第6回 イコライザーでボーカルの音質を調整してみよう 〜“歌ってみたMIX”を作るための環境とスキル

 第6回のテーマはイコライザー(EQ)。ギターアンプやエフェクター、シンセサイザーにも搭載されているので知っている人は多いと思います。ミキシング3種の神器と呼ばれるほど使用頻度の高いエフェクトですが、今回はイコライザーでボーカルの音質を調整するワークフローを紹介します。

イコライザーとは?

 イコライザーとは、特定の周波数帯域を増減させることができるエフェクトで、ゲイン(増減の量)、周波数(増減の高さ)、Q(増減の幅)の3つのパラメーターで調整します。何カ所調整できるかはイコライザーによって異なり、6カ所の調整ができる場合は「6バンドポイントのイコライザー」と呼ばれます。

 イコライザーは主に3種類に分けることができます。

1. シェルビング・イコライザー

 指定した周波数より高い帯域または低い帯域を増減させることができます。

STEINBERG Cubaseに標準搭載されているEQのシェルビング・イコライザー

2. ピーキング・イコライザー

 指定した周波数の周囲だけを増減させることができます。

STEINBERG Cubaseに標準搭載するEQのピーキング・イコライザー

3. ローカット・フィルター(ハイカット・フィルター)

 指定した高さより低い音(または高い音)を大幅に減衰させることができます。

STEINBERG Cubaseに標準搭載するEQの ローカット・フィルター/ハイカット・フィルター

 最近は音量に合わせて動作するダイナミック・イコライザーや、音高に合わせて対象の周波数が自動的に上下するなど、インテリジェントなイコライザーも増えてきました。これらはDAW標準搭載のイコライザーに慣れてから導入するようにしましょう。

著名なデジタルイコライザーのひとつFabfilter Pro Q3(左)、対象とする周波数が音高に合わせて自動変化するAntares Auto-Tune Vocal EQ(右)

不要な音をカットしよう

 イコライザーは、まず"不要な音をカット"し、続いて"足りない音をブースト"するという順番で使ってみましょう。

 不要な音とはノイズや不快に感じる音だまり、良い響きを作るときに邪魔になってくる音など、楽曲に必要のない音の総称です。ボーカルにとって欲しい音と欲しくない音に分解して捉えてみると分かりやすいでしょう。不要な音がカットされるだけでもクリアに聴こえてくるものです。

 特に自宅でボーカル録音した場合は、低域に不要な音が含まれることが多くあります。ローカットフィルターを用いてカットしてみましょう。

 例えば周波数を60Hz程度に設定することで、60Hz以下の低域を大幅に減衰することができます。音を聞きながら周波数を調整し、違和感がない設定を探しましょう。

ローカットフィルターを使って低域の不要音をカット

 特定の帯域に集中している不要音のカットには、ピーキングを使用します。ボーカルの場合、ボーカルの音そのものに不要な響きがあることは少ないので、前回紹介した“部屋鳴りの除去”がメインになるでしょう。

 Qを狭くした状態でゲインを上げて、周波数を変化させて不要な音を探します。見つけたらゲインを下げて、不要音をカットしましょう。

カットするべき場所を見つけたらゲインを下げる

 ピーキング・イコライザーでのカットはMIXの中でも難しい作業です。難しい場合は、先にブーストの工程にチャレンジしても良いでしょう。

ブーストして好みの音にしてみよう

 最後にシェルビング・イコライザーでブーストして、声をきらびやかな音にしてみましょう。周波数を8kHz程度に設定し、ブーストします。3dB程度ブーストすれば、誰でも音質の変化に気づけるでしょう。まるで良いマイクで録音したかのように、きらびやかな音になっていきます。

 大きくブーストすることもありますが、ブーストすぎるとギラギラした音になってしまうので、チープな印象が出始めたらストップして少し戻しましょう。周波数の設定を上下させることでニュアンスが変わりますので、調整してみてください。

8kHz以上をシェルビングでブーストしてみよう

 つづいて中域をブーストして声に厚みを出してみましょう。こちらはピーキング・イコライザーを使用します。

 周波数を700Hz程度に設定し、Qは広めに調整。3dB程度ブーストして緩やかな山を描いてください。声に厚みが出て説得力が増すような感覚が得られるはずです。また、周波数を低く調整すると、ワイルドな声になってきます。

700Hzあたりをピーキングでブーストしてみよう

 以上のように、イコライザーを用いることで理想の音に近づけていくことができます。理想の音に調整できた時の喜びはミキシングの大きな楽しみのひとつでもあります。

 歌ってみたMIXの場合は、状態の良くない音源が届くため、イコライザーによる調整は必須です。今回紹介している不要音カット、高域のシェルビング・ブースト、中域のピーキング・ブーストは基本となる使い方です。しっかりと身に付けておきましょう。

第6回のまとめ

  • 歌ってみたMIXは、さまざまな環境で録音された音源が届くため、イコライザーによる調整は必須
  • イコライザーは主にゲイン(増減の量)、周波数(増減の高さ)、Q(増減の幅)の3つを調整

  • 一般的なイコライザーには、シェルビング・イコライザー、ピーキング・イコライザー、ローカット・フィルター、ハイカット・フィルターが用意されている

  • イコライザーで不要な音をカットした後に、足りない音をブーストする

小泉こいた。貴裕

【Profile】ミキシング・レコーディングを手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事。NoGoD、小比類巻かほる、口笛世界チャンピオンYOKOの作品などを担当。TASCAMのマーケティング、音楽コラボアプリnanaのマーケティングユニットマネージャーを経て音響機器メーカーなどのマーケティングコンサルタントも行っている。2022年には歌ってみた文化の活性化を図るため、一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会を設立。自身のYouTubeチャンネルSWKミキシング講座とともに、若いクリエイターへのスキルアップや機会提供に奔走する。

SoundWorksK Website https://soundworksk.net/
一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会 https://www.mix-shi.org/