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DSD+4K映像も可能なストリーミング配信技術、KORG Live Extremeの実証実験と技術解説

  • 松本伊織

4K映像とともに音やせやブロック・ノイズの無いサウンドを堪能

 去る10月25日、IIJ、キングレコード、KORGの3者にとる4K映像+ハイレゾ音源によるインターネット・ライブ配信の実証実験が行われた。11月8日(日)までは下記のURLでオンデマンド視聴が可能だ。

https://www.uhd.st/

 

 会場となったのはキング関口台スタジオ。Studio 1からKORGの開発したストリーミング・システム、Live Extremeを使い、インターネットを通じて配信。もちろん一般の視聴が可能だが、メディア関係者はその映像と音声を同Studio 2で受けたものを視聴することとなった。

 

 配信に先立ち、キングレコードの竹中善郎氏があいさつ。IIJとキングレコードでは以前からクラシックの音声ストリーミング配信で関係があり、KORGの技術を交える形で映像と高音質配信の方法を検討してきた、その中で新型コロナ・ウィルス禍に世界が陥り、配信の需要が増えてきた中で、KORGがLive Extremeを発表。この実証実験を行うことになったという。

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キングインターナショナル代表取締役社長の竹中善郎氏。キングレコードやキング関口台スタジオでも要職を務める

 今回の演目は、NHK交響楽団主席ホルン奏者の福川伸陽によるマーラー「交響曲第5番 第4楽章 アダージェット」と、ピアニスト阪田知樹によるショパン「ロマンス」(パラキレフ編曲)、ロベルト・シューマン「春の夜」(リスト編曲)。Studio 2での視聴は、いったんインターネットに配信された4K映像+DSD 5.6MHzをコンピューターで受け、VLCで再生。ディスプレイは4K対応のPANASONIC製65インチで出力、音声はKORG Nu 1からアナログで出力し、スタジオのラージ・モニターGENELEC 1035Bで再生した。

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Studio 2のコントロール・ルームで視聴。ラージ・モニターGENELEC 1035Bの間にはPANASONIC製の65インチ4Kディスプレイを設置

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Studio 1からの映像と音声はインターネットを経由し、このWindowsマシンで受信

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オーディオ・インターフェースにはKORG Nu 1を使用。スタジオでの視聴はDSD 5.6MHzで行われた

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福川伸陽によるマーラー「交響曲第5番 第4楽章 アダージェット」。事前に収録した自身の演奏と指揮映像に合わせた8重奏で、アルバム『孤高のホルン〜映画の世界』に収録したバージョン

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阪田知樹はショパン「ロマンス」(パラキレフ編曲)、ロベルト・シューマン「春の夜」(リスト編曲)を演奏。ピアノのレンジ感がよく聴こえ、動画配信でよくある圧縮での音やせやブロック・ノイズ感は皆無だった

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左から阪田、福川。STEINWAYのグランド・ピアノに立てられているのはNEUMANN U87×2

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オフマイクには無指向に設定したNEUMANN M149のLCRツリーを設置



「ハイレゾ配信に映像をプラスする」という発想で誕生

 演奏のライブ配信の後、KORGの大石耕史氏、IIJの冨米野孝徳氏による技術解説が行われた。

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コルグ 技術開発部 大石耕史氏

 コロナ禍の現在、ライブ映像のストリーミングが増えているが、YouTube LiveではAAC-LC 128kbps推奨、VimeoはAAC-LC 192kbpsと、音声に使われるビット・レートは必ずしも高くない。そうした点への改善ソリューションといて、MUSIC/SLASH(AAC-LC 384kbps:年内に24ビット/96kHzサービスを開始予定)、U-Next Premium Live Experience(AAC-LC 448kbps)などのサービスが登場してきた。以前から高音質での音楽配信/ストリーミング・システムを手掛けてきたKORGが、そうした流れが進む中で提案するのがLive Extremeだと大石氏は語る。

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当日の発表資料より。映像配信での音質向上が進み始めている中、KORGからの提案がLive Extreme

 

 実施にKORGとIIJは、2015年からDSDでの音声配信実験を開始。東京春祭マラソン・コンサートやベルリン・フィルなどのDSD音声中継を行ってきた。大石氏はそうした配信に携わっていく中で、「音声のみのDSD配信と、圧縮音声による映像配信、その二択になってしまうのではなく、映像と音質のクオリティを両立したい」と考え、4K映像とハイレゾ音声の両立を模索することになったという。

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2015年に行ったDSD 5.6MHzのライブ・ストリーミング実験

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上記の実験後、ハイレゾでのストリーミング・サービスはIIJによってPrime Seatというサービスとして展開されている


 一方、IIJでは昨年、4K映像+ハイレゾ音声での配信を行ったが、その中で映像と音声の遅延補正や、コンバート、エンベッド(映像への音声埋め込み)、エンコードなどに大量の機器が必要だという課題も出てきたという。

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2019年に行われたIIJによる4K+ハイレゾ・ストリーミングのシステム概略図。コンバーター、エンベッダー、エンコーダー、ストリーミング・サーバーなどが多数必要となっていた

