『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』〜主題歌「WILL」シンガーのTRUEが考えるアニメ・ソング【特集アニメ・ソングの最前線】

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アニメ・ソングは何度も聴くうちにちょっとずつ紐解けて
人によって思い浮かべるシーンや作品の側面が違うのが理想です

数多くのアニメ・ソングを歌い上げてきた歌手のTRUE。唐沢美帆名義で作詞家としても活動する彼女は、今回アニメ版オープニングに続き『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の主題歌を担当する。アニソン・シンガーとして、本作とどのように向き合ってきたのだろうか。

Interview:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara

 

アニメ・ソングは自分の言葉で書くようにしている
歌う人の息遣いを考えて作られた曲は歌いやすい

ーアニソン・シンガーを目指したきっかけは何でしたか?

TRUE 小、中学生のころからアニソンや声優にあこがれ、ポップスのシンガーや俳優などをしていく中で、生涯の仕事としてアニメにかかわりたいと思ったんです。作詞の経験はあったので作家事務所を探し、アニメ・ソングを多く手掛けるSCOOP MUSICに所属しました。当時のマネージャーと、ランティスの方が“歌を歌った方がいい”と言ってくださり、『バディ・コンプレックス』の主題歌「UNISONIA」を担当したご縁がそのまま続いて今に至ります。

 

ー手掛ける作品の事前情報はどのくらいあるのですか?

TRUE シナリオや原作があることが多いですが、キー・ビジュアルしか無いときもあります。自分の曲以外の作詞では、歌う人が伝えたいことをヒアリングして、その方が普段出さないワードは使わず、ご自身の言葉として歌えるように心掛けて作ります。私がTRUEとして歌うときは、作品を理解した上で、あくまで私自身の曲だと思って歌いますね。ただ単にアニメのためだけの曲ではキャラクター・ソングになってしまい、私が歌う意味が無いので。キャラクター・ソングは、その世界に息づくキャラクターの言葉がそのまま曲になる、いい意味での二次創作物だと思っています。一方、アニメ・ソングとしてアニソン・シンガーやアーティストが主題歌を担当する場合、キャラクター、作品、自分の意思が共存する必要があると思います。

 

ーアニメ・ソングはオープニングであればアニメの世界に引き込む役割を持ち、エンディングは物語の余韻を持ちながら聴くことになりますが、意識されていますか?

TRUE 制作するときにその意識は強いですね。アニメ・ソングは物語が進んで何度も聴くうちにちょっとずつ紐解けて、聴く人によって思い浮かべるシーンや作品の側面が違うのが理想だと思っています。ボーカルのレッスンを重ねていろいろな発声もできるようになりましたが、歌うときにテクニックは全く考えないです。同じ曲でも歌う度に違って正解だと思うし、レコーディング当時の歌は2度と歌えない。曲は変化していくものだから、自分の心が流れるままに歌えたらいいなと思います。

 

ー普段ご自身でデモを録ることはありますか?

TRUE 自宅でSTEINBERG Cubaseを使って録ることはあります。最初はAUDIO-TECHNICAの真空管マイクを使っていましたが、今はRODE NT1-Aです。仮歌の録音程度ですが、簡単なデモは自分で作ります。

 

ーアニメ・ソングを制作する人に向けて、シンガーとしてこういった曲だと歌いやすいというポイントはありますか?

TRUE ブレスのタイミングやメロディの流れ方とか、歌う人をきちんと想定して作られている楽曲は歌いやすいです。YAMAHA Vocaloidのように機械的なメロディがいいときもありますが、TRUEが歌う音楽としては歌心、歌う人の息遣いを考えて作られている楽曲は好んで選びますね。

 

ー影響を受けたアニソン・シンガーはどなたですか?

TRUE シンガー・ソングライターとして尊敬しているのは坂本真綾さんです。生き方もシンプルで無駄が無く、音楽から見える迷いのようなものが無くて。震災を経て、“自分の価値観が、着飾るのではなく、あるもので伝えるように変化した”と伺い、あらためてとても強くて尊敬できる方だと思いました。

 

ーアニメ・ソングを歌う上で一番大事にしていることは?

TRUE 作品にも自分にも嘘を付かないこと。自分が思っていないことは書かないし、歌っても響かないと思うので、自分が思うことをそのままの言葉で伝えるようにしています。

 

劇伴の延長のような感覚で聴いていられる
作品との親和性が高い曲に仕上がった

ーTRUEさんは2018年にアニメ『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』のOP主題歌「Sincerely」の作詞と歌を手掛けられています。今回の劇場版の主題歌「WILL」に至るまでに作品に対する思いの変化はありましたか?

