バイノーラルが再び注目を集めている 〜特集・バイノーラルで作る音楽の未来(1)

f:id:rittor_snrec:20201021155026j:plain

ヘッドフォンやイアフォンだけで、立体的なサウンドを再生できるバイノーラル。近年はASMRやオンライン・ゲームの流行、そしてイマーシブ・オーディオの発展といった背景によって、再び注目を集めてきた。そして最近では、ポップ・ミュージックのフィールドでもこの立体的音響効果を取り入れる例も増えてきている。この特集では、既にバイノーラルを制作に取り入れているクリエイター/エンジニアにインタビュー。バイノーラル音楽制作で押さえておきたい知識や使えるツール、効果的なアプローチまでを広く紹介していきたい。

text:編集部

 

ヘッドフォンが主流の今だからこそ
バイノーラルが空間演出に有効

 バイノーラル(binaural)とは、“両耳の”という意味。人間の耳は、たった2つの耳で左右の定位だけでなく前後や高さまで含めた方向と距離、広がりを認知できる優れた器官だ。録音物でもそれを再現したいというのが、音にかかわる多くのクリエイターが長年抱いていた望みであった。

 

 その試みとして、よく知られているものがバイノーラル録音だ。人間の頭部を模した模型の両耳にマイク・カプセルを仕込んだダミー・ヘッド・マイク(あるいは実際の人間が両耳に仕込んだ小型マイク)でステレオ録音を行い、それをヘッドフォンやイアフォンで再生すれば、あたかも実際に耳で聴いたような立体感が再現されるというもの。これは確かに効果があり、近年では一部のASMR作品で使われている。ASMR(Autonomous Sensory Meridian Response)とは、ゾワゾワとした反応を起こさせるような刺激のことで、一種のリラックス効果を求めて好まれてきたが、マイクに近付けて物音を立てて収録されることが多く、より人間の耳に近いダミー・ヘッドが好まれてきた。

 

 一方で、ダミー・ヘッド・マイクは、マイクを向けた方向が後から修正しづらいことやマイク・カプセルの特性、なによりワンポイントで録音する必要があることなどの理由で、応用が難しい。音楽を録音するときにバンドへ1組のステレオ・マイクを向けるより、マルチマイクで録った方が後からさまざまな処理ができることからも、想像できるだろう。普通に録音した素材をバイノーラル化する試みも実は古くから行われており、DESPER Spatializer 8やROLANDのRSSなど、立体音場を生むハードウェアも知られていた。しかしこれらの専用プロセッサーは高価で、誰にでも手が届くものではなかった。

 

 あらゆるサウンド制作がDAWベースとなった現在、こうしたプロセッサーと同様の効果が得られるソフトウェアも多い。例えば対戦型オンライン・ゲームでは、プレイヤーはヘッドフォンで敵が左後方から攻撃してくるのを認知できるというのは、SEをバイノーラル・プロセッシングして定位させたものだ。また、本誌でたびたび取り上げている、Dolby Atmosや22.2chなどに代表されるイマーシブ・オーディオも、マルチチャンネル・スピーカーでの再生システムが用意できるリスナーが限られる以上、ヘッドフォンやイアフォンでのバイノーラル再生がリスニング・スタイルの一つとして注目を集めているのが現状だ。ヘッドフォン/イアフォンでのリスニングが増えた今だからこそ、バイノーラルも再注目されているとも言える

 

イマーシブ制作環境の成熟に伴って
バイノーラルに向いたツールが増強

 イマーシブ・フォーマットが確立してきたことやVR作品が増えてきたことで、バイノーラル録音やミックスで注目されてきたのがAmbisonicsだ。Ambisonicsとは、ステレオ音源がL/RやM/Sという2chで左右の定位情報を持つのと同様に、左右/前後/上下の3D情報を持つフォーマット。1次のAmbisonicsは4chだが、2次=9ch、3次=16chとチャンネル数が増える従って、その解像度は増していくことになる。バイノーラル・プロセッシングを行う前に、DAW内でサウンドの3D定位を示すフォーマットとして利用されることが多い。また、イマーシブ制作ツールのプレビュー用にバイノーラル・プラグインが含まれている例も多く、Ambisonicsからバイノーラルへの変換も容易となってきた。

 

 こうした下地もあって、音楽にもバイノーラルを取り入れる例が増えてきた。中でも脚光を浴びたのは、ザ・ウィークエンドが「After Hours」(『After Hours』収録)で随所にノイズをバイノーラル処理し、頭の周りを動くようなサウンドを聴かせ、話題となっている。

f:id:rittor_snrec:20201021155227j:plain

2020年5月にリリースされたザ・ウィークエンドの最新作『アフター・アワーズ』。同作に収録された楽曲「アフター・アワーズ」では、バイノーラル技術を使用したと思われるノイズが随所にちりばめられるている
After Hours

After Hours

  • ザ・ウィークエンド
  • R&B/ソウル
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

 

 これに先駆け、国内でも早々からバイノーラルを音楽制作に取り入れているクリエイターやエンジニアが多数居ることに本誌は注目。それぞれのスタイルから見えるバイノーラルのレコーディングやミックスのアプローチをうかがった。バイノーラルが新しい音楽制作の扉を開く、新しいアプローチになればと願っている。

 

本特集の続きは近日公開予定です。

 

『特集・バイノーラルで作る音楽の未来』は、サウンド&レコーディング・マガジン 2020年12月号でもお読みいただけます。

 

【特集】バイノーラルで作る音楽の未来

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

 

関連記事

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp

www.snrec.jp