
こだわりのアナログ回路を採用
アナログ・ソースのアーカイブに最適
Nu Iのフロント・パネルは、高級オーディオ・アンプのような出で立ちです。後述するNutubeの設定やUSB/アナログの切り替え、インプット・セレクト、大きなボリューム・ノブが並びます。リア・パネルには、ライン入出力をXLRとRCAピンで併装しており、ボリュームを通さないダイレクト・アウトも用意。フォノ入力には MC/MMカートリッジ切り替えスイッチまであります。電源ケーブルは着脱できるIECタイプ。USB端子と、ワード・クロック入出力もありますが、入出力の構成は一般的かつシンプルなオーディオ・アンプに近いと思います。
電源には、プロ機器や高級オーディオに使われている、トロイダル・トランスを採用。ヘッドフォン端子はXLR4ピンのバランス仕様のものも用意されており、アナログ回路へのこだわりが感じられます。
さて、KORGのWebサイトからAudioGate 4.5をダウンロードし、過去にMR-2000Sへ落としてミックスした音源データを再生してみました。10年近く前の音源もあるのですが、そのときのミックスの記憶がよみがえる、新鮮で豊かな品の良いDSDサウンドにあらためて感心。音の密度や情報量がひときわ豊かに感じられます。続いてCDフォーマットから24ビット/96kHzまでさまざまなフォーマットの音源をインポート。再生時にはAudioGateでフォーマットやサンプル・レートのアップ/ダウンが簡単に設定できるので、比較も容易です。
聴いているうちに、意外な驚きが。再生フォーマットを上げるだけで、音場やバランスの表現に余裕が出て、表現力の違いがはっきりと感じられます。特にDSDとPCMではかなり印象の差があり、ダイナミック・レンジの広いアコースティックの楽器、ピアノやシンバル系の余韻の長い音や長めのリバーブの消え際などはDSDが優位で、音の減衰が自然に感じられ、コンプやEQのかかり具合もよく分かりますね。逆にトータルでコンプが強めにかかった曲や、ビートの強い曲は、PCMの方が押し出し感が強く、迫力あるサウンドになります。
ちょっとワクワクしながらレコードの音も聴いてみます。AudioGateではアナログ入力したステレオ・ソースを録音可能。分割やトリムなどの簡単な編集もできますから、1曲ごとのファイル管理も可能です。もちろんカートリッジの特性によって大きく変わりますが、予想以上の良い音です。入力レベルの設定は、Nu I Control Panelという付属ソフトで行います。ちなみに、フォノ・イコライザーは、AudioGateの中にソフトウェアとして用意されています。

出力段のNutubeで明りょう度アップ
S.O.N.I.C.でリマスター再生も可能
Nu Iの特徴の一つが、出力段にかかるNutubeでの色付けです。Nutubeは、底面積46×17mmという小型のデュアル三極管。従来の真空管と比べ2%以下の省電力で連続期待寿命3万時間という、とんでもないスペックです。真空管特有の豊かな倍音を得ることができ、特にボーカルやさまざまな楽器の音に絶妙な味わいを加えることができます。効果としてはサウンド全体の輪郭がはっきりしていき、3段階で少しずつ明りょう度が増す感じでしょうか。レコードを含めすべてのフォーマットの音源再生で楽しむことができます。
また、Nu IのControl Panelアプリケーションには、S.O.N.I.C.(Seigen Ono Natural Ideal Conversion)という機能が付属しています。その名の通り、サイデラ・マスタリングのオノ セイゲン氏が開発に携わったリマスタリング機能で、AudioGateはもとより、コンピューターからNu Iで再生するすべてのサウンドに使うことができ、リアルタイム変換でDSDクオリティに。そしてプリセットの選択とLow/Hi/CONSCIOUSノブで、サウンドの調整が行えます。ネット動画などの音質向上が簡単にできるのは良いですね。再生用補正機能ではありますが、これまでDSDと言えばデジタル領域での音質補正が難しかったところに、こうした音質補正機能が登場したのは画期的なことだと思います。

Nu Iは、オーディオ・プリアンプとしてはもちろん、レコードやオープン・リールなど“アナログ音源のアーカイブ用入力”としては、最上級のシステムでしょう。また、スタンドアローン駆動で高級オーディオ・アンプとしても使えます。一方、我々のような仕事をしている環境下では、DSD 11.2MHzやPCM 384kHzなどのマスター録再用I/Oとしての利用が可能。シンプルなモニター・コントローラーにも使え、各種フォーマットを一度に扱える多様なハイレゾ・ライブラリーの出口にもなります。さらに、今回は1台のみだったのでテストできませんでしたが、AudioGate Recording Studioという付属ソフトを使った最大4台/8chのDSD 11.2MHzマルチ録音も含め、多チャンネル・マスターの記録などにも使えそうだと、さまざまなアイディアが膨らみます。
欲を言えば、もう少しインプット/アウトプット数があるとありがたいのですが、作曲家やエンジニアなど、我々プロの環境でのモニター・コントロールを含めたマルチなライブラリー管理/プレーヤーとしての可能性があると感じました。純粋に音楽を楽しむ環境を、根本から考え直すターニング・ポイントになる一台になるかもしれませんね。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年3月号より)