現在、アニメ・ソングのクリエイターには、常にバラエティ豊かな新曲を生み出し続けることが求められる。その可能性を広げるためにチームでの楽曲制作を精力的に進めている会社の一つがLOVE ANNEXだ。コライトの推進や、若手クリエイターによる制作チームHANOを社内に擁するなど、楽曲制作だけでなく、クリエイターを育成するマネージメント業務まで手厚く行われている。ここでは、代表取締役の小高光太郎氏(写真中央)と藤井亮太氏(同右)、HANO代表の廣澤優也氏(同左)に膨大な楽曲を扱うための工夫やチームでの制作作業の裏側を惜しむことなく語っていただいた。
Interview:Kanako Iida Photo:Hiroki Obara
小高光太郎
【Profile】LOVE ANNEX代表取締役。プロデューサー/作編曲家。『ラブライブ!サンシャイン!!』をはじめ、多くのアニメ作品に楽曲提供を行う。音楽制作のみならず、新たなIPコンテンツの創出にも精力的に取り組む。
【Recent Work】
ラブライブ!サンシャイン!!4th Single
『未体験HORIZON』Aqours(ランティス)
作編曲
Ⓒプロジェクトラブライブ!サンシャイン!!
藤井亮太
【Profile】LOVE ANNEX代表取締役。プロデューサー/作編曲家。2019年に小高光太郎と共にLOVE ANNEXを創業。『ラブライブ!サンシャイン!!』『アイドリッシュセブン』などで作曲、ストリングス・アレンジを手掛ける。
【Recent Work】
『Play With You』εpsilon Φ(ブシロードミュージック)
作曲
廣澤優也
【Profile】LOVE ANNEX取締役。音楽制作ブランドHANO代表。ディレクター/プロデューサー。音楽ユニットTHE BINARYのプロデュースや『ARGONAVIS』プロジェクトのサウンド・ディレクターなど幅広い活動を行う。
【Recent Work】
『Starry Line』Argonavis(ブシロードミュージック)
サウンドディレクター/「Steady Goes!」作曲編曲
2人組でのコライトを推進し相乗効果を重視
オンラインでも躍動感がある制作環境を作りたい
ー制作はどのような規模で行っているのでしょうか?
小高 専属作家は約20名、提携作家を合わせると約80名程度のチームで運営しています。
ー所属クリエイターへの発注はどう行うのですか?
小高 作家には、コンペで幅広く募集をかけるか、こちらから指名する形で発注します。
藤井 さらに弊社では、コンペで採用にならなかった曲を作家の同意を得て独自のデータベースで管理しています。
小高 戻ってきた曲をリスト化し、発注オーダーに合わせてジャンルやテンポ感で割り出せるようにしているんです。
廣澤 一方で、アーティストとひざを付き合わせて対面で作っていくスタイルも増えています。
ー担当する作家はどうやって決めていくのですか?
廣澤 基本的に、クライアントが求めるものに適した作家に打診しますね。
小高 コンペで募集をかける場合でも、専属作家のブランディングを大事にしています。また、弊社には、若手の精鋭を集めたHANOというブランドがあります。
廣澤 制作マネジメントも弊社にとって大事な業務の一つなので、今後の業界を担っていく人材を日ごろの楽曲制作を通して一緒に育てていくスタンスです。
ー制作作業はどのように進めているのでしょうか?
小高 弊社では2人組でのコライトを推進しています。それぞれの個性が合わさった相乗効果で新しい何かを作ることを重要視しているんです。ラフの制作、仮作詞、仮歌録りはオンラインで進めていて、データのやり取りはオンライン・ワークスペースを使ってスムーズにできるようにしています。やり取りの中で、予想外のアプローチに対する驚きや、データを渡して返ってくるまでのワクワク感は常にありますね。オンライン上でも躍動感がある制作環境を作っていきたいと考えています。
廣澤 楽曲の作り分けという意味でも、作曲の面と編曲の面でそれぞれ個性が違うので、人の掛け合わせの数だけ多くのバリエーションの曲が作れますし、ここでもチームで制作しているメリットを感じます。
藤井 ブラスやストリングスのアレンジのように専門知識が必要な分野では、コライトで得意な人と組めば技術を学べますし、作品のクオリティの底上げもできます。ベテラン作家と若手を組み合わせれば、若手は、一人では成し遂げられないことができたり、熟練した技術や実績が得られます。逆にベテランは若手から、自分のスタイルに固執せずにトレンドに乗った感性やフレッシュな刺激が得られるんです。
ー使用するDAWソフトは合わせているのですか?
藤井 弊社の推奨はSTEINBERG Cubaseです。レンダリング機能が発達して、引き継ぎがすごく楽になりました。APPLE LogicやPRESONUS Studio Oneを使う人もいます。
小高 以前はサード・パーティのプラグインまで共通化して、共有セッションをそのまま再現できることを重視していましたが、最近はプラグインも多様化しているのでそうもいきませんね。
作品の背景やイメージを含めてパッケージ
キャラクターのイメージを音の現場で作り上げる
ーアニメ作品のボーカル・レコーディングはどのように進むのでしょうか?
