今月からこのコーナーを担当させていただくことになったORANGE RANGEのNAOTOです。皆さん、よろしくお願いします。AVID Pro Tools自体は20年ほど前から使用していて、当初は作曲やMIDIでの打ち込みをほかのDAWで行い、楽器のダビングなどの録音をPro Toolsで行うというスタイルでした。しかし、Pro ToolsのMIDI機能がバージョン・アップのたびに進化したことをきっかけに、10年ほど前からはPro Toolsだけで制作を完結させるようになりました。この連載では、ORANGE RANGEでの曲作りを例に、僕のPro Toolsの活用法を紹介していきたいと思います。
ドラムは大抵4つ打ちを仮で入れておく ギターもまずは打ち込みで
僕はPro Toolsの良さは、見た目がシンプルで分かりやすいところにあると思っています。新規でセッションを立ち上げたときの画面には、まっさらな白紙のイメージがあり、そこから自分が好きなように構築できるところが魅力です。僕はもともと、何かあらかじめ用意されているよりも、何もないところから作っていくのが好きなので、Pro Toolsはとても使いやすいDAWだと感じています。
とは言え、実際には作曲用のテンプレートを用意して利用しています。ただし、そこには4つのインストゥルメントトラックしか作成していません。1つはサンプラーのAIR Structure Freeをインサートしていて、生ドラムのプリセット“Studio Drums”を立ち上げています。残りの3トラックにはコード、メロディ、ハーモニーを打ち込むために、ソフト音源のAIR Xpand!2を用意しています。プリセットは“Grand Piano Eco”という容量の軽いピアノ音源を選んで、まずは音が出ればいいという選択です。
このテンプレートを立ち上げたら、ドラムは大抵4つ打ちのキックと裏打ちのハイハットだけを打ち込みます。リズムは後からパターンを変更するのが大前提なので、大枠のリズムだけがあればよいという感じです。
次にMIDIキーボードのM-AUDIO Keystation 61 MK3でメロディを弾いて打ち込んでいきます。僕は普段から、スマートフォンのボイスメモ機能でメロディを録りためているので、それをスマートフォンで再生して聴きながら、ピアノ音色で弾き直すという感じです。また大枠となるコード進行もこの段階で入れていきます。
このメロディ作りは大抵、サビから始めることが多いのですが、その過程でAメロをパっと思いついたり、イントロが生まれたり、Bメロが出来上がるということが多いです。ですから、そうしたほかのセクションのアイディアが出てくるまで、ひたすらサビを練り続けます。
また、サビのコード進行が大体決まってきたら、ほかのコード楽器系の音もガシガシ足していきます。足している途中で、コードを変えたくなったら変えて、また音を足してといった具合に、その辺りは並行して作業していくことが多いです。この段階ではとにかく思いついたものは、どんどん足していくというやり方です。
2022年9月にリリースしたORANGE RANGEのアルバム『Double Circle』に収録されている「トカトカ」という曲も、ここまでに紹介したような作り方をしているのですが、ピアノで大体コードが決まったら、次はギターを入れました。ギターが入る曲の場合は、大抵、これくらいの段階で入れることが多いです。しかし、本物のギターではなく、Xpand!2のギター音色で打ち込んでいます。コードの音の並びも鍵盤的な押さえ方なのですが、演奏のパターン自体はギターをイメージして打ち込むようにしています。もし、アルペジオ系の演奏にしたいときはアルペジオを打ち込みますし、「トカトカ」の場合はカッティング系の演奏を最初から考えていたので、スタッカート気味に弾きました。
なお、ディストーション系のギターを入れたいときは、打ち込みだと、どうしてもイメージから遠くなってしまうことが多いので、本物のギターを弾くことが多いです。
ギターを録ったら、仮のベースも打ち込んでおきます。エレキベース系ならXpand!2の“Full Finger Bass”、シンセ・ベース系だったらAIR Vacuumを使うことが多いです。
音源はハードウェアを中心に使用 コンプもかけ録りしてしまう
「トカトカ」の場合、ベースの次はシンセ・パッドを入れました。音源はNORD Nord Lead 2です。ORANGE RANGEの曲の音源はハードウェアが多いです。ソフト音源をあまり持っていないからという理由もあるのですが、ハードウェアのほうが使い慣れているということが大きいです。ただ、ほかのアーティストの方に楽曲提供する際には、大抵、ソフト音源を使います。それは後から修正やキーの変更などがあったとき、すぐに対応できるようにするためです。
ハードウェアを録音するときは、プリアンプかDIを通すのですが、音色によってBAKU PRO AUDIO BCA73+やMANLEY Slam!、AVALON DESIGN U5、AMEK System 9098 DMAなどを使い分けています。コンプもかけ録りしていて、SPL KultubeかAPI 2500を使います。
ここまで来たら、あとは特に順番は関係なく、思いついたパートをガシガシ録っていきます。「トカトカ」ではホーン系の音やオブリ的なシンセを重ねました。こうして重ねるだけ重ねてサビを作り、そこから派生したAメロやBメロなどを加えてワン・コーラスくらいのデモを作ったら、次にメンバーに来てもらって僕のプライベート・スタジオで仮のボーカルを録ります。
すると、その後にパートを“間引く”作業が発生します。なぜかというと、歌を入れてみると、その瞬間に、“これは要らないな”というパートが出てくるからです。やはり、歌を聴かせたいので、その妨げになるものは“アレも要らない、コレも要らない”となり、曲によってはパート数が半分くらいになることもあります。大抵、4割くらいは減ると思います。また、ラップ部分はボーカルが作ってくるので、録ってみて初めて、ラップのおいしい部分にパートがかぶっていることに気付く場合もあります。さらに、ボーカルから“ここは抜いてほしい”と言われることもありますね。さらに、ボーカルを録る段階で、キーを変更する場合もあります。それに備えて、ドラムとベースはこの段階まで、まだ仮のままです。
というわけで、次回は主にドラム・トラックの制作について取り上げてみたいと思います。お楽しみに。
NAOTO
【Profile】沖縄出身の5人組ロック・バンド、ORANGE RANGEのギタリスト/コンポーザー/プロデューサー。イアン・ブラウンへの楽曲提供をはじめ、リー“スクラッチ”ペリー、アキル(ジュラシック5)、ホレス・アンディらと共演。国内アーティストのプロデュースや楽曲提供も行う。本誌2023年1月号では沖縄にあるプライベート・スタジオを公開。ORANGE RANGEとしては2021年に結成20周年を迎え、2022年9月に12枚目のオリジナル・アルバム『Double Circle』をリリース。
【Recent work】
『Double Circle』
ORANGE RANGE
(スピードスターレコーズ)
AVID Pro Tools
LINE UP
Pro Tools Intro:無料|Pro Tools Artist:12,870円|Pro Tools Studio:38,830円|Pro Tools Ultimate:77,880円
(Artist、Studio、Ultimateはいずれも年間サブスクリプション価格)
※既存のPro Tools永続版ユーザーは年間更新プランでPro Tools Studioとして継続して新機能の利用が可能
※既存のPro Tools|Ultimate永続版ユーザーは、その後も年間更新プランでPro Tools Ultimate搭載の機能を継続して利用可能
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14.6以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10以降、INTEL Core I5以上
▪共通:16GBのRAM(32GBもしくはそれ以上を推奨)