TRUE すごくありますね。「Sincerely」の制作当初は、こんなにもたくさんの人の思いを抱える楽曲になるとは思っていなくて。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は1話から人の生死を扱う作品ですが、回を重ねるごとに、それを許容できるような広さや深さを求められると感じました。劇場版の主題歌「WILL」は、主人公のヴァイオレットのために書ける最後の曲なので、子の成長を見る親のような気持ちで、彼女が幸せな道に進めるよう願いを込めて作りました。私自身だけでなくアニメや音楽制作のスタッフ、ファンの方々の意思も含んで制作しなければという意識はすごく強かったですね。

 

ーTVシリーズから劇場版に向けて成長するヴァイオレットのように、TRUEさんの歌い方も変化を感じました。

TRUE かなり曲作りの段階から意識しました。「Sincerely」はポップスの範囲内で作ったのですが、「WILL」はシリーズの締めくくりにふさわしい楽曲を作るべく、全員の総意で劇伴を担当したエバン・コールさんに曲をお願いしました。劇伴の延長のような感覚で作品を観終わったあとそのまま聴いていられる、より作品との親和性が高い曲に仕上がったと思います。

 

ー「WILL」は曲先行でしたか?

TRUE はい。最初に聴いたときは壮大過ぎて驚きました(笑)。オーケストラでレコーディングすると思ったので覚悟は必要でしたね。歌録りではいろいろな歌い方を試したのですが、素朴な曲ですし、難しい言葉は使わず、直感で感じられるようなメロディと歌詞と歌がいいかなと思って。ヴァイオレットは子供のように周りの出来事を直感で感じながら成長していくんです。例えば、花が咲いて枯れ、土に還って次の命が芽吹くのを大人は輪廻転生だと知っていますが、子供は直感で感じるじゃないですか。そういったものが曲やメロディからも伝わればいいなと思っているので、歌録りのときも人の温もりを感じられるように歌いました。

 

ー「WILL」のほかに、シングルには「未来のひとへ」という楽曲も収録されていますね。

TRUE これは以前イメージ・ソングとして作った曲で、TVシリーズ10話目に出てくるアンという女の子のことを歌ったのですが、それがたまたま劇場版のシナリオそのままで。石立(太一)監督から「未来のひとへ」を聴きながらシナリオやコンテを描いていて、この曲を作品の最後で使いたいと言っていただいたんです。同時に、私は“今、曲を作らなかったらアーティストとして一生後悔する”と思ったので、主題歌「WILL」とグランド・フィナーレ曲「未来のひとへ」が完成しました。もう1曲重要なのがTVシリーズのエンディング曲としても使われた茅原実里さんの「みちしるべ」です。この曲は、作品に携わるスタッフや私たちの未来を照らし、歩み続けるんだと希望を与えてくれました。茅原さんとは会話を重ねて作品とのかかわり方や意思を確認してきました。劇場版は「Sincerely」で始まり、「みちしるべ」を経て、「WILL」と「未来のひとへ」で終わるんです。ここまで音楽やクリエイターを大事にしてくれるアニメってあったかな?と思うくらい作品にとって音楽の比重が大きく、向き合ってきて良かったとあらためて思いました。

 

Release

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『WILL』
TRUE
バンダイナムコアーツ
LACM-14994

  1. WILL
  2. 未来のひとへ ~Orchestra ver.~
  3. WILL ~ English ver. ~
  4. WILL(Instrumental)
  5. 未来のひとへ ~Orchestra ver.~(Instrumental)

Musician: TRUE(vo)、佐藤浩一(p)、川村竜(b)、髭白健(ds)、佐々木"コジロー"貴之(g)、フィルハーモニック・オーケストラ
Producer: 唐沢美帆、エバン・コール、川崎里実、臼倉竜太郎、斎藤滋、鈴木めぐみ、他
Engineer: 藤巻兄将、安中龍磨、島田枝里花、奥田泰次
Studio: 音響ハウス、Magic Garden、MSR

WILL - Single

WILL - Single

  • TRUE
  • アニメ
  • ¥765

 

特集アニメ・ソングの最前線
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
鶴岡陽太(音響監督)× 斎藤滋(音楽プロデューサー)インタビュー

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