廣澤 声優の声質や表現力を生かすための適切な機材を選び、その方のオリジナリティを際立たせられるように常に模索していますね。作品の背景やファンが持つイメージを含めてパッケージできるように意識してディレクションします。楽器録りも、キャラクターやアニメの世界観を損なわずに、よりかき立てるようなサウンド・メイキングをしますね。
ー最近の作品で使われた機材を教えてください。
廣澤 僕がサウンド・ディレクターを担当する『ARGONAVIS from BanG Dream!』内のバンド、GYROAXIAはラウド・ロックを軸にしたサウンドで、作品内では絶対王者的な立ち位置で描かれています。一部の楽曲では、その一面にフィーチャーして、ロックな音像になるように録りたかったので、ボーカル旭那由多役の小笠原仁さんのマイクプリにはNEVE 33415を使いました。どうしたらユーザーにキャラクターとしての表現やそれに対する小笠原さんの熱量が伝わるかをスタッフやキャストを交えて相談しながら作り上げています。
ー機材は実際に録りながら決めていくのですか?
廣澤 最初はこちらで選んだ機材でチェックします。それを聴きながらキャラクターや楽曲のイメージと違う場合は僕からより適したアプローチを提案して、機材を変えて数パターン録って話し合います。この方法はTVアニメの主人公となるバンドArgonavisのボーカル七星蓮役の伊藤昌弘さんとも毎回行います。彼自身が本当に表現したいものを考えて現場に来てくださるので、それがより適した形で届くように僕からマイクやアウトボード選びの提案をしています。プロデューサーとスタッフを交えて、キャラクターのイメージを音の現場で作り上げていますね。歌自体はキャスト本人の表現ですが、その一方でキャラクターという側面を持っているのが、アニメ・ソングの面白いところでもありますね。
ーアニメ・ソングの制作において、キャッチーさを曲に取り込むためにしていることはありますか?
藤井 “キャッチー”や“インパクト”は人によって違いますし、ふわっとしていると思うんです。キャッチーなものはどうしたら安定して作れるかと理論立てたりもしましたが、テクニックによって作られたものはいびつと言うか、自分が感動できない。なので、今は“自分がグッとくるか”を指標にして作っています。軸に持っているのは、自分が音楽を始めたきっかけになった時代の音楽ですね。その原点に立ち返ることはします。
小高 僕の場合、アニメの空間の中に身を置いてみますね。僕はあまり細かい分析をせず感覚的に即興でピアノを弾き倒して、躍動感のある骨組みができたら肉付けをしていくスタイルです。キャッチーであるかというのは、瞬間的イメージの中でしか構築されていなくて。例えば、剣を使った激しい戦闘シーンがあるアニメの曲の場合には、登場人物になったつもりで、剣で切り裂く動きをイメージしながら作ったりします。
廣澤 キャッチーというのは、いかに多くの共感を得られるかだと思うので、この題材に対して何が盛り上がるかという過去の事例を洗い出してひたすら調査します。それがなぜ多数の共感を得たのか、メロディ、リズム、音色、テンポ、構成などに着目して答えを出して、常に最大公約数のキャッチーさを追求しています。
アレンジで各パートのスペシャリストが参加
得意分野を掛け合わせた化学反応を楽しむ
ー廣澤さんが率いる若手クリエイターによる制作チームHANOには、どのような制作の特色があるのでしょうか?
廣澤 手法としては作曲、編曲で役割を分けるパターンが多いですが、僕らはさらにパートごとに分解し、それぞれの得意分野をかけ合わせて、その化学反応を楽しんでいます。1曲の中でギター、ベース、シンセ、ドラム、ストリングス、ブラスなど各パートのスペシャリストが参加してアレンジを仕上げることで、結果的にクオリティの高いものに仕上がるんです。
ー1人が作ったものを軸にアレンジするのですか?
廣澤 僕がアレンジをする場合には、僕が基本的にディレクションして、それぞれのパートを個別に振り分けて、最終的に自分がまとめて作ることが多いですね。メンバーそれぞれがシチュエーションに応じて自由に割合を決めて制作することもあります。スタジオで作る場合は各パートに分かれてアレンジ/収録を行う形を採ります。
ーアニメ・ソングのサウンドは時代によってトレンドもあると思いますが、どのような特徴があるのですか?
