UNIVERSAL AUDIO Volt 476P レビュー:ビンテージを踏襲するオーディオI/Oシリーズの最上位機種

UNIVERSAL AUDIO Volt 476P レビュー:ビンテージを踏襲した機能を備えるオーディオI/Oシリーズの最上位機種

 2021年にUNIVERSAL AUDIOより発売され、現在も大いに注目を集めるオーディオI/O、Voltシリーズ。今回は、シリーズ全7機種からフラッグシップ・モデルにあたるVolt 476Pをレビューします。UNIVERSAL AUDIOといえば、制作において必須アイテムと言えるUADプラグインが有名ですが、実機としてのアナログの魅力を掘り下げたVoltシリーズを試し、改めて同社の懐の深さを感じることとなりました。

マイクプリを有する4系統のコンボ入力端子を搭載

 Voltシリーズは、製品名の最初の数字が入力チャンネル数を表しており、ラック型のVolt 1、Volt 2、Volt 4、デスクトップ型のVolt 176、Volt 276、Volt 476、そして今回取り上げるVolt 476Pをラインナップ。本機は、マイクプリを有する4系統の入力端子(XLR/TRSフォーン・コンボ)をフロント・パネルに備えています。

 まず特筆すべきは、ルックスの完成度。往年の機材を想起させる木製サイド・カバーを配したデザインは、実機ならではの“物”としての所有欲を満たす上に、制作欲もしっかりかき立ててくれます。楽器や機材の見た目は、プレイヤーやクリエイターのパフォーマンス、モチベーションにダイレクトに影響する大切な要素。その意味においてVolt 476Pは、同価格帯オーディオI/Oの中でも抜きん出ているでしょう。

 梱包から取り出し、セットアップまでに3分とかからないアクセスの良さに加え、驚くほど軽量でモバイル性にも優れています。それでいて、リア・パネルにはMIDI入出力端子や、トップ・パネルからオーディオ・ソースを選べるモニターL/R出力に加え、4系統の出力端子も用意されています。デュオやトリオでの同時レコーディングやオンライン・ライブ、クリックとオケを分けた同期演奏システムなどとの相性も良いでしょう。フロント・パネルに全入力系統のコンボ端子を装備していることで、複数パートの接続もスムーズに行えそうです。

リア・パネル。左から電源スイッチ、5V DCアダプター用端子、USB-C端子、MIDI IN/OUT、モニター出力L/R(TRSフォーン)、ライン出力×4(TRSフォーン)を備える

リア・パネル。左から電源スイッチ、5V DCアダプター用端子、USB-C端子、MIDI IN/OUT、モニター出力L/R(TRSフォーン)、ライン出力×4(TRSフォーン)を備える

 機能面での最大の特徴は、同社を代表する真空管プリアンプ、610の回路をシミュレートした “VINTAGEモード”と、同じく同社の名機である1176を再現するコンプ “76 COMPRESSOR”を搭載している点です。それぞれのオン/オフと、76 COMPRESSORにはコンプの種類をセレクトするボタンのみ。パラメーターを細かく調節するつまみが無いという、あえてシンプルな仕様にすることで、より直感的で音楽的なアプローチを可能にしています。これまでありそうでなかった、まさに本機ならではの醍醐味でしょう。

トップ・パネル。左側には、入力チャンネルごとに76 COMPRESSORとVINTAGEのボタンを備える。76 COMPRESSORはVOC/GTR/FASTの3種類のコンプを選択可能。その下にゲイン調節つまみがある。右側にMONOボタン、モニター・ボリュームつまみ、モニター出力L/Rとヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)×2のソースを選択するMONITOR SOURCEスイッチを搭載。IN 1-2/3-4を選択するとダイレクト・モニタリングが可能となる

トップ・パネル。左側には、入力チャンネルごとに76 COMPRESSORとVINTAGEのボタンを備える。76 COMPRESSORはVOC/GTR/FASTの3種類のコンプを選択可能。その下にゲイン調節つまみがある。右側にMONOボタン、モニター・ボリュームつまみ、モニター出力L/Rとヘッドフォン出力(ステレオ・フォーン)×2のソースを選択するMONITOR SOURCEスイッチを搭載。IN 1-2/3-4を選択するとダイレクト・モニタリングが可能となる

