というレゾナンス・スウィープ音が出せるのです。

 PAGE2で選択できるSEMタイプのフィルターは、個人的には大変面白かったです。例えば、レゾナンスを強めにかけたバンドパス・フィルターを鍵盤のタッチ・コントロールと組み合わせたときはハマりましたね。最初は軽い気持ちでワウワウ・シンセを作ってみようかと思ったのですが、タッチの強さで微妙な倍音変化を付けはじめたら、タッチへの反応の良さにすぐさま、あれもこれもといろいろな音に発展してしまい、実に楽しい時間を過ごせました。

 エンベロープ・ジェネレーターは2基あって、それぞれフィルターとアンプに内部接続されています。OB-X、OB-XA、OB-8は、いずれも同じ集積回路をエンベロープ・ジェネレーターに使っていますが、OB-8のものは特性が最もリニア。この辺りの好みもPAGE2で調整可能です。すごくマニアックだと思うかもしれませんが、考えてみればこういう機能を付けないと再現性は保てないわけですよね。

 モジュレーション・セクションは、LFOでオシレーター、フィルター、オシレーターのパルス幅、アンプを変調する仕様。ソースのLFO波形は、サイン、矩形、サンプル&ホールドをボタンで切り替えて選択し、ボタンの複数押しでアップとダウンのノコギリ波を追加できます。

モジュレーション・セクション。左のLFO列には、波形の周期を設定するノブや波形の切り替えボタンが用意されている。ディスティネーションは計2つで、1つ目はVCO1と2のピッチ、VCFのカットオフを選択可能。2つ目では、VCO1と2のパルス幅とVCA音量を選べる。異なるディスティネーションへ同時にLFOモジュレーションをかけることが可能だ

モジュレーション・セクション。左のLFO列には、波形の周期を設定するノブや波形の切り替えボタンが用意されている。ディスティネーションは計2つで、1つ目はVCO1と2のピッチ、VCFのカットオフを選択可能。2つ目では、VCO1と2のパルス幅とVCA音量を選べる。異なるディスティネーションへ同時にLFOモジュレーションをかけることが可能だ

 またPAGE2を使うと、できることが数倍に膨れ上がります。波形選択、モジュレーションのアタックとディレイのタイム、波形のトリガー・ポイント、鍵盤の位置によるスピードの変更、クオンタイズなどのほか、LFOの位相をボイス1〜4と5〜8で90°ズラす、なんていうマニアックだけど、あればうれしい機能も設定できます。ちなみにOB-8は、当時の先端技術として、LFOにデジタル波形を採用していました。デジタルLFOはアナログでは作りにくい波形を簡単に生成可能。OB-X8のLFOには、OB-X/XAタイプとOB-8タイプが用意されていて、作りたい音に合わせてPAGE2でどちらかを設定できるようになっています。

ピッチの不安定さを再現するVINTAGEノブ

 コントロール・セクションは興味深いです。先述の通りOB-X8のオシレーターはディスクリート。ディスクリート・オシレーターの利点は音質ですが、1980年代の時点では安定性に難ありでした。トランジスターも抵抗も、今のパーツには当時と同じ型番であっても、スペックがずっと良くなっているものが多数あります。ですから、同じ回路図と同じ型番のパーツで復元したとしても、全体のスペックは良くなります。しかし、これがかえって当時を知るユーザーには気に入られない理由となり得るのです。“オリジナルはこんなに安定していなくて、その不安定さが良かったんだよ”と。

コントロール・セクションには、往年のOBシリーズのようなピッチの揺らぎを自然に再現するVINTAGEノブがある。その右にはポリフォニック・ポルタメントのノブ、中央から下部にかけては、フィルター/ボリューム・エンベロープのモジュレーション量をベロシティで制御するためのVELO、アフタータッチでフィルター・カットオフやモジュレーション量を調整できるようになるTOUCH、ボイスを重ねて鳴らすためのUNISONといったボタン、VCO2のデチューン・ノブをレイアウト

