皆さん、こんにちは。南アフリカ発祥のダンス・ミュージック、アマピアノを制作しているプロデューサー/DJのaudiot909です。昨今、南アフリカにおけるコンピューター普及率が上昇した影響で、現地ではDAWを使った音楽制作が身近なものになっていることをご存じでしょうか。南アフリカの若手プロデューサーたちによる独特の作曲センスやリズムの解釈は世界で注目を集め、ここ日本でもアマピアノが話題となりつつあります。
そんな中、南アフリカのクリエイターたちの間ではIMAGE-LINE FL Studioが圧倒的なシェアを獲得。私自身も、FL Studioに付属する音源や音色プリセットなどを駆使して自分のアマピアノ・サウンドを進化させてきました。この連載では、アマピアノの作り方をFL Studioを使って読者の皆さんへお伝えできたらと思います。連載の第1回は、アマピアノの主役とも言えるサウンド、“ログ・ドラム”についてです!
FL Studioに付属するシンセ音源Fruity DX10のプリセットLog Drumを使用
まずはログ・ドラムを解説する前に、アマピアノについて触れておきましょう。2020年にリリースされたサムシング・ソウェトの大傑作EP『Danko!』からの一曲、「Hey Wena(feat. Alie-Keys)」を聴いてみてください。
同作はメロウなコードが用いられ、バレアリックなムードが漂う美しい楽曲ですが、1分42秒付近から“ゴンゴン”と鳴るベースが楽曲のリズムを強烈にリードします。このアタックのあるベース・サウンドが、今回お話しするログ・ドラムです。
本来ログ・ドラムは打楽器のことを指し、別名スリット・ドラムや木鼓とも言います。しかしFL Studioに付属する音源、Fruity DX10のプリセット“Log Drum”として収録されたことにより、南アフリカに住む多くのクリエイターがアマピアノのベースに活用。これによってアマピアノは、数ある音楽ジャンルの中においてアイデンティティを獲得しました。
アマピアノは基本的にはハウスの派生系、つまりサブジャンルの一つだと言われていますが、その割には妙にキックが小さく、代わりにシェイカーが大きく鳴っていることに気づくかと思います。このほかにも、テンポが113BPM前後とハウスと比べて若干遅く、パーカッション類が細かく入っていることも特徴として挙げられるでしょう。
キックが小さいのはログ・ドラムを目立たせるためで、ログ・ドラムの音は、前述のとおりFruity DX10のプリセット“Log Drum”を用いるのがベーシックな手法です。音作りで重要になるのは、画面中央の“MODULATION 1”セクションにある“INIT”“TIME”“SUS”という3つのパラメーターになります。今回はプリセットの“Log Drum”を読み込んだ状態からINITを63へ、TIMEを27%、SUSを0%へ設定。こうすることでアタック感を程良く保った、使い勝手の良い音にすることができるのです。
それではドラムのサンプル素材を用意し、これに合わせてログ・ドラムをピアノロールに打ちこんでみます。キーはCで、赤枠で囲んだ部分を意識したリズムを打ち込むことで、アマピアノ特有のリズム感やグルーブが出せるでしょう。特に4拍目の裏に細かいフィル・インを挟むことで、ループに緩急をつけることができます。
ここでのコツは、まず“Snap”を“1/4 beat”に設定した状態でMIDIノートを打ち込み、そのあとに“Slice”ツールで細かく刻んでいくというところ。Snapとはピアノロール上のグリッド間隔を設定するもので、1/4 beatにするとグリッドが16分音符間隔になります。ピアノロール最上段にある“Piano roll Menu”から、磁石のような見た目のSnapアイコンをクリックすることでグリッド間隔を変更可能です。
また、ポインターはデフォルトでは鉛筆のような見た目の“Draw”ツールになっていますが、Piano roll Menuからカッターのような見た目のSliceアイコンを選択することで、Sliceツールに切り替えることが可能です。SliceツールはMIDIノートのみならず、サンプル素材といったオーディオにも使えるので重宝します。
複数の音源をLayer機能でまとめて制御する
Fruity DX10を用いたログ・ドラムは、もちろんそのまま打ちこむだけでベースとして機能しますが、ローカットし、サイン波を用いたサブベースをレイヤーしてあげることによって、よりファットなベースを鳴らすことができます。
こんなときにお薦めなのが“Layer”という機能。これを使うと、複数の音源をまとめて制御することができます。つまり、ログ・ドラムとサブベースのMIDIノートをそれぞれ打ち込む必要がなく、まとめて1つのMIDIクリップで鳴らすことができるのです。
Layerのやり方はとても簡単。まずはプロジェクト画面左上の“Menu panel”から“ADD→Layer”とクリックします。するとLayerが立ち上がるので、Channel RackからLayerに読み込ませたいインストゥルメンツを選択。次にLayer画面中段にある“Layering”セクションから“Set children”をクリックします。これで設定完了です。
サブベースに用いる音源は、サイン波のサンプル素材をFL Studio付属ソフト・サンプラーChannel Samplerに読み込んで鳴らしてもよいですし、FL Studio付属のシンセ音源3X OSCのデフォルト・サウンドを用いてもよいでしょう。
実はこのログ・ドラム、アマピアノだけじゃなく、ほかの音楽ジャンルにも流用できます。変わり種なところでは、南アフリカのトラップ・ミュージックに使われたりすることも。ぜひ、ご自身が取り組んでいる音楽ジャンルにも導入して、新しいグルーブを模索してみてください。
そして、やはりアマピアノにおけるログ・ドラムはFruity DX10で作るのが、南アフリカ産のサウンドに一番近くなるでしょう。YouTubeにはFruity DX10を用いたログ・ドラムのチュートリアル・ビデオもたくさんあるので、興味のある方は一度試してみることをお勧めします。
今回はログ・ドラムの基本的な音作りやMIDIの打ち込みなどを中心にご紹介しました。次回以降はアマピアノにおけるドラムやほかのパート、そしてログ・ドラムの応用テクニックといったことについても触れていきたいと思います。私のTwitter(@lowtech808)でもアマピアノの制作や音源の話などをしているので、ぜひチェックしてみてください。
audiot909
【Profile】プロデューサー/DJ。もともとはハウスを得意とするDJだったが、2020年からアマピアノの制作に着手。同年にはラッパーのあっこゴリラをフィーチャーしたシングル「RAT-TAT-TAT」を発売。同曲はSpotifyの公式プレイリストにピックアップされるなど、自主リリースながら異例のヒットを飛ばす。また音楽活動と並行して記事の執筆、南アフリカに居るプロデューサーへのインタビュー/対談、ラジオ出演など、さまざまなメディアにてアマピアノの魅力を発信しつづけている。
【Recent work】
『Willy Nilly』
Vinny Blackberry & audiot909
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
パッケージ版発売決定!
FL Studio 21 Fruity:19,800円|FL Studio 21 Producer:33,000円 |FL Studio 21 Signature:39,600円|FL Studio 21 Signature クロスグレード:25,300円|FL Studio 21 Signature 解説本バンドル:41,800円|FL Studio 21 クロスグレード解説本バンドル:27,500円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 8.1/10/11以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM