「MODARTT Pianoteq 5 Pro」製品レビュー:フィジカル・モデリング技術による自由な音作りが可能なピアノ音源

MODARTTPianoteq 5 Pro
MODARTT Pinoteqは、モデリングという手法を採ることで、本体容量は小さいながらも大容量サンプル音源に引けを取らないピアノ・サウンドを鳴らせることで定評のある音源です。Mac/Windows対応で、スタンドアローンのほか、VST/Audio Units/RTAS/AAXプラグインとしても動作します。今回そのPianoteqがバージョン5にメジャー・アップデートしたので早速チェックしてみましょう。

現行のモデリング・ピアノを改良
オリジナルのK2を新たに搭載


サンプル音源が実際のピアノの音をサンプリングして再生しているのに対し、Pianoteqでは“このような大きさのピアノに、このような弦が張ってあって、このような固さのハンマーで、弦のこの場所をたたく”といった状況にのっとって演算を行い、リアルタイムに音を生成しています。サンプリングはある状況の録音なので、演奏時に状況が無限に変化し得る場合はその変化に対応させるのが大変です。一例としてピアノを弾いたときにペダルを踏んでいたら? ペダルを踏めば弦のミュートが外れるので、弾いた鍵盤の音と共鳴する弦は鳴り出します。そして実際の演奏では和音で弾かれた鍵盤それぞれの音程相互の干渉や、ペダルの状態によって弦の共鳴関係も無限に変化します。こういったさまざまな状況を想定しながら作っていくとサンプル音源が巨大化してしまうのもやむを得ませんが、それでもすべての状況で自然に聴こえるようにすることは難しい。それに対してPianoteqでは、そもそも状況に応じた音をその場で生成しているので、ピアノとして自然な振る舞いが期待できます。ここがモデリング方式の強みと言えるでしょう。今回のバージョン・アップではモデリング自体の質も見直され、D4というSTEINWAYのモデリングは、前バージョンよりも音が前に出てくる感じがします。新たに加わったK2というピアノはMODARTTが今までの解析技術を元に作り上げたオリジナルのモデリング。明るさと華やかさを持つD4と、落ち着いた品の良さとサステイン時の量感にあふれたK2は好対照で、どのようなシチュエーションのオケでも使いやすいでしょう。さらに有料のアドオンで音色を追加することもでき、RHODESやWURLITZERなどのエレピやClavinet、ハープシコードやピアノが今の形になる前のフォルテピアノといった古楽器、ビブラフォンなどのマレット系やチューブラーベルなどの金物まで、“何かをたたいて音を出す”系の音程のある楽器を広く網羅する音源へと進化しています。 

15種類のマイクをモデリング
自由な設定で配置可能


今回の目玉の一つがNEUMANN U87、DPA 4007/4011/4006/4041、AKG C414、SCHOEPS CMC6のMK2/MK4、ROYER SF12/24、AEA R84の各マイクをモデリングした点。コンデンサーとリボン・マイクに特化しているのがピアノ音源らしいですね。指向性が選べるU87とC414には無指向/単一指向/双指向を用意。これらのマイクをピアノのグラフィック上に好きに配置し、ミックス・バランスを設定することができます。気になるモデリングの出来、筆者は上記のマイクをすべて試したことがあるわけではありませんが、U87やC414、CMC6あたりの聴き慣れたマイクを交互に切り替えてみると“あぁ、確かにこんな感じに変化しそう”と思わされるぐらい雰囲気はつかんでいます。指向性のあるマイクをオンでマイキングして近接効果により下を膨ませたり、クラシック風に無指向性のマイクをオフ気味に置いてみたりと、実に楽しくかなり遊べました。まぁ、ユーザーとしてはモデリングが実機に似ているかというより、過剰なエフェクトで強引に音作りをするよりもずっと自然にピアノのキャラクターを変えられる点がいいですね。 今回のバージョン・アップで収音部分が強化されたことにより、特徴であったピアノ本体の自由な設定はもちろん、音の出口までを一貫してユーザーが幅広くコントロールできるようになりました。音の出口という点ではEQ/Comp/Reverbといった定番から、エレピにマッチングするTremolo/Wah/Ampなどのエフェクトも充実。個人的には、微小なタッチや響きといった楽器の挙動がよく見える小編成のオケで使ってみたいですね。もちろん大編成やラウドなオケの際にはアドオンで用意されているロック・ピアノのモデリングに、オンマイクでハンマーのアタックを強めに収音して、内蔵エフェクトのコンプで仕上げる……なんて芸当も可能ですよ。自分の楽曲制作にマッチさせやすい自由度の高いピアノ音源を探している人にはお薦めできるソフトです。  (サウンド&レコーディング・マガジン 2014年8月号より) 
MODARTT
Pianoteq 5 Pro
58,000円
▪Mac:Mac OS X 10.5〜10.8 ▪Windows:Windows Vista/7/8 ▪対応フォーマット:VST、Audio Units、RTAS、AAX、スタンドアローン