音楽的な温かみと音圧が調和したサウンド

 ここから、ギター、ベース、シンセ、リズム・マシンを使って録音し検証してみました。まずはVINTAGEモードをオフに。コンセプト通り、アナログの質感や温かみがしっかり感じられます。レンジがそこまで広いというわけではないですが、クリアで癖がなく、非常に扱いやすい音という印象です。

 次にVINTAGEモードをオン。真空管によるサチュレーション効果に似た、いわゆる耳に痛くない中高域での主張が感じられました。特にギターやシンセではより高域の抜けが良くなった印象で、ネオ・ビンテージと言える音像です。

 そして本機の要である76 COMPRESSOR。こちらは、録音ソースに適した3種のアタック/リリース・タイムのプリセット、VOC/GTR/FASTの各ボタンを用意。先述の通りつまみが一切ない潔さで、コンプ設定の経験や知識がなくても正解と言える音へすぐに到達できます。直感的で素早い判断が可能な点に、非常に好感を持ちました。

 音質の方も、どのプリセット設定も“実戦的な音”になっており、実機の1176の特性をかなり再現している印象でした。どのソースでも明らかに音圧、押し出しが強くなり、音楽的で使いやすい音に瞬時に変換され、本機の使用時には基本的にデフォルトでオンにするべきと思えるほどです。個人的には、VOCに汎用(はんよう)性を感じました。

 最後にVINTAGEモードと76 COMPRESSORを同時に使用。ここで、Volt 476Pのコンセプトの完全理解に至ります。610の音楽的な帯域を凝縮する温かみと、1176の癖なく使える音圧感の見事に調和したバランスで、完成をイメージできる音像がスピーディに得られ、演奏パフォーマンスや制作のモチベーションを高める効果への相乗効果を生み出します。単にスペックの高さだけに終始せずに、それ以上に制作過程そのものを重視し、“良い作品を作ってほしい”という思いでデザインされたことが想像されます。

 通常、プロ・ユース・スタジオでのレコーディング・セッションでは、エンジニアがあらかじめプリアンプを通してコンプを施し、かけ録り状態で演奏に臨みます。つまりVolt 476Pでも、太く抜けの良いサウンドを聴きながら演奏するプロの録音環境を手軽に再現することができます。宅録でありがちな録音時の仮録り感から解放され、プロのスタジオ環境の疑似体験もできる。これこそがほかにはない本機のコンセプト、大きなメリットだと言えます。

 これだけでも十分ですが、CELEMONY Melodyne Essentialをはじめ、アンプ・シミュレーター、リバーブなど制作に必要なソフトやエフェクト・プラグインも付属しています。

 Volt 476Pは、音楽制作の王道を楽しみながら経験できるのはもちろん、プロ現場のニーズも十分カバーし得るオーディオI/O。音楽制作を支える頼もしいアイテムです。

 

佐藤元彦
【Profile】エレクトロ・ユニット、omni sightでベース、トラック・メイクを担当。企業CM、舞台、映画などに楽曲提供を行い、京都のレーベル、FLIGHT WORKSを主宰。多方面で活動中。

 

UNIVERSAL AUDIO Volt 476P

オープン・プライス

(市場予想価格:69,300円前後)

UNIVERSAL AUDIO Volt 476P

SPECIFICATIONS
▪接続タイプ:USB-C(USB 2.0) ▪ビット/サンプリング・レート:最高24ビット/192kHz ▪ファンタム電源ボタン:全入力を一括調節 ▪周波数特性:20Hz〜20kHz ▪ダイナミック・レンジ:112dB(マイク入力)、111dB(ライン/インスト入力)、110dB(モニター/ライン/ヘッドフォン出力) ▪付属品:USB-C to Aケーブル、5V DCアダプター ▪外形寸法:300(W)×142(H)×215(D)mm ▪重量:1.1kg

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.14以降
▪Windows:Windows 10、11(64ビット)
▪共通:INTEL、AMD、またはAPPLE Siliconプロセッサー
▪iOS:iOS/iPadOS 14以降

製品情報

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