現代の音楽制作に無くてはならないソフト音源。オールマイティに使えるものから特定のジャンルを象徴する製品、他者との差別化を図れる斬新な音源までそろい、まさに百花繚乱です。そうした数多くの選択肢の中から、プロの現場でリアルに重宝されているものとは何なのでしょうか? 本特集では、著名クリエイター18名に“マイ定番ソフト音源”を挙げていただき、その活用方法を語ってもらいます。
牧戸太郎
[牧戸太郎]ザ・ビートルズの音楽をきっかけに、中学時代より宅録を始める。東京音楽大学を卒業後に作編曲家として活動を開始し、ドラマや映画音楽のほか、竹内まりや、Hey!Say!Jump、King & Princeなどの編曲も手掛けている
EASTWEST QL (Quantum Leap) Fab Four
EASTWEST QL (Quantum Leap) Fab Four
(33,190円)
ザ・ビートルズの作品に携わったエンジニア、ケン・スコット氏を招いて制作されたサンプル・プレイバック型のマルチ音源。23種類のビンテージ・ギター、そしてVOXやFENDERなどのビンテージ・アンプ・サウンドを、最大16のベロシティ・レイヤーでマルチサンプリングしています。ベースはHOFNERやRICKENBACKER、ドラムはLUDWIGのセットとZILDJIANのシンバルを使用し、コンソールは真空管のEMI REDD、EMI TG12345、プリアンプはEMI Redd.47など、ビートルズと同世代/同種の機材をセレクト。ダブル・トラッキング効果を生み出すテープ・シミュレーター“ADT”も搭載していて、当時考案された録音技法を疑似的に再現できます。
希少なビンテージ機材による個性あふれるサウンド
ビートルズの音楽と録音技法への理解が深まります
最初は遊び心で購入したものの、今ではこのサウンドありきで楽曲を作るほどお気に入りです。ザ・ビートルズのような楽曲のサウンドが得意な音源ですが、モータウン系、アメリカン・オールディーズ系など、工夫次第で幅広い音楽スタイルにマッチすると思います。実際に使用してみると想像以上に扱いやすく、シンプルなユーザー・インターフェースでありながら各パラメーターの表現力が高い。ボーカル曲や劇伴で奥の手のように使っています。
この音源は、希少なビンテージ楽器がザ・ビートルズのレコーディングで使われたコンソールやプリアンプで録音されたそうです。ほかの定番の音源と比較した際に一線を画す強い個性を持っており、使い手のセンス次第でオリジナリティあふれるサウンドを構築できます。また、当時のザ・ビートルズのレコーディングやアレンジの技法への興味と理解がさらに深まるでしょう。
この音源で組んだドラム・トラックに、真空管コンプDRAWMER 1960を通してみたところ、スネアのスナッピーやタムの余韻などのザラザラした部分が真空管の作用で良いあんばいに引き立ち、予想以上に良い結果が出たのです。さらにこれはまだ実験段階ですが、各トラックを個別にアナログ・テープに録音して、テープ・コンプレッションを付加しても良いと思います。また、カセット・デッキのノイズ・リダクションをエフェクターのように使用する手法はとても面白い効果が出るので、早く実際の制作で試してみたいです。ハードウェアを併用すると、可能性が何倍も膨らむ音源だと思います。
この曲で活躍!
成瀬さんも私もザ・ビートルズの大ファンなので、ギター、ハープシコード、メロトロンなど、本製品の音色を多数使用しました。近年のポール・マッカートニーのソロ作品のようなサウンドを狙ってアレンジしています。まさにザ・ビートルズの「Because」で鳴っているような音なので、一般的なハープシコードやクラビネット、フルートの音色を加工していくのではこの質感にたどり着くのは難しいです。 これのためだけにでも、QL Fab Fourを購入する価値があったと思える音色です。
製品情報
DAWに立ち上がる“マイ名機”の使い方
これが私の定番ソフト音源!
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