第5回 ボーカルノイズの種類と処理 〜“歌ってみたMIX”を作るための環境とスキル

歌ってみたMIXで知っておくべきノイズの種類と対処法。歌ってみたの場合録音環境がさまざまであるためノイズが混ざった音源が多く、MIX師になるためには知識を深めておく必要があります。

 第5回のテーマは、歌ってみたMIXで知っておくべきノイズの種類と対処法です。歌ってみたの場合録音環境がさまざまであるためノイズが混ざった音源が多くMIX師になるためには知識を深めておく必要があります。

ノイズは波形編集と専用プラグインで処理

 歌い出す前や間奏などの“単体で発生しているノイズ”は波形編集でカットできますが、“ボーカルに埋まっているノイズ”はプラグインを用いてノイズだけ消去(または減衰)していきます。ボーカル録音時に発生しやすい主なノイズを3種類紹介します。

空調ノイズ

 まず気をつけていただきたいのが、レコーディング時の空調ノイズです。自宅ではレコーデイングスタジオと異なり換気扇やエアコンの音が収音されやすく、ノイズとなります。

 ボーカルはミックスの過程で次第に音量が大きくなっていくため、ミックス前は気にならなかった空調ノイズの音量も次第に大きくなり、完成時には目立ってしまうことがあるのです。

 空調をオフにしてレコーディングしてもらうのが望ましいですが、録り直しが難しい場合は、MIX師の技術でノイズを目立たない状態にしてあげましょう。

 筆者が愛用するのはWAVES X-Noiseというノイズ除去プラグインで、ノイズの特性を学習することで対象の音源からノイズだけを小さくしてくれます。

WAVES X-Noise

 多くのMIX師が愛用するのはiZotope RXでしょう。ノイズ処理の業界標準といって過言ではありません。RXに含まれるVoice De-noiseを使えば空調ノイズを減衰できます。

iZotope RX10のVoice De-noise

 多くのノイズ減衰プラグインでは、ノイズを読み込ませてノイズの特性を学習させることが必要です。ボーカルが入っていない“ノイズだけになっている箇所”を使用するため、歌い始める前の無音部分もカットせず残してもらうようにお願いしましょう。

緑枠のボーカル手前の部分をノイズ学習に利用する。歌い手さんにはカットしないで送ってもらおう

口から出るリップノイズ

 リップノイズは唇の開閉や舌の動きによって瞬発的に口から出る、ボーカル特有のノイズです。歌ってみたMIXを心地よく聴いてもらうために、リップノイズ除去は欠かせません。

 歌い出しや音の終わりに発生しやすいため、波形編集で丹念に取り除いていくことも可能です。ボーカルをソロ再生し、ヘッドホンでモニターすることで見つけやすくなります。当該箇所を削除し、フェード機能などを使って前後を自然につながるようにすればOKです。

緑丸の部分がリップノイズ。リップノイズが含まれる部分を切り取って音量を下げるか、もしくはカットするなどの処理を行う

 リップノイズを除去するプラグインは、RXに含まれるDe-clickが有名で簡単です。自動検出してリップノイズだけを除去してくれます。声の中に含まれるリップノイズも除去できるため、リップノイズが多い歌い手の場合は必須です。なお、先述のVoice De-noiseDe-clickはRXのエントリーグレードRX Elementsにも含まれています。

iZotope RX10のDe-click

 参考までに、リップノイズは口の中の水分が不足すると出やすくなります。緊張しても口が乾きやすくなるので、リップノイズが多い歌い手さんには、水分を切らさないように歌うようにアドバイスしてあげてもよいでしょう。

不要な部屋の響き

 最後に部屋の響きについても触れておきましょう。

 口からマイクに直線的に入ってくる音は“直接音”と呼ばれます。しかし録音されるのは直接音だけでなく、壁に跳ね返ってくる“間接音”も含まれてしまいます。

 壁での跳ね返り方は部屋の形状や材質によって大きく異なります。特定の高さの音が大きくなってしまうことがあり、この現象は“部屋鳴り“と呼ばれています。響きが良く広い部屋であれば発生しにくいのですが、自宅録音が大多数の歌ってみたMIXでは、部屋鳴りからは逃れられません。

 部屋鳴りはイコライザー(EQ)を用いて減衰させることになります。特にダイナミックEQと呼ばれる、設定値以上の音量で作動するイコライザーを用いることで、不必要に音をカットせずに済みます。たびたび紹介しているiZotope RXに含まれるDe-reverbでもうまく減らせることがあります。

緑枠の2箇所が部屋鳴りに反応した周波数帯域。意図せず膨らんでいる帯域を下げて聞きやすくする

 以上、歌ってみたMIXの特有とも言えるボーカルノイズと不要音について紹介しました。ノイズを後から消すことは大変です。テクノロジーの進化により処理が可能になりましたが、もともとノイズが無い環境で録音した音源にはかないません。歌い手さんとともに、ノイズレス・レコーディングに取り組むことが最大の対策と言えるでしょう。アドバイスするためにも、レコーディングの知識を深めておきたいものですね。

 第5回のまとめ

  • 歌ってみたMIXで覚える重要性が高いノイズは、空調ノイズ/リップノイズ/部屋鳴り

  • 波形編集とノイズ除去プラグインでノイズを減衰させる

  • MIX師の定番ノイズ除去プラグインはiZotope RX

  • 歌い手さんと共にボーカルノイズを発生させないようなレコーディングを心がける

小泉こいた。貴裕

【Profile】ミキシング・レコーディングを手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事。NoGoD、小比類巻かほる、口笛世界チャンピオンYOKOの作品などを担当。TASCAMのマーケティング、音楽コラボアプリnanaのマーケティングユニットマネージャーを経て音響機器メーカーなどのマーケティングコンサルタントも行っている。2022年には歌ってみた文化の活性化を図るため、一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会を設立。自身のYouTubeチャンネルSWKミキシング講座とともに、若いクリエイターへのスキルアップや機会提供に奔走する。

SoundWorksK Website https://soundworksk.net/
一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会 https://www.mix-shi.org/

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