春野が使う Cubase Pro 10.5 第3回〜レーンを生かしたダブル・トラッキング制作 オートメーションで余韻を演出

スタインバーグのDAW「Cubase(キューベース)」の活用術をシンガー・ソングライター春野さんに語っていただきました

 皆さん、こんにちは。シンガー・ソングライターの春野です。普段、僕は作曲/編曲/録音/ミックス作業のすべてをSTEINBERG Cubase Pro 10.5で行っています。今回のテーマは、レコーディング時におけるCubaseの機能を用いた効率的な“時短テクニック”と、リバーブを使ったミックス・テクニックについてお話ししましょう。

録音テイクを効率良くコンピングする
“サイクル履歴および置き換え”機能

 皆さんは、楽曲のミックス時に録音した音が薄っぺらく感じたり、ステレオ感が足りなかったりして困ったことはありませんか? このような場合、僕が行う方法は何通りかあるのですが、その中で最も一番多用するのが“ダブル・トラッキング”でしょう。

 

 ダブル・トラッキングとは、同じ演奏を2度行い、録音したトラック同士をレイヤーすること。こうすることによって音に厚みを持たせることができます。また2つのトラックをパンニングすることで、ステレオ感を演出することも可能なのです。このダブル・トラッキングを行う際に、Cubase独自の“サイクル履歴および置き換え”や“オーディオアライメント”という機能が役立ちます。

 

 ダブル・トラッキングを行う際、通常は最初のテイクを録り、それを聴きながら2つ目のテイクを新規のトラックに録音しますよね。このとき、毎回新しいテイクを録るたびに新規オーディオ・トラックを作成するのが手間だと思う方も多いのではないでしょうか? そんなとき、Cubaseの“オーディオ録音モード”にて録音時の設定を変更すれば、新規オーディオ・トラックをいちいち作成することなく、複数のテイクを一度にサクサク録ることが可能になります。

 

 具体的な設定方法をお話ししましょう。まずは画面最上段に位置する“トランスポート”から、“オーディオ録音モード→サイクル履歴および置き換え”を選択します。こうすることによって、指定した範囲(サイクル)における新規の録音とオーバーラップする既存のイベントは、新しい録音へと置き換えられることになるのです。

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画面最上段にある“トランスポート”から、“オーディオ録音モード→サイクル履歴および置き換え”を選択すると、指定範囲内において、録音履歴が保存されながら、新しい録音へと置き換えられる

 実際にサイクルを指定して録音してみましょう。サイクルが1周するたび、これまでの録音テイクがDAWに保存されながら、新規の録音テイクが上書きされていきます。録音が終わったらツールバーにある“レーンを表示”ボタンを押して、良いと思うテイクを選択しましょう。こうすることによって、毎回新規トラックを用意することなく効率的にレコーディングを行うことができるのです。この方法は非常に便利なので、試してみてください。

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“レーンを表示”ボタン(黄枠)をクリックすると、指定のサイクル内で記録されたすべての録音テイクがそれぞれのレーンで表示される。これらのレーンは通常のトラックと同様に、録音やサイズ変更、ズームが可能だ

自動的にタイミングをマッチさせる
“オーディオアライメント”機能

 ここからは、収録したオーディオ・イベントのタイミング調整について。レイヤーするトラックが2trくらいであれば手作業で調整してもよいのですが、3tr以上となってくると大変手間になってきますよね?

 

 こんなとき、Cubaseの“オーディオアライメント”機能が役に立ちます。この機能を使えば、選択した範囲かつ複数のオーディオ・イベントのタイミングを自動的に合わせることが可能です。また、同じテイクに複数のマイクを使用することで生じる“位相ずれ”の問題を解消することもできます。

 

 手順ですが、まずプロジェクトウィンドウのツールバーにある“Audio”から“オーディオアライメントパネルを開く”をクリック。プロジェクト画面上で、リファレンスにするオーディオ・イベントを選択します。

 

 次に、オーディオアライメントパネル内の“アライメントするオーディオの選択”セクションの“参照先”にある“+”ボタンを押しましょう。その後“+”ボタンの左側に、リファレンスとして選択したオーディオのイベント名が、また下段にはそのオーディオ波形が表示されればOKです。

