インタビュー:KATSU(angela)〜この世界に入ったときに“アニメ・ソングに命を捧げよう”と決めたんです【特集アニメ・ソングの最前線】

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ここからは、アニメ・ソングを手掛ける作曲家たちのインタビューをお届けする。まず登場いただくのは、angelaのKATSUだ。angelaは、ボーカルのatsukoとギター/アレンジのKATSUによるユニット。TVアニメ『宇宙のステルヴィア』のオープニング曲となった「明日のbrilliant road」で2003年にメジャー・デビューし、これまでに『蒼穹のファフナー』『K』『シドニアの騎士』など、数多くの人気アニメ作品の主題歌を担当してきた。アニメーション神戸賞主題歌賞などの受賞歴も多く、世界最大のアニソン・イベントAnimelo Summer Liveでは過去2度の大トリを務めている。海外ツアーなども行い、国内外問わず幅広い活動を見せているアーティストだ