コントロール・セクションには、往年のOBシリーズのようなピッチの揺らぎを自然に再現するVINTAGEノブがある。その右にはポリフォニック・ポルタメントのノブ、中央から下部にかけては、フィルター/ボリューム・エンベロープのモジュレーション量をベロシティで制御するためのVELO、アフタータッチでフィルター・カットオフやモジュレーション量を調整できるようになるTOUCH、ボイスを重ねて鳴らすためのUNISONといったボタン、VCO2のデチューン・ノブをレイアウト

 そこでOB-X8のコントール・セクションにあるVINTAGEノブが使えます。この調味料をうまく配合することで、昔の気まぐれさがもたらす、ある種の音の粗さも復元できるのです。アナログ・シンセにはたくさんの調整用トリム・ポットが内蔵されています(ユーザーは普通、見られません)が、これらのポットの数値を意図的にズラすのがVINTAGEノブです。だから単純にデチューンやコーラスなどでピッチをあいまいにするのとは、まるで違う世界です。実際に使ってみると、非常に自然なズレ方をしてくれます。

 VINTAGEノブを使う前に、マスター・セクションにあるTUNEボタンでオート・チューンをかけることをお勧めします。オート・チューンとは、内部のコンピューターが8ボイス分のVCOを自動チューニングしてくれる機能で、OB-XやOB-XA、OB-8にも搭載されていました(数秒で終わります)。まずオート・チューンをかけ、基準に合わせてからズレを加えるのがよいでしょう。そうしないと音色をメモリーし、再度呼び出したとき“あれ、なんか違うぞ?”となる場合があるので。

マスター・セクションのTUNEボタンでは、VCOの自動チューニングが行える。プログラマー・セクションのGLOBALボタンからアクセスできるフル・キャリブレーション・コマンドを使用すれば、VCOとVCFを同時にチューニングできることも覚えておこう。マスター・セクションには、ほかにもスプリット/ダブルで使う音色の音量バランスを決めるノブ、鍵盤で押さえた音を鳴らしっぱなしにするHOLDノブ、ホールド中のコードを1つの鍵盤で上げ下げできるようになるCHORDボタンなどがある

マスター・セクションのTUNEボタンでは、VCOの自動チューニングが行える。プログラマー・セクションのGLOBALボタンからアクセスできるフル・キャリブレーション・コマンドを使用すれば、VCOとVCFを同時にチューニングできることも覚えておこう。マスター・セクションには、ほかにもスプリット/ダブルで使う音色の音量バランスを決めるノブ、鍵盤で押さえた音を鳴らしっぱなしにするHOLDノブ、ホールド中のコードを1つの鍵盤で上げ下げできるようになるCHORDボタンなどがある

 コントロール・セクションに視線を戻すと、ポルタメントのノブもあります。回すだけで、音と音をポリフォニックで滑らかにつなぐ時間を設定できますが、もっと細かく設定したい人は、PAGE2に控えるパラメーターを吟味するとよいです。音をつなぐ時間に変化を付けたり、音と音の隔たりに応じて時間を変えたり同じにしたり、レガート時だけにかけたりできます。このポリフォニック・ポルタメントを利用したサウンドも、OBERHEIMの得意技の一つです。同じセクションにあるUNISONボタンは、デフォルトだと16VCO分(2VCO/1ボイス×8ボイス)の音が重なりますから、分厚くて強力。が、“単純なモノシンセとして使いたい”“もっと薄くしたい”というならPAGE2に行き、UNISON VOICEの数を任意で設定します。これはすごく便利で、出番が多いことでしょう。

