皆さん、こんにちは。シンガー・ソングライターの春野です。前回はSTEINBERG Cubase Pro 10.5でのオリジナル・テンプレートの作成やポイントをお伝えしましたが、そのテンプレートにはサイド・チェイン・エフェクトの設定も含まれていましたよね? 今回は、そのサイド・チェイン・エフェクトについてお話ししていきましょう。
サード・パーティ製プラグインで
サイド・チェイン・コンプを再現
“サイド・チェイン”とは、あるエフェクトのかかり具合を、ほかの入力信号でコントロールする手法のこと。テクノやハウス、ヒップホップなどのダンス・ミュージックで、一度は皆さんもベースやシンセがうねうねと鳴るサウンドを聴いたことがあるのではないでしょうか? これらのサウンドには、コンプレッサーを用いた“サイド・チェイン・コンプ”がかけられており、例えばキックをトリガーにベースやシンセの音量をダッキングすることが多いでしょう。
サイド・チェイン・コンプは、本来ラジオなどの放送においてナレーションが入ると自動的にBGMの音量を下げるといった目的で使われていたそうですが、現在では音楽制作においても多用されています。またミックスでもよく使われており、その目的は周波数帯域におけるかぶりを防ぐこと。例としては、キックをトリガーにしたサイド・チェイン・コンプをベースにかけることなどが挙げられるでしょう。
普段僕は、サイド・チェイン対応のCubase付属コンプレッサー・プラグインを用いるほか、フィルター/パン/ステレオ・イメージャーなどさまざまなエフェクトを格納するプラグイン、CABLEGUYS ShaperBoxのVolumeモードでサイド・チェイン・エフェクトを再現することがあります。ShaperBoxでは自由にボリューム・カーブを描くことができるので、ダッキングの具合をイメージ通りに演出できるところがポイント。プリセットからさまざまなカーブを選んで、簡単に試せるところも魅力的です。
まずは僕なりのやり方ということで、このShaperBoxを使いキックをトリガーとしたサイド・チェイン・エフェクトを楽曲の上モノに施す方法からご紹介しましょう。ちなみに僕は普段、ドラム以外のほとんどのパートにキックをトリガーとしたサイド・チェイン・エフェクトをかけることが多いです。
トリガーとなるキックと同じタイミングに
MIDIノートを入力する
初めに上モノのパートを1つのグループチャンネルにまとめます。具体的には、グループチャンネルにルーティングしたい上モノのトラックリストを右クリックし、“トラックを追加→選択チャンネルにグループチャンネルを追加...”と選択。
ルーティングの設定は、プロジェクトウィンドウの下ゾーンの“MixConsoleタブ”をクリックすると表れる“MixConsole画面”で行えます。この部分については、前回お話ししたので参考にしてみてください。
次は、トリガーとなるMIDIトラックを作りましょう。ShaperBoxのトリガーはMIDI信号のみ対応しているので、キックと同じタイミングにMIDIノートを入力します。MIDIトラックを作るには、トラックリストを右クリックし“MIDIトラックを追加”でOKです。
続いて先ほど作成した上モノのグループチャンネルに、ShaperBoxをインサートします。ShaperBoxのトップ・メニューでVolumeモードを選択し、画面上にボリューム・カーブを描いていきましょう。ちなみに僕は、1拍分しっかりとダッキングされているようなカーブを使うことが多いです。そして、ShaperBoxの画面上段にある“Mid Volume LFO”から“Beat(1-Shot)”を選択し、ワンショット・モードに設定します。
最後に先ほど作成したトリガーとなるMIDIトラックをクリックし、プロジェクトウィンドウの左ゾーンにあるInspectorタブから“出力→Sidechain: Ins. 2. ShaperBox-64bit - MIDI in”を選択。こうすることで、MIDIノートが発音するたびにShaperBoxが作動し、上モノにダッキングされたような効果を施すことができるのです。
以上ですべての設定は完了しましたが、この状態を軸としてさらにShaperBoxでいろいろなカーブを試し、心地良いグルーブが生まれるポイントを見つけてみるとよりよいでしょう。
トリガー用に別キックを用意して
エフェクトのかかり具合を調整
冒頭でお話ししたように、僕はShaperBox以外にもサイド・チェイン対応のCubase付属コンプレッサー・プラグイン、STEINBERG Compressorを用いることがあります。こちらを使った、スタンダードなサイド・チェイン・コンプの手法も紹介しましょう。
ShaperBoxのときと同様に、上モノのグループチャンネルにCompressorをインサート。そして、Compressor画面のプリセット選択タブの左側に位置する“Side-Chainを有効化”ボタンをオンにします。
次に、トリガーとなるダミーのキックを作成しましょう。もちろんここでは、楽曲のメインで使用するキックをトリガーに用いてもよいのですが、僕の場合はサイド・チェイン・コンプのかかり具合をよりイメージ通りにするため、キックと同じタイミングで鳴るオーディオ・トラックを別途用意し、音は鳴らさずにその信号のみをCompressorに送っています。
このトラックには、主にキックのサンプルを張り付けていることが多いのですが、本チャン用のキックとは違ったサウンドのものを使うことが多いです。いろいろなキックを試して、イメージに近いサウンドになるように調整してみるとよいでしょう。 そして、このトラックの左ゾーンにあるInspectorタブから“アウトプットのルーティング”ボタンをクリックし、出力先を上モノに挿したCompressorのサイド・チェイン入力に設定すれば、ルーティングの設定は完了です!
最後はCompressorの各パラメーターで、コンプのかかり具合を調整しましょう。スレッショルドやレシオで効果の深さやグルーブのテンションを、リリースでダッキングされた上モノの音の立ち上がりを調整します。ここら辺は基本的なサイド・チェイン・コンプの原理を理解する助けにもなるかと思いますので、ぜひ試してみてください。それでは、また次回!
春野
【Profile】東京を拠点に活動するシンガー・ソングライター/プロデューサー。作編曲からミックス/マスタリングまで自身で行うマルチな音楽家。2019 年8月に初のCD 作品『CULT』をタワーレコード限定で発売する。ローファイ・ヒップホップやジャズ、現代的ポップスなどをクロスオーバーするグルービーなサウンドを特徴としている。また、シルキーな歌声と叙情的なリリックが話題となり、SNSやYouTubeを中心に注目を集めている。
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STEINBERG Cubase Pro
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