A-bee(アービー)が明かす珠玉のオーディオ加工テクニック

A-bee(アービー)が明かす珠玉のオーディオ加工テクニック

オーディオ加工とは、録音した素材やサンプルなどのデータに手を加えることで、楽曲がキラリと光るアレンジ・テク。今をときめくトップ・クリエイター7組に、実際の作品で使用する珠玉の技法を伺いました。参考曲と再生時間も紹介しているので、楽曲を聴きながら読んでみてください。ここではサウンド・プロデューサーのA-bee(アービー)にテクニックを披露していただきます。

その1:Vocal 〜MIDIをガイド・メロディにしてボーカル・チョップを作る

 参考楽曲 

「Layered Line」A-bee(VooV recs / U/M/A/A Inc.)
【Time】0:00~

 自分で作ったメロディをソフト・シンセで打ち込み、それをガイドとしながらボーカル・サンプルを当てはめていきます。いろいろな言葉をメロディとして並べたかったので、この曲では3トラック用意してそれぞれ異なるサンプルを準備しました

ガイドとなるMIDIトラック(赤枠)とボーカル・サンプル(青枠)を準備

ガイドとなるMIDIトラック(赤枠)とボーカル・サンプル(青枠)を準備

 打ち込んだMIDIトラックと同じ再生位置に、カットしたボーカル・サンプルを並べます。メロディとピッチが合うようにトランスポーズで調節してください。

MIDIトラックをガイドに、ボーカル・サンプルを当てはめる。1ノートずつループしながら、トランスポーズでサンプルのピッチをメロディに合わせていく

MIDIトラックをガイドに、ボーカル・サンプルを当てはめる。1ノートずつループしながら、トランスポーズでサンプルのピッチをメロディに合わせていく

 あとはパンを振ったり、エフェクトをかけたりしたトラックに並べていきます。パズルのような遊び感覚で作る、メロディ先のボーカル・チョップというようなイメージですね。

出来上がったメロディのサンプルを、パンやエフェクトを分けたトラックに並べていく

出来上がったメロディのサンプルを、パンやエフェクトを分けたトラックに並べていく

その2:Drums 〜フィルインを際立たせるリバーブとリバースの合わせ技

 参考楽曲 

「Layered Line」A-bee(VooV recs / U/M/A/A Inc.)
【Time】0:34~

 まずはフィルイン部分のドラム・トラックをまとめてバウンスします。出来上がったフィルインのミックスをリバースして、そのトラックにWetを100%にしたリバーブを挿し、リバーブをかけた状態で新規トラックに書き出し。リバーブの余韻を含めたいので、少し長めに書き出します

フィルインのパラ・データ(黄枠)をバウンスしてミックスを作成しリバース(赤枠)した後、Wetを100%にしたリバーブをかけてオーディオ・トラックに書き出す(青枠)

フィルインのパラ・データ(黄枠)をバウンスしてミックスを作成しリバース(赤枠)した後、Wetを100%にしたリバーブをかけてオーディオ・トラックに書き出す(青枠)

 そして2つのトラックをもう一度リバースすると、ミックスの方は元に戻り、リバーブをかけた方はリバース・ゲートのようなトラックになります。この2つを重ねて再生すると、幻想的な広がりのあるフィルインの完成です。

2つのトラックをもう一度リバース。2ミックスはリバーブをオフにして、リバーブをかけた方は再生位置を後ろに合わせる

2つのトラックをもう一度リバース。2ミックスはリバーブをオフにして、リバーブをかけた方は再生位置を後ろに合わせる

 あとは曲の展開に合わせてカットアップしてみてください。リバーブをかけてオーディオに書き出したトラックをカットアップすると、残響音がピタッと止まるのでタイトなサウンドになります

さらにカットアップしてグルーブを調整

さらにカットアップしてグルーブを調整

 フィルイン自体は曲のほかの部分にもあるのですが、1箇所こういったエフェクティブな効果を付けることで同じ素材でも趣がかなり変化します。ボーカルに使用してみても面白いですよ。

その3:Drums 〜スネア・ロールの抑揚に合わせてオートメーションでゲインを強調

 参考楽曲 

「Layered Line」A-bee(VooV recs / U/M/A/A Inc.)
【Time】0:45~

 徐々に盛り上がるスネア・ロールを、より強調するテクニックを紹介します。ソフト・サンプラーのNATIVE INSTRUMENTS Batteryで打ち込み、曲の展開に合わせて徐々にピッチが上がるようにオートメーションを書きました。

 それからオーディオに書き出し、さらにオートメーションでゲイン・エンベロープ(波形の音量カーブ)を書いています。フェードインするように上げていき、最後にさらにもう一段階上がるようにしました。こうしてゲインのオートメーションを書かないと、せっかく作成したスネア・ロールが割と単調な印象になってしまうんです。

ピッチを段階的に上げたスネア・ロールをオーディオに書き出し。ゲイン・エンベロープを徐々に上げて強調している

ピッチを段階的に上げたスネア・ロールをオーディオに書き出し。ゲイン・エンベロープを徐々に上げて強調している

 MIDIでもできることですが、オーディオに書き出してからやる方が波形自体の動きも見えるので分かりやすく、素早く行えるのでやりやすいですね。自分はMIDIで打ち込んで作ったパートも、すぐにオーディオに書き出しています。トラックを作りながらミックスも同時に行っているようなイメージですね。

その4:Drums 〜コピー&ペーストとストレッチで感覚的にパターンを作る

 参考楽曲 

「Layered Line」A-bee(VooV recs / U/M/A/A Inc.)
【Time】0:54~

 オーディオ・エディットの利点として、MIDIよりも感覚的に操作でき、視覚的にも分かりやすいということがあります。ここでは、同一のドラム・ループを元にして作ったキックをカットアップして、ワンショットのように置いたり、サンプルを部分的に生かして長めに配置するなどして作っています

キックのサンプルをカットアップしながら、好みの長さに調節してリズム・パターンを作成

キックのサンプルをカットアップしながら、好みの長さに調節してリズム・パターンを作成

 PRESONUS Studio Oneでは、オーディオ・イベントの右下辺りにカーソルを合わせてMacのキーボードのOption(WindowsではAlt)を押すと時計のマークが出てくるので、クリックしながら前後に移動するとサンプルをタイム・ストレッチできます②。こうすれば、リリースの長い音色にしたい場合にサンプルを別途用意することなく、同一のサンプルを違和感なく直感的に配置することができます。今ではどのDAWでも同様の機能が備わっているかと思いますので、ぜひ試してみてください。

タイム・ストレッチでリリースを伸縮(赤枠)

タイム・ストレッチでリリースを伸縮(赤枠)

 

A-bee(アービー)

A-bee(アービー)
【Profile】静電場朔やimmiとのユニットDiAN(DiAN RADiO)のサウンド・プロデューサー。作編曲家として、嵐、Hey! Say! JUMPらに楽曲提供のほか、アニメ『スター・ウォーズ:ビジョンズ』の劇伴も手掛ける。2023年1月に約5年ぶりのソロ名義シングル「Layered Line」を発表。

【特集】オーディオ加工に首ったけ〜7組の匠が明かす珠玉のテク

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