現代の音楽制作に無くてはならないソフト音源。オールマイティに使えるものから特定のジャンルを象徴する製品、他者との差別化を図れる斬新な音源までそろい、まさに百花繚乱です。そうした数多くの選択肢の中から、プロの現場でリアルに重宝されているものとは何なのでしょうか? 本特集では、著名クリエイター18名に“マイ定番ソフト音源”を挙げていただき、その活用方法を語ってもらいます。
青木征洋
[青木征洋]カプコンを経て、フリーの作編曲家/プロデューサーに。『ストリートファイターV』の作曲のほか、アジアや欧州のタイトルも手掛ける。ギタリストでもあり、レーベルViViXを主宰しつつギター・インストの流布に努める
SPITFIRE AUDIO BBC Symphony Orchestra Professional
SPITFIRE AUDIO BBC Symphony Orchestra Professional
(107,090円/7月15日現在。為替レートにより変動)
英国BBC交響楽団のサウンドを収録したオーケストラ音楽用のサンプル・プレイバック音源。サンプリングはMaida Vale Studiosにて行われ、弦/木管/金管/打楽器を含む全55の楽器がソロやグループで収められています。旋律楽器については、33のレガートをはじめ全418のテクニックを収録。各楽器(パッチ)には20のマイク・シグナルが用意され、デッカ・ツリーのセッティングで収めた音、ホール後方のバルコニーから収音したもの、近接マイク、かぶりの音、楽団上部に設置した2つの無指向性マイク(Dolby Atmosミックス向け)などバリエーション豊か。サラウンド・ミックス制作時にも高度な一体感を出すことができます。
ヨーロピアンでクラシカルな上品さをたたえる音
僕が打ち込みに求める音響表現を完備しています
SPITFIRE AUDIOが満を持してリリースした新世代のオーケストラ音源=BBC Symphony Orchestra Professional(以下BBCSO)。ゲーム音楽の制作、またはTVドラマや映画の劇伴などにも幅広く使えると思います。収録されているサウンドはヨーロピアンでクラシカルな上品さをたたえ、いわゆるハリウッドの明るくはっきりした音とは対照的。サンプルのクオリティが粒ぞろいで統一感もあり、僕が打ち込みに求める音響表現を完備しています。
このBBCSO、パッチごとに膨大な数のマイク・シグナルを備えているのですが、僕は実際のオーケストラ・レコーディングの再現にとどめています。奇をてらわずに使うのが一番だと思うのです。またストレージの処理速度が鍵になるため、NVMeのSSDをRAIDで使用。ホストDAWで完結させるとマイクの数(=チャンネル数)が膨大になってしまうので、ミキシング&ホスティング・ソフトのVIENNA SYMPHONIC LIBRARY Vienna Ensemble Proで同じ属性のマイクを1つのチャンネルにまとめてからDAWへ流し込むようにしています。
サンプルの併用については、他社のソロ弦楽器または室内楽サイズのストリングス音源をレイヤーすることもあります。生演奏を重ねる際も弦だけでよく、サイズの目安も同程度。ただし、その場合は生音を主体にしないことがポイントです。土台はあくまでBBCSOで作り込み、存在感の部分を生で軽く足すくらいがちょうどよいでしょう。またBBCSOのダイナミクスを生に近い状態に作り込む必要があるため、デモの段階から打ち込みに気を配ってみるのがよいと思います。
この曲で活躍!
EP『Veiled』に収録の楽曲「Unveil」の弦は、すべてBBCSOです。僕の担当個所は弦と金管の編曲でしたが、曲の構造が元から複雑だったので、あまり奇妙なハーモニーは入れずシンプルにアレンジ。その分、BBCSOのサンプルのクオリティが顕著に表れていると思います。
製品情報
DAWに立ち上がる“マイ名機”の使い方
これが私の定番ソフト音源!
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