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オーディオアライメントパネル。“アライメントするオーディオの選択”セクションの“参照先”では、タイミング補正のリファレンスにするオーディオ・イベントを設定し、下段の“ターゲット”では処理を施したいオーディオ・イベントを選択

 同じセクションの“ターゲット”についても同様に、タイミングを合わせたいオーディオ・イベントをプロジェクト上で一度選択し、“ターゲット”の右側にある“+”ボタンを押しましょう。こちらもオーディオ・イベント名と波形がそれぞれの場所に表示されれば完了です。

 

 最後は、オーディオアライメントパネルの下段にある“アライメント精度”で処理の割合を調整。

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オーディオアライメントパネルの下段にある“アライメント精度”セクション。ここでは、ターゲットに設定したオーディオ・ イベントへ施すアライメント処理の度合いを調整できる

 そして同パネルの最下段にある“オーディオアライメントを実行”をクリックすると、ターゲットとなるオーディオ・イベントのタイミングがリファレンスに指定したオーディオ・イベントのそれに自動でマッチングします。このオーディオアライメント機能は覚えてしまえばとても役に立つ機能なので、活用してみるとよいでしょう。

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オーディオアライメント機能の処理前と処理後を比較した画像。それぞれ上段のトラックがリファレンスとなるオーディオ・イベントで、下段のトラックがターゲットとなるオーディオ・イベントとなっている。リファレンスに合わせてターゲットのタイミングが変化していることが分かる

フレーズ間でリバーブ量を増やして
華やかな印象を与えるテクニック

 最後はオートメーションを用いたTipsをご紹介。ここではオートメーションをリバーブに施します。これからお話しするテクニックは、ボーカルやリード楽器、特に管楽器のような前に押し出したいパートに効果的です。

 

 今回はボーカルにホールのような比較的残響音の長いリバーブ・プラグインをインサート。まずはツール・バーにある“全トラックへの読込をオン/オフ”ボタン=Rを点灯させましょう。これでオートメーション機能が有効となります。

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オートメーションを有効にするには、“全トラックへの読込をオン/オフ”ボタン(黄枠)をクリックする。なお、カーソルをトラック・ヘッダの左下に持っていくと、下向きの矢印アイコンと“オートメーションを表示/隠す”という表示が出現。同アイコンを選択すると“オートメーショントラック”が表示される

 次にカーソルをトラック・ヘッダの左下に持っていくと、下向きの矢印アイコンと“オートメーションを表示/隠す”という表示が現れるのでクリック。トラックの下部に“オートメーショントラック”が出現すると同時に“パラメーターの追加”ダイアログがポップアップします。そこからオートメーションを設定したいパラメーターを選択しましょう。ここでは、リバーブのドライ/ウェット量をつかさどるパラメーターを選択。これでオートメーショントラック上に、任意のパラメーターのオートメーション・カーブが描けるようになりました。

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“パラメーターの追加”ダイアログでは、オートメーションとして使用できるパラメーターが選択可能。ボリュームやミュートなどから、インサートしているプラグイン・エフェクトのパラメーターまで表示されている。なお、ダイアログの内容はトラックの種類により異なる

 僕なりの使い方としては、フレーズ間での休符部分で徐々にリバーブ量を増やし、次のフレーズの直前で0にすること。こうすることでボーカルの余韻を埋め、全体のミックスに影響を与えることなく華やかな印象を演出できます! リバーブの量やオートメーション・カーブの描き方次第では、ユニークなアレンジも実現できるでしょう。それでは!

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筆者は、リバーブのドライ/ウェット量をオートメーションでコントロール。フレーズ間での休符部分において徐々にリバーブ量を増やしていき、次のフレーズが始まる直前に0に戻す。こうすることで、全体のミックスに影響を加えることなく、華やかな印象を与えることができるという

春野

【Profile】東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサー。作編曲からミックス/マスタリングまで自身で行うマルチな音楽家。2019 年8月に初のCD 作品『CULT』をタワーレコード限定で発売する。ローファイ・ヒップホップやジャズ、現代的ポップスなどをクロスオーバーするグルービーなサウンドを特徴としている。また、シルキーな歌声と叙情的なリリックが話題となり、SNSYouTubeを中心に注目を集めている。

Recent work

Is She Anybody? - EP

Is She Anybody? - EP

  • 春野
  • R&B/ソウル


 

製品情報

new.steinberg.net

STEINBERG Cubase Pro

オープン・プライス

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