藤井 アニメは絵的にカラフルなので、音楽もカラフルにしますね。転調したり、いろいろな楽器を使ったり、生ドラムに加えてループ・リズムやFXもバシバシ入れる感じで作ることが多いです。アニメは動きもデフォルメされていて激しいので、歌える範囲でメロディを大きく動かしたりもします。
廣澤 最近は1960~70年代の音楽を取り入れたいという発注が多いですね。あと、シティ・ポップ、カワイイ・フューチャー・ベース、Kポップなどですかね。
小高 Jポップらしいキャッチーなメロディとマニアックな洋楽の4つ打ちを掛け合わせたもの、というのもありますね。
廣澤 日本のシーンなので、歌心は残しつつ、アレンジで面白いことをしてほしいという発注は増えています。また、この10年でだいぶアニソンのテンポは下がりましたね。
藤井 ポップスに寄ってきているというか、境界線が割とあいまいになってきているかなと言うのはあります。
生の収録でプレイヤーの顔が見える音作りを追求
リアンプは現代の宅録事情とマッチ
ー曲作りにおいては作家が自宅で制作したものをスタジオでリテイクしていくのですか?
廣澤 はい。プレイヤーの顔が見える音作りや、アンプを鳴らすことで表現できるタッチの繊細さを追求するために生での収録にこだわっています。リアンプも、現代の宅録事情にマッチしているんです。スタジオでの生録りの経験がない若いミュージシャンも、宅録で良いテイクを作ることには長けています。家で作ったオーディオ・ファイルを持ち込んでスタジオでアンプを通すことで、得意な方法を生かせるんです。また、近年あまり見ませんが、僕たちはベースもリアンプしていて、宅録と掛け合わせて積極的に取り入れています。
ー生楽器に差し替えるのはどのようなときですか?
廣澤 例えば女性の新人声優が歌う楽曲のレコーディングでは、生ドラムではなくあえて打ち込みのドラムを選択することはありますね。生ドラムは録り音にプレイヤーのニュアンスが出やすいので、うまいドラマーがたたくと初々しさや純粋さが失われてしまうことがあるんです。ギターだとデジタル特有のワイド・レンジな音像が打ち込み系のデジタル・サウンドと親和性が高かったりもするので、あえてデジタルでというのはありますね。逆に言うと、バンド・サウンドに対してはアンプを鳴らした方が倍音だったり定位感だったり部屋鳴りも含めて楽曲に合うと思って選んでいます。
クリエイターでもプロデュース的な視点が重要
新しい価値観を生み出すことを常に心掛ける
ーチームで制作することの1番の強みはどのようなところにあると考えていますか?
廣澤 常に目標に対して適切なアプローチができることが一番の利点だと思っています。チームに個性豊かな人材がいることで、オーダーに対して最も求められているもの、時代に合ったものを提供できる環境が作られています。
小高 若手世代が非常に多い会社で、みんな仲が良くて。ちょっと会って話したり、意見を言い合っていく中で生まれるものを重視しています。各グループで目的に到達するために連携できることがチーム力や一人一人のブランディングにもつながっていくと思います。“クリエイター”=“発注を受けて作る仕事”というところからは脱したいと思っていますね。今はネットで何でも発信できますし、受けて作るより自ら何かを生み出す能力、プロデュースする能力を伸ばせるような環境作りや考え方の共有をしたいと考えています。
藤井 コライトのメリットとしては、切磋琢磨と言うか、曲を作る上での対話相手として、“一緒に作る人がいるからちょっといいところを見せないと”とか、“今日は気分が乗らないけど、あいつが楽しみにしているからやらないと”と思える相手を作る意味でも効果的かなと思います。
ーアニソンを作るために作家を志望する人は多いですか?
廣澤 多いですね。『アイドルマスター』の曲を作りたいという夢を持って、それを叶えた人もいます。
小高 弊社は特にアニメに魂を捧げて制作に取り組んでいる作家が多いです。
ー会社としてはどのような作家を求めていますか?
小高 想像力をしっかり持った作家さんと対話しながら制作を進めていきたいです。今はただ言われた通りのものを作る人が多いのですが、それだけではなく、“それを覆す何か”を作れる可能性があるかは特に見ていますね。そこで大きな差が出てくると思いますし、そのために作家を育てていくことが僕らにとっても大切だと思っています。
藤井 この業界に限りませんが、言われたことをただやる、指定された通りにやるというふうにしている時代ではないのかなと思います。リーダー的な立場ではなかったとしても、提案できる範囲で価値観をどんどん生み出していけるかどうかということが問われる時代になるのでは無いかと思っていて。なので、クリエイターであっても常に多面的なプロデュース視点を持つことが大切だと思っています。音楽に限らず新しい価値観を生み出していくことを常に心掛けなさい、ということをうちの作家にはスローガンとして渡していますね。
Overview:『ARGONAVIS from BanG Dream!』
“BanG Dream!(バンドリ!)”発のボーイズ・バンド・プロジェクト。廣澤氏がサウンド・ディレクションを担当している。ブシロードによるメディア・ミックス・プロジェクトで、TVアニメ『アルゴナビス from BanG Dream!』、ライブ、コミック連載も展開。2021年にスマートフォン向けゲーム『アルゴナビス from BanG Dream! AAside』が配信予定されている。
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