 そうした課題を解決すべく、Live ExtremeではWindowsマシンで動作するソフトウェアにこれらの機能を集約。コンピューターのスペックが許すのであれば、複数のフォーマットにも1台で対応できるようになった。

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Live Extremeのシステム概略図。上図で必要とされていたハードウェアの多くをソフトが担うことになり、システムがシンプルに

 冨米野氏は「ネットワークを扱う立場だと、システムの冗長化が前提。冗長化をする際に、機材の量が多いとそれだけシステムが煩雑になり、トラブルの原因にも成り得る。ソフト化でシンプルになったことにより、コンピューター1〜2台で済むようになった」とコメントした。また、UDPやRTMPのような中間プロトコル無しに、ユーザーが視聴する形式でHTTPサーバーに直接映像+音声をアップできるのも特徴となっている。

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IIJの冨米野孝徳氏

 そのエンコードを司るソフトが、KORG Live Extreme Encoder。Windows 10(64ビット)上で動作し、CPUはQuickSync Videoに対応したINTEL製Coreプロセッサーを動作条件とする。これは、CPUはオーディオ処理に専念させ、映像はチップ内のハードウェアに扱わせるためとのこと。一方、オーディオ・インターフェースはASIO対応であれば選択は自由だ。

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Live Extreme Encoderの概要

 ここで大石氏が強調していたのは、Live Extremeは動画配信をハイレゾ化したものではなく、高音質オーディオ配信システムに動画を追加したものであること。オーディオ・クロックを基準にソフトウェア設計を行うことで、エンコード前の音質劣化を回避するという発想だそうだ。 

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Live Extreme Encoderの特徴。ハイレゾ音声配信に映像を加えたものとなっている

 

エンターテインメントだけでなく音楽教育現場からも期待

 今回の配信では、スタジオのコンソールからのステレオ・ミックスをアナログ・ミキサーで分岐。それを映像&音声配信フォーマットの異なる2台のコンピューター(バックアップ録音用を含めると3台)へそれぞれ入力。映像も5つのカメラからスイッチャーを介して分岐したものがそれぞれ入力された。

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今回の実証実験の現場で稼働していたLive Extreme Encoderの画面。映像プレビューの左に映像系、右に音声系の設定が並ぶ。音声エンコード(ビット/サンプリング・レート)は同時に3つまで指定が可能

 

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オーディオ・インターフェースにKORGのDSD DAW=Clarity(非売品)のMR-0808U(USB接続)を使用。コンピューターは写真のラック・マウントのもののほか、2台が用意された

 また、視聴環境としてはWebブラウザーを想定としており、配信者側では用意したWebページにJavaScriptで再生用のコードを埋め込んでおけば、視聴者は特定のアプリケーションを用意しなくてもよい。

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Live Extremeの視聴再生環境(2020年10月現在)

 ただし、DSD配信に関してはPCM再生をする他のアプリケーションとオーディオI/Oの取り合いとなることがなどがあり、視聴用アプリケーションを別途用意した方がよいかもしれないと大石氏は語っていた。今回の実証実験でDSD 5.6MHzが一般には公開されていなかった理由もそこにあったそうだ。

 このLive Extremeは、配信プラットフォーマー、放送局、イベンター、ライブ・ハウス/スタジオなどが、事業として配信を行うケースへの導入を想定しているという。ユニークなところでは、音楽大学が遠隔教育に用いるという構想も挙がっているそうだ。従来の動画配信の音声クオリティでは、演奏の細かなニュアンスや音色の違いが配信/受信できないから、というその理由も頷ける。

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Live Extremeの今後の展開


 こうしたBtoB展開となる理由の一つは、前述したようなDSD配信などサービス内容に合わせて個別のアプリケーションを用意したりする可能性があること。もう一つ、今回の実証実験でIIJがCDNバックボーンを用意したように、ネットワーク側でも配信の規模などに応じて相応の環境が必要になるからである。ちなみにCDN(Content Delivery Network)とは、負荷を分散するために元のサーバーと同等のコンテンツを用意したキャッシュ・サーバーを複数台配し、大量のユーザーからのアクセス負荷を分散するネットワークのことで、現在も多くの配信プラットフォーマーが同様の仕組みを用いている。

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IIJ冨米野氏による今回のシステム構成説明図。右にオリジン・サーバーからCDN、視聴者への流れが記されている

 こうした配信サービスの先例として参考になるのは、先に触れた、クラシックやジャズを中心にハイレゾで音声を配信しているライブ・ストリーミング・サービス、Prime Seatだろう。これはIIJが展開するサービスで、KORGが専用アプリケーションの開発などの技術を担っている。Live ExtremeはまさにこのPrime Seatに導入された技術を発展させ最大4Kの映像を付けたとも言えるが、この技術をコアとして、サービスごとにさまざまな形で展開されることになるかもしれない。

 

Live Extreme 実証実験サイト

https://www.uhd.st/

 

 

ニュースリリース

www.korg.com

 

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