皆さん、こんにちは。南アフリカ発祥のダンス・ミュージック、アマピアノを制作しているプロデューサー/DJのaudiot909です。連載第1回に続き、第2回もIMAGE-LINE FL Studioを使ったアマピアノの制作についてレクチャーしていきたいと思います。第1回はベースである“ログ・ドラム”に焦点を当てた内容でしたが、今回はビートを担う“ドラム”の制作について解説していきましょう!
Channel Samplerでサンプルのタイミングを調整
まずは1曲、アマピアノ界において“ディーバ”と呼ばれるシャシャの楽曲「Tender Love(feat. DJマポリサ & カブザ・デ・スモール)」(EP『Bloosom』収録)を聴いてみましょう。
トラックは、“キング”の通り名を持つカブザ・デ・スモールとDJマポリサからなるユニット=スコーピオン・キングスが手掛けており、シェイカーを中心としたイントロのドラムからは強烈なグルーブを感じます。
ここで第1回のおさらいです。アマピアノはハウス・ミュージックから派生したもので、そのドラムには幾つかの特徴があります。まずテンポは113BPM前後で、キックの音量は小さめ。そして4つ打ちです。またシェイカーの存在感が大きく、16分音符のグルーブを担っています。このほか、細かいパーカッションが複数登場する点にも注目です。
次にドラムの制作方法について。こちらは、大きく4つに分類できるでしょう。1つ目はワンショットのサンプル素材を組み合わせる方法。2つ目は既に完成しているドラム・ループやパーカッション・ループのサンプル素材を活用する方法。3つ目はループとワンショット、両方のサンプル素材を組み合わせる方法。最後の4つ目は、ループのサンプル素材をスライスし、ブレイクビーツのように再構築する方法です。この中でオーソドックスなやり方は1つ目と3つ目だと思いますが、アマピアノにおける最適なワンショットの音色を見極めるのは、ビギナーには難しいと思われるため、慣れない間は2つ目の方法で作ってみるとよいでしょう。
さて、この連載のテーマはFL Studioなので、今回はこれを絡めながら4つ目の方法を解説していきたいと思います。先述の通り、プロジェクトのテンポは113BPM前後に設定してください。アマピアノのドラムはシェイカーがポイントになるので、シェイカーから始めましょう。ダンス・ミュージックを作る際、一般的にシェイカーから配置していくことは珍しいかもしれませんが、16分音符のグルーブを出すためには非常に重要なパートとなるからです。
まずは好みのシェイカーのループ素材を見つけ、ドラッグ&ドロップでPlaylist上に配置します。この素材をダブル・クリックすれば、FL Studio付属ソフト・サンプラーのChannel Samplerが出現。もし、この素材自体のテンポがプロジェクトのテンポに対してズレている場合は、画面右上にあるTime stretchingセクションのTIMEノブを回して、タイミングがぴったり合うように調整しましょう。
自分は、よくシェイカーのループ素材を2つ重ねます。音域やリズムが異なるシェイカーを組み合わせることで、16分音符のグルーブを豊かに表現できるからです。また必要に応じてローカットを行ったり、リバーブ処理を施したりして音をなじませることもあります。
Fruity Parametric EQ 2でキックをハイカット
シェイカーの次はキックです。アタックが弱く、柔らかい音色のものを選びましょう。キックはハウスと同様、4つ打ちで配置してください。ついキックを目立たせたくなるかもしれませんが、アマピアノの場合は違います。ベース・サウンドである“ログ・ドラム”を目立たせるために、キックにはハイカットを施すのが一般的。今回はFL Studio付属のEQプラグイン、Fruity Parametric EQ 2を用いて76Hz付近にハイカットを入れています。
サンプル素材を簡単にカットアップできる付属ソフト・サンプラーのSlicexとFruity Slicer
シェイカーとキックが配置できたところで、さらにもう一工夫。コンガやボンゴといったパーカッション・ループをカットアップし、重ねていきます。Playlistの左側にあるBrowserから好みのサンプル素材を選択し、“右クリック(Macはcontrolキー+クリック)→Open in new Slicex channel”と進んでください。するとFL Studio付属ソフト・サンプラーのSlicexが立ち上がり、サンプル素材がスライスされた状態でロードされているのが確認できるでしょう。
ここでMIDIキーボードを弾く、もしくはピアノロールでMIDIノートを打ち込めば、簡単に、そして直感的にカットアップが作れます。シェイカーとキックの合間を縫うように打ち込むのがポイントです。
またSlicexは、サンプルをスライスする以外にもさまざまな機能を搭載しています。例えばスライスしたリージョンから気に入ったものだけをピッチ変更したり、ノーマライズしたり、フェード・イン/フェード・アウトしたり、WAVファイルへ書き出したりすることも可能です。単純に自動スライスしてカットアップを作りたいだけであれば、Slicexよりもシンプルな機能を搭載するFL Studio付属ソフト・サンプラー、Fruity Slicerもお勧めします。
これでアマピアノのドラムが完成しました。今回のように複数のサンプル素材を組み合わせることで、ドラムの質感とグルーブを豊かにすることができるので、積極的に取り組んでみることをお勧めします。
“あれ、スネアは?”と思った読者もいるかもしれませんが、アマピアノのスネアは、基本的にはログ・ドラムと同じタイミングで打ちます。ただし、すべて同じタイミングで打つとうるさくなりすぎるため、ログ・ドラムのリズムを補助するようなイメージで適度に打つとよいでしょう。両者を組み合わせることで、グルーブがさらに強固なものになります。冒頭で紹介したシャ・シャ「Tender Love」では、2分50秒付近からログ・ドラムとスネアの見事なコンビネーションによって、素晴らしいグルーブを醸し出しているのが分かります。スネアのチョイスがとても重要で、この曲で使われているような質感のものを探しましょう。
今回制作したドラムと、連載第1回で制作したログ・ドラムの音源をSoundCloud(下の埋め込みプレーヤー)にアップしましたのでぜひチェックしてください。Twitter(@lowtech808)も、よろしくお願いします。それではまた次回!
audiot909
【Profile】プロデューサー/DJ。もともとはハウスを得意とするDJだったが、2020年からアマピアノの制作に着手。同年にはラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」を発売。同曲はSpotifyの公式プレイリストにピックアップされるなど、自主リリースながら異例のヒットを飛ばす。また音楽活動と並行して記事の執筆、南アフリカに居るプロデューサーへのインタビュー/対談、ラジオ出演など、さまざまなメディアにてアマピアノの魅力を発信しつづけている。Twitterアカウント:@lowtech808
【Recent work】
『Willy Nilly』
Vinny Blackberry & audiot909
(Vinny Blackberry & audiot909)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
パッケージ版発売決定!
FL Studio 21 Fruity:19,800円|FL Studio 21 Producer:33,000円 |FL Studio 21 Signature:39,600円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:25,300円|FL Studio 21 Signature 解説本バンドル:41,800円|FL Studio 21 クロスグレード解説本バンドル::27,500円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 8.1/10/11以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM