今をときめくトップ・クリエイター7組に、作品で使用する珠玉のオーディオ加工テクを伺う当特集。第2回は有村崚(ありむら・りょう)によるソロ・プロジェクト、in the blue shirtに披露していただきます。
その1:Vocal 〜ボーカル・サンプルをカットアップし独自のメロディを再構築
参考楽曲
「Forward Thinking」(『Park with a Pond』収録) in the blue shirt(The Wonder Laundry)
【Time】0:00~
私のスタイルの基本は、1つの長いボーカル素材をカットアップしてメロディを作っていくというものです①。
PRESONUS Studio Oneでは、オーディオ・イベントの枠を固定したまま中身の波形部分のみを動かすことができるので、ソフト・サンプラーなどは使用せずひたすらコピー&ペーストして並べながら、長さなども適宜考慮しつつメロディの続きを作っていきます②③。
素材は長ければ長いほど良くて、さまざまな母音、音程、フローが含まれている方が、より歌っているかのように再構築していきやすいんです。ある程度、元のサンプルがどのような構成かを把握しておけば、作業を効率的に進められます。どのパートを作る際にも応用が効く方法です。
その2:FX 〜トラック分割&コピペでエフェクトを部分的にかける
参考楽曲
「Forward Thinking」(『Park with a Pond』収録) in the blue shirt(The Wonder Laundry)
【Time】0:00~
同一パートでトラックをたくさん作っているのですが、その理由の一つにトラックごとに異なる種類のエフェクトをインサートするためということがあります。それぞれWetを100%にしてエフェクトの音のみが鳴るようにしておくことで、エフェクトをかけたい部分をそのトラックにコピー&ペーストすれば、張り付けたところにだけエフェクトがかかるようにすることが可能です。
例えば4分音符や8分音符などのディレイ・タイムが異なるもの、フィードバックが短いものや長いものなど、効果が異なるディレイを挿したトラックを用意しておけば、いちいち元のトラックでオートメーションを書かなくても、再生箇所ごとに異なるディレイをすぐにかけることができます。さらに張り付けた方のオーディオ・イベントをトランスポーズすれば、そこだけ1オクターブ上のディレイをかけたりすることも可能です。ディレイだけでなくさまざまなエフェクトに使用できるので、思いついたらどんどんトラック数を増やしてみてもいいと思います。
その3:Vocal 〜トランスポーズをフル活用してアクセントとなるコーラスを作成
参考楽曲
「Forward Thinking」(『Park with a Pond』収録) in the blue shirt(The Wonder Laundry)
【Time】1:32~
ボーカル・パートのアクセントとなるコーラスを作る際にはトランスポーズを活用します。ここではメインのボーカルをトランスポーズで半音3つ上げているのですが、同じ部分を下に作ったトラックにコピー&ペーストして、そこでは半音9つ下げた値に設定しています。1オクターブ上げたり下げたりというのは本当によく行っていて、重ねたら面白いだろうなと思ったら試してみます。コピー&ペーストしてトランスポーズした部分を後ろにずらせば、異なるピッチで輪唱しているようにすることも可能です。そのほかハモリを作る際には、ピッチ補正ソフトCELEMONY Melodyneも使用しています。
私はトランスポーズの調節のショートカットをカスタマイズして、ワンタッチで値を動かせるようにしているほど多用しています。もちろんボーカルだけでなくいろいろなパートでも有効です。
その4:Drums 〜ドラム・パートの1つをカットアップして有機的なリズムを作る
参考楽曲
「Forward Thinking」(『Park with a Pond』収録) in the blue shirt(The Wonder Laundry)
【Time】0:25~
この曲のドラム・パートは、ハイハットのみループ・サンプルをカットアップして作っています。こちらもボーカル同様に長めのサンプルを使用して細かくカットして並べていきますが、ここでは波形を参照にすることで強弱を視覚的に判断しながら配置することができます。
元になったループが人力でたたいているハイハットなので、カットアップすることで、有機的だけれども人間的でないという不思議なビートになるんです。クローズとオープンのハイハットを用意して自分で並べてベロシティを調節するなどしても、この感じを出すのはなかなか難しいですね。
ほかの曲ではスネアだけを同様に作って、ゴーストノートを上手に鳴らしているようにもしています。全部のドラム・パートを同じ方法で作ってしまうよりも、ワンショットのサンプルでビートを作った上でどれか一つをフレキシブルなパターンにするからこそ、より面白いリズムが出来上がると思います。
in the blue shirt
【Profile】1991年生まれ、大阪在住、有村崚(ありむら・りょう)によるソロ・プロジェクト。 国内外のベッドルーム・ミュージックに強い影響を受け、2012年より楽曲制作を開始。自身の作品のほか、TVドラマの劇伴、CMやWeb広告の音楽も手がける。