 また、8というボイス数を生かしてSPRITとDOUBLEを使うことができます。設定は簡単で、KEYBOARDセクションのボタンを使うだけ。SPRITは、鍵盤を任意の位置で区切って低音側と高音側のそれぞれに異なる音色を割り当てること。DOUBLEは2つの音色を重ねることで、特にOBERHEIMはこの機能を利用した音色が得意です。例えばストリングス・パッドのような音に対しても、エフェクトを使うことなくDOUBLEで重ねるだけでコーラス効果を加えられますし、ステレオ・アウトの設定でボイスごとのパンニングもできるので“音の壁”が構築できます。また、8ボイスなので、重ねても音が途切れにくいという利点があります。試しに、スタッカート音とパッドを重ねて鳴らすことで、立体的な深みのある音を作ってみました。この手のサウンドは、元となる音質が悪いと効果が出ませんが、OB-X8のアナログ音源で作成したサウンドは期待以上の結果で、仕上がりには完全に満足できました。

 ピッチ・ベンド/モジュレーション・ホイールのセクションは、OBERHEIM独特の伝統に基づいています。向かって左のホイールがモジュレーションで、右の方がピッチ・ベンド。いずれもセンターが中心で、ピッチ・ベンドは手前に向かってピッチが上がるという世間とは逆の考え方です。このセクションを“Lever Box”と呼びますが、外観は特にOB-8のDNAを受け継いでいるように思います。モジュレーションをダイレクトにかける設定だけでなく、アルペジエイターの各種設定もここで行えます。

ピッチ・ベンド/モジュレーション・ホイールを中心とするセクション、Lever Box。モジュレーション・ホイール(写真中央左)の傍らにあるMODEボタンでモジュレーション/アルペジエイターの各モードを選ぶことができ、それに応じて操作子へアサインされる機能も切り替わる

ピッチ・ベンド/モジュレーション・ホイールを中心とするセクション、Lever Box。モジュレーション・ホイール(写真中央左)の傍らにあるMODEボタンでモジュレーション/アルペジエイターの各モードを選ぶことができ、それに応じて操作子へアサインされる機能も切り替わる

 筆者の経験に基づく脳内比較でしかありませんが、OB-X8は往年のOBシリーズ3機種を高度に再現していると感じます。ただし、並べて聴いてみると、OB-X8の方が音にツヤがありそう。少し弾いてみればすぐ分かると思うのですが、何しろ音が良いのです。音が悪い、すなわちVCO〜VCF〜VCAというオーディオ経路のどこか(またはすべて)に不備があるシンセは、どれだけパラメーターがあっても良い音にはならないし、そもそもすぐに飽きてしまいます。事実、約40年前のOBシリーズの音には、OB-X8を通じて今の耳で聴いても大変な説得力が感じられるわけで、音の良さがいかに重要であるかが分かります。筆者としては、現役シンセとしての“使える度”“将来性”という点で満点を付けることにしました。往年のOBERHEIMファンはもちろん、あのエモーショナルな音に魅了されたい、あるいは“とにかく良い音のシンセを使ってみたい”と考える若き世代にまで、諸手を挙げてお薦めします。

 

H2
【Profile】 音楽家/テクニカル・ライター。劇伴、CM、サントラ、ゲーム音楽などの制作に携わる。宅録、シンセ、コンピューターに草創期から接しており、蓄積した知識を武器に執筆活動も展開している。

 

OBERHEIM OB-X8

オープン・プライス

(市場予想価格:843,400円前後)

OBERHEIM OB-X8

SPECIFICATIONS
▪形式:アナログ ▪主なモジュール:2VCO、VCF、2ENV、LFO、VCA ▪ボイス数:8 ▪オシレーター:ノコギリ/パルス/三角波 ▪フィルター:全6種(ローパス×3、ハイパス、バンドパス、ノッチ) ▪エンベロープ・ジェネレーター:フィルター・エンベロープ×1基、ボリューム・エンベロープ×1基(いずれもADSR) ▪LFO:1基、サイン/矩形/サンプル&ホールド/ノコギリ波(ソウ・アップ&ソウ・ダウン) ▪外形寸法:1,028(W)×149(H)×423(D)mm ▪重量:14.7kg

製品情報

関連記事