第8回 ボーカルにコンプレッサーをかけてみよう(後編)〜“歌ってみたMIX”を作るための環境とスキル

MIX師連載

 前回は、使い方が簡単な“LA-2Aタイプ”と音質変化がわかりやすい“1176タイプ”を使ってコンプレッサーの役割について紹介しました。今回はコンプレッサーの基本動作について紹介します。前回の記事をお読みになってから読むと理解しやすいと思います。

コンプレッサーの基本動作

 コンプレッサーによって動作や呼び方に差はありますが、まずは以下5つのパラメーターを覚えておけばよいでしょう。

  • スレッショルド
    コンプレッサーが動作を開始する音量。入力された音量がスレッショルドを超えるとコンプレッサーが動作します。

  • レシオ
    スレッショルドを超えた音をどのぐらい圧縮する(=音を小さくする)か、入力音量:出力音量という比率で表します。4:1ならスレッショルドを超えた音が1/4の音量に圧縮されます。

  • アタックタイム
    スレッショルドを超えてから動作を始め、指定したレシオになるまでの時間。ミリ秒(ms)で指定します。

  • リリースタイム
    入力音がスレッショルドを下回ってから圧縮なしに戻るまでの時間。ミリ秒(ms)で指定します。

  • アウトプットレベル
    圧縮された音の出力量。

「スレッショルドを超えた音をレシオの比率に従って圧縮し、アウトプットレベルで全体の音量を上げることで音量差を小さくする」のが、コンプレッサーの基本動作です。

コンプレッサーの基本原理

コンプレッサーの基本動作

スタンダードなコンプレッサーで使い方を実践してみよう 

 スタンダードなコンプレッサーの例としてLogic Proの標準搭載コンプレッサーを使って実践してみましょう。Logic Proの標準搭載コンプレッサーには1台でさまざまなタイプのコンプレッサーを搭載していますが、今回は「Premium Digital」というタイプをスタンダードなコンプレッサーの例として使ってみます。

Logic Pro標準搭載のコンプレッサー

Logic Pro標準搭載のコンプレッサー

 前回紹介したLA-2Aタイプや1176タイプは、スレッショルドが固定であるため、入力音量を上げることで動作を開始させていました。

 一般的なコンプレッサーは、入力音量を変えずにスレッショルドを下げていくことでコンプレッサーを動作させます。

 レシオを5:1アタックタイムを10msにして、スレッショルドを下げていきます。リリースタイムは最短かAUTOを選択してください。スレッショルドを下げていくほどにコンプレッサーが強くかかるのがわかるはずです。

 音に違和感がある場合は、KNEE(ニー)というパラメーターを上げてみましょう。KNEEは、動作開始をなめらかにして違和感を軽減するパラメーターです。

 音量はきっちり圧縮されますが、LA-2Aタイプや1176タイプと比較すると、音質の変化が少ないことに気づくのではないでしょうか。

 つまり、本来のコンプレッサーは「音量差を自動的に少なくすること」と「音量の時間軸での変化を自動的に調整すること」という目的で使用されるというわけです。

コンプレッサーの動作を理解してもらうために…

 コンプレッサーによる音量調整は、音量が大きい部分をフェーダーを下げるようにオートメーションで細かく書き込んだ後に、全体を上げるようなイメージを持つとわかりやすいでしょう。

音量が大きい部分をフェーダーで下げた状態

 ただし、実際にやっても良いリアクションにはならず、ミキシングでこのようなオートメーションを書き込むことは基本的にはありません。

 ちなみにこのようなフェーダー操作が効果的に実現できるプラグインがWAVESのVocal Riderです。コンプ感を出さずにボーカルの音量のばらつきをなくすことができます。

WAVES Vocal Rider

WAVES Vocal Rider

 いかがでしょうか。コンプレッサーをうまく扱うテクニックは一朝一夕に身につくものではありません。あきらめずにいろいろなコンプレッサーで音の変化を研究しましょう。コンプレッサーは難しいと言われる反面、その変化を感じ取れるようになるとミックスにやりがいを感じられる、とても楽しいエフェクトです。

 これまでメインボーカルの音作りの基礎を紹介してきましたが、次回はハモりやコーラスのトラックについて解説していきます。

第8回のまとめ

  • 一般的にコンプレッサーで必要なパラメーターは、スレッショルド、レシオ、アタックタイム、リリースタイム、アウトプットレベルの5つ
  • コンプレッサーを使うと、スレッショルドを超えた音をレシオの比率に従って圧縮し、アウトプットレベルで全体の音量を上げることができる
  • どうしても使い方がわからなければ、ボーカルの音量をオートメーションで操作してみることで理解しやすくなる

小泉こいた。貴裕

【Profile】ミキシング・レコーディングを手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事。NoGoD、小比類巻かほる、口笛世界チャンピオンYOKOの作品などを担当。TASCAMのマーケティング、音楽コラボアプリnanaのマーケティングユニットマネージャーを経て音響機器メーカーなどのマーケティングコンサルタントも行っている。2022年には歌ってみた文化の活性化を図るため、一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会を設立。自身のYouTubeチャンネルSWKミキシング講座とともに、若いクリエイターへのスキルアップや機会提供に奔走する。

SoundWorksK Website https://soundworksk.net/
一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会 https://www.mix-shi.org/