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第7回 ボーカルにコンプレッサーをかけてみよう(前編)〜“歌ってみたMIX”を作るための環境とスキル

MIX師連載

 コンプレッサーはイコライザーと並びミキシング3種の神器と称されるエフェクトですが、使い方が分からずにミキシングをあきらめる人も少なくないようです。難しいことはさておき、今回はコンプレッサーの効果について体感してみましょう!

なぜコンプレッサーをかけるのか?
〜役割を3つに分類して捉える

 コンプレッサーは、音量を圧縮してボーカルのニュアンスを残しつつ聴きやすい音に仕上げるために必要なエフェクトです。大きな音を設定に基づいて自動的に圧縮し、音量差を小さくします。その過程で音質や音のニュアンスに変化が現れます。

 「コンプレッサーでボーカルを聴きやすくする」こと、つまり、コンプレッサーを使用する目的は、おおむね以下の3つに分解できます。

  1. 音量差を自動的に小さくする
  2. 音量の時間軸での変化を自動的に調整する
  3. 音質を良い感じに変化させる

 具体的な仕組みや動作については次回の後編で解説しますので、今回はパラメーターが少なく扱いやすいビンテージ系コンプレッサーを使ってその効果について体感するところから始めましょう!

LA-2Aタイプのコンプレッサーを使ってみよう

 LA-2Aタイプとは、1960年代に発売されていたTELETRONIX LA-2A(現在はUNIVERSAL AUDIOが復刻)を模したコンプレッサーで、ボーカル用の定番コンプしても有名です。ここではWaves CLA-2Aで説明していきます。

 スイッチをCOMPRESS側にして、右のPEAK REDUCTIONを上げていくと圧縮が始まります。圧縮される量が中央のメーター(ゲイン・リダクション・メーター)に示されるので、最も圧縮される値が−2から−3程度になるように設定しましょう。最後に左のGAIN(出力音量)を、ボーカルトラックやマスタートラックのレベルメーターでピークがつかないように調整します。

Waves CLA-2A

Waves CLA-2Aでの設定例。LA-2Aタイプは使い方がシンプルで効果が高い

 音量がやんわりと整えられただけでなく、LA-2Aの特徴である真空管回路のウォームなサウンドに変化することが分かるでしょう。コンプレッサーはかけすぎて不自然な音(コンプくさい音)にならないように注意する必要がありますが、LA-2Aタイプは不自然な音になりにくいのも特徴です。

 なお、LA-2Aタイプには、ほかにもUNIVERSAL AUDIO純正のLA-2Aプラグインや、IK MULTIMEDIA T-RackS White 2Aなどがあります。中央にメーター、左にGAINノブ、右にPEAK REDUCTIONノブがあればLA-2Aタイプと考えて良いでしょう。

IK MULTIMEDIA T-RackS White 2A

LA-2AタイプのIK MULTIMEDIA T-RackS White 2A

 ちなみにLA-2Aタイプは、オリジナルのTELETRONIX LA-2Aの仕組みから「オプティカルコンプレッサー(オプトコンプ、光学式)」に分類されます。

1176タイプのコンプレッサーを使ってみよう 

 LA-2Aタイプと並んで人気があるのが、1960年代から発売されていた伝説のコンプレッサーUREI 1176を模した1176タイプです。こちらも実機はUNIVERSAL AUDIOから1176LNとして復刻されています。LA-2Aタイプよりパラメーターの数は増えますが、コンプレッサー全体の中ではシンプルな部類に入ります。音の変化が分かりすいので使いやすいでしょう。ここではWAVES CLA-76で説明していきます。

WAVES CLA-76

1176タイプのWAVES CLA-76

 OUTPUTはLA-2AタイプにおけるGAINに相当し、出力音量を調整します。ATTACKとRELEASE、RATIO(レシオ)の役割については後編で紹介しますので、ここではRATIOを4、ATTACKを3、RELEASEを5程度に設定し、最後にメーターが−2から−3程度になるようにINPUTをあげてみてください。

 LA-2Aタイプと比較していかがでしょうか? よりアグレッシブなサウンドが得られると思います。

 最後にRATIOを8や12に変更してみましょう。より圧縮され、音量差が小さくなります。押し出し感のあるコンプレッションサウンドになってきますので、曲に合わせて調整してみましょう。

 ちなみに1176タイプは、オリジナルのUREI 1176の仕組みから「FETコンプ」に分類されます。IK MULTIMEDIA T-RackSの場合、Black 76が1176タイプにあたります。LA-2Aとセットでプラグイン化されていることが多いのも特徴です。こちらもUNIVERSAL AUDIOをはじめ多数のプラグインがあります。

IK MUTIMEDIA T-RackS Black 76

1176タイプのIK MUTIMEDIA T-RackS Black 76

 いかがでしたか? これらのビンテージ系コンプレッサーは音質変化が大きいので、うまく設定できたときの効果が分かりやすく初心者にも楽しく使えるでしょう。音量差が整い、音質に特徴が付加され、ボーカルが聴きやすくなるのがお分かりいただけると思います。

 次回はコンプレッサーの動作についてもう少し詳しく解説します。コンプレッサーの動作を理解することで、実際に感じた音の変化に裏付けができ、苦手意識なく扱えるようになると思います。次回記事もあわせて読んでみてください。

第7回のまとめ

  • コンプレッサーを使うとボーカルが聴きやすくなる
  • 初心者にはパラメーターが少なく効果が分かりやすいビンテージ系コンプレッサーがオススメ
  • ビンテージ系コンプレッサーには温かみのある音質を加えることができる
  • ボーカルにはLA-2Aタイプ(オプトコンプ)と1176タイプ(FETコンプ)がよく使用される

小泉こいた。貴裕

【Profile】ミキシング・レコーディングを手がけるマルチクリエイター。一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会代表理事。NoGoD、小比類巻かほる、口笛世界チャンピオンYOKOの作品などを担当。TASCAMのマーケティング、音楽コラボアプリnanaのマーケティングユニットマネージャーを経て音響機器メーカーなどのマーケティングコンサルタントも行っている。2022年には歌ってみた文化の活性化を図るため、一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会を設立。自身のYouTubeチャンネルSWKミキシング講座とともに、若いクリエイターへのスキルアップや機会提供に奔走する。

SoundWorksK Website https://soundworksk.net/
一般社団法人日本歌ってみたMIX師協会 https://www.mix-shi.org/