往年のNEVE製品の設計者がデザイン
入力は10dB刻みで出力は連続可変
AURORA AUDIOの創業者、ジェフ・タンナー氏はもともとNEVEで製品の設計を行い、開発の中核を担っていた人です。入社は1971年。マイクプリ/EQの1073などに代表される“赤いインプット・ゲイン・ノブ”はタンナー氏の設計によるもので、音の心臓部であるMARINAIRのトランスも氏が草案設計し、製造依頼を出していたそうです。タンナー氏は1985年、SIEMENSがNEVEを買収したタイミングで会社を去り、その後は主にNEVE製品のメインテナンス業務に従事。NEVE製品のパーツ/回路設計を知り尽くした、生き字引とも言える存在なのです。
この背景を踏まえて、GTP2の仕様を見ていきましょう。箱から取り出した瞬間、筆者が感動したのは重量感です。“トランス入ってまっせ〜!”と言わんばかりのズッシリさで、天面の網の部分からはトランスがのぞき、見ているだけでうれしくなります。出だしから好調ですね。フロント・パネルには2つのチャンネルのコンポーネントが並び、構成は極めてシンプル。スイッチは48Vのファンタム電源と位相反転のみで、ハイパス・フィルターなどはありません。トレード・マークの赤いインプット・ゲイン・ノブは10dBステップ(オールドNEVEやAURORA AUDIO GTQ2は5dBステップ)。その右隣にはアウトプット・レベルのトリム・ノブがあり、連続可変式なので細かい調整が可能です。±0dBの位置(12時)でラッチされるのも大変気が利いています。それからフォーンのDIインプットと先述のスイッチ類を挟んで、アウトプットのレベルに反応して光る3つのLEDインジケーターがスタンバイ。−20dBu、0VU、CLIPがそろいます。実戦に役立つであろう絶妙な値で、使い勝手が良さそうです。
特筆すべきは伸びやかな高域
豊かな低域から“潤い”を感じる
実際のレコーディングで使ってみました。まずはSTEINWAYのグランド・ピアノの録音でチェック。オンマイクとして、ふたの中に入る手前50cmほどの場所にNEUMANN U87のペアを耳の高さくらいにして置き、ビンテージのマイクプリFOCUSRITE ISA 215と比べてみます。オフマイクは、リボン・マイクAUDIO-TECHNICA AT4080のペアをピアノから5mほど離した高所に設置し、1073シミュレートで知られるVINTECH AUDIO X73と比較。このセッティングでGTP2を一聴したところ、周波数レンジの広さと解像度の高さに耳を奪われました。ハイファイかつ質感をしっかりとらえているため、音楽的にも心地良いサウンドです。さらに言えば、高域は奇麗に伸びており、低域はゆったりとした感じ。比較した機種よりも輪郭がはっきりとした音で、それと同時に低域の豊かさから潤いのようなものも感じられ、総じて現代的な印象です。もともとオンマイクの支えとして使うつもりだったオフマイクが、GTP2の解像度の高さのおかげでオフ単体でも十分成立する音になりました。素晴らしいです。
続いて歌録りに使用。マイクはNEUMANN U67に統一し、新旧のマイクプリを織り交ぜて試してみたところ、高域の出方に特筆すべきものが見られました。真空管マイクプリやオールドNEVEなどとも違うシルキーで耳当たりの良い高域と音の近さは、GTP2ならではのものです。
次にDIインプットへエレキギターとエレキベースを接続。サウンドはマイクプリ部と同傾向で、高域の輪郭がはっきりとするのでギターにバッチリです。ただ、高域が伸びてサウンド全体がやや縦長な印象になる分、エレキベースについてはもう少し低域の広がりを聴かせたくなりました。とは言え録り音が素直なので、録音後の処理で補えそうです。
最後にライン・アンプとしてのサウンドにも触れておきましょう。筆者は、ミックスの最終段でビンテージの1073を使い、インプット・ゲインを上げ目にして質感を付けるという処理を時々やります。これと同じことをGTP2でやってみました。結果は、やはりマイクプリのときと同じく、ハイハットの辺りが自然に持ち上がって高域がクリアに。低域は厚みが出て、潤いのある感じになりました。音像を上下に広げたいとき、特に上の方を伸ばしたいときには有効な手段となりそうです。ちなみに、1073を通した音は乾いてパンチが出てくる感じ。低い帯域については、GTP2よりも上の部分である中低域寄りのところが強まる印象ですが、音全体の広がりを感じられます。レベルを突っ込んだときのひずみ具合は、ゲインが5dB刻みだともう少し良いところを探れそうでしたが、ビンテージ機のようにひずみで質感を付すというよりは、サラッと通してレンジ感をふんわり広げるEQ的な使い方で活用できそうです。
GTP2は、オールドNEVEの再現を狙ったものというよりは、当時の仕様を踏襲しつつ現代の音楽にもマッチする音を目指していると言えそうです。手入れの行き届いたビンテージ機の質感には素晴らしいものがありますが、今はそれだけで音を作っても面白くない時代になってきていると思います。目指すサウンドに応じて両者を使い分けることは、これからの音楽にとって有益でしょう。ビンテージ機には出せない潤い、そして高い解像度が得られるGTP2は、プロ・ユースでも宅録でも有用な、コスト・パフォーマンスに優れた一台です。
(サウンド&レコーディング・マガジン 2019年3月号より)