JBL PROFESSIONAL PRX912 レビュー:最大出力2,000WのクラスDアンプを搭載するPA用パワード・スピーカー

JBL PROFESSIONAL PRX912 レビュー:最大出力2,000WのクラスDアンプを搭載するPA用パワード・スピーカー

 ライブ・サウンドだけでなく高級オーディオからシネマ、設備用途など、幅広いラインナップを持つスピーカー・ブランドの老舗JBL PROFESSIONAL。可搬性、効率とコストのバランスに優れた同社のパワード・スピーカーPRXシリーズに、最上位モデルとして新たにPRX900シリーズが登場した。低域ドライバーの口径が異なる2ウェイ・パワード・スピーカー3機種(8/12/15インチ)と、パワード・サブウーファー2機種(15/18インチ)をラインナップ。今回は12インチの2ウェイ・パワード・スピーカー、PRX912をチェックしていこう。

ジャイロ・センサーでチューニングを最適化

 本機の第一印象は、前シリーズの屈強なデザインを踏襲しつつも、本体上部と側面左手にあるハンドルやエッジなどの手で触れる部分が滑らかに丸まっており、洗練された感じだ。サイズはやや縦長な印象で、前面のグリルは1.5mm厚の六角形パンチング・メタルで開孔率高め。パウダー・コーティングされた塗装も相まってシックな趣となっている。

 エンクロージャーは同社のEonシリーズにも採用されている、剛性を最適化したポリプロピレンとタルカムの混合素材で、内部はコンピューターでモデリングし強度と音響性能を向上させているという。重量は19.5kg。近年のパワード・スピーカーは軽すぎて、かえって箱鳴りや耐久性に不安を感じることもあるだけに、本機の重厚感は安心材料だ。

 底面には36mm径のポール・ソケットが2つ。一つはポール・マウント時に0°で、もう一つは−10°(下振り)で設置するためのものとなる。そのほか、市販のアイボルトでつり下げる、フット・モニターとして横倒しにするなど、多様に設置可能だ。内蔵のパワー・アンプはクラスDで、2,000W(ピーク)/1,000W(RMS)と余裕の出力。面白い機能として、ジャイロ・センサーを内蔵しており、スピーカーを配置する場所に応じてシステム・チューニングを自動的に最適化するそう。

12バンド・パラメトリックEQなどのDSP

 DSPは、アナログ2系統にAUXの入力も備えるミキサー、12バンドのパラメトリックEQ、DBX DriveRackテクノロジーによるフィードバック・サプレッション機能を搭載。ミキサーにはTHRU出力につなぐサブウーファー用の設定があり、同シリーズのサブウーファー、PRX915XLF、PRX918XLFとの併用に最適化されたプリセットも用意されている。

 無償でダウンロードできるiOS/Android端末用アプリ“JBL Pro Connect”は、Bluetooth接続で最大10台のスピーカーをコントロールできるアプリ。スナップショットやグルーピングなどのアプリ限定機能も含め、DSPの全機能にJBL Pro Connectから直接アクセス可能だ。

コントロール・アプリのJBL Pro Connect。iOS/Androidの端末に対応する(画面はAPPLE iPhoneで起動した状態)。ミキサーやEQなどのDSPをコントロールするだけでなく、各スピーカーやグループに名称を付けられるなど、管理システム機能も用意。PRX900シリーズや、PRX One、Eon700シリーズなどJBL PROFESSIONALのスピーカーを最大10台まで制御できる

コントロール・アプリのJBL Pro Connect。iOS/Androidの端末に対応する(画面はAPPLE iPhoneで起動した状態)。ミキサーやEQなどのDSPをコントロールするだけでなく、各スピーカーやグループに名称を付けられるなど、管理システム機能も用意。PRX900シリーズや、PRX One、Eon700シリーズなどJBL PROFESSIONALのスピーカーを最大10台まで制御できる

アプリにスピーカー設定を保存可能

 今回はオフシーズンということもあり、弊社スタジオ(Fujiyama Recordings音泉)の録音ブースにてチェック。実際の重量もさることながら、持ち方や取っ手の位置で重さの感覚が違ってくる。側面の取っ手が片側ということもあり、スタンド立てする際は重さを感じるだろうから注意してもらいたい。

 まずAPPLE iPadへJBL Pro Connectをダウンロードすると、本体背面の設定から簡単にBluetoothペアリングが完了。2台を使用し、アプリからL/Rのグループ設定も迷うことなくできた。最大10台接続可能とのことで、どのスピーカーをコントロールしているか確認したい場合は、アプリ上にあるLocateボタンを押すと本体前面下のLEDが点滅するので、見失うことなくチェックできるのは親切だ。

背面。向かって右側と、天面にハンドルを装備。中央上部の操作パネルには、左から電源ボタン(長押しでオフ)と内蔵アンプのクリッピングの状態を確認できるLIMIT LED、内蔵DSPなどシステム設定を表示するLCD、各種操作用MAIN/MENUノブとキャンセル操作のBACKボタンを装備。その下には、ch1とch2の入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)と、AUX入力(ステレオ・ミニ)があり、各端子上部にゲインつまみとシグナル・クリップのLEDを備える。ch1とch2の入力の下にそれぞれのTHRU出力(XLR)と、AUX入力の下にミックス出力(XLR)を装備する

背面。向かって右側と、天面にハンドルを装備。中央上部の操作パネルには、左から電源ボタン(長押しでオフ)と内蔵アンプのクリッピングの状態を確認できるLIMIT LED、内蔵DSPなどシステム設定を表示するLCD、各種操作用MAIN/MENUノブとキャンセル操作のBACKボタンを装備。その下には、ch1とch2の入力(XLR/TRSフォーン・コンボ)と、AUX入力(ステレオ・ミニ)があり、各端子上部にゲインつまみとシグナル・クリップのLEDを備える。ch1とch2の入力の下にそれぞれのTHRU出力(XLR)と、AUX入力の下にミックス出力(XLR)を装備する

抜けが良くクリアで高級感がある音質

 早速マイクをつなぎ“ワン・ツー”してみた。抜けが良いクリアな音質。特に高域と低域のつながりが良く、色付けの控えめなハイと程よく締まったローだ。パワーには余裕があり、今までのPRXシリーズの元気な第一印象とは違い、音質も相まって大人っぽい高級感を漂わせている。

 次に音楽を再生し音量をかなり出してみたが、アンプ的にはまだ余裕。音量が大きくなると若干250〜400Hz辺りで箱鳴りのようなピークが出てくるが、内蔵のEQでカットすると随分スッキリした。低音はタイトで、ライブやDJのメイン・スピーカー用途ならサブウーファーの併用もよいだろう。

 MONITORモードでは、前述のジャイロ・センサーによる自動チューニング以外に、マニュアル設定も可能。床置きの時の低域の膨らみを抑えることができる。

 従来のスピーカー内蔵のDSPは、カスタマイズできる範囲が限られているものも多いが、本機ではEQや外部出力などを細かく調節可能。スナップショットで各スピーカーの設定を保存できるのはうれしい。想定用途として、仮設PAだけでなく常設の音響にも配慮された設計になっていることを感じた。特に小さなライブ・ハウスやカフェなどではPAエンジニアが一人でスピーカーのチェックまで含めて作業する場合も多く、リモート操作可能なところも含めて便利だろう。

 別売りでトート・バッグや前面をジッパーで開口できる防水のスピーカー・カバーなども発表されており、アクセサリーが充実しているのは野外現場の支えになる。DJモニターとしてもPRX912のパワー感が有用であるのは間違いなく、弊社でも導入したいスピーカーの一つだ。

 

遠藤幸仁
【Profile】東高円寺にあるPAカンパニー、LSDエンジニアリングの代表でサウンド・エンジニア。Lillies and Remains、ELEKIBASSなどのライブ・オペレートを手掛けている。

 

JBL PROFESSIONAL PRX912

オープン・プライス

(市場予想価格:158,000円前後)

JBL PROFESSIONAL PRX912

SPECIFICATIONS
▪スピーカー構成:12インチ・ウーファー+1.5インチ・コンプレッション・ドライバー ▪アンプ出力:クラスD、2,000W(ピーク)、1,000W(RMS) ▪指向角:90°(水平)×50°(垂直) ▪最大音圧レベル:132dB ▪周波数特性:50Hz〜20kHz(−10dB)、65Hz~17kHz(−3dB) ▪クロスオーバー周波数:2.05kHz ▪外形寸法:394(W)×636(H)×332(D)mm ▪重量:19.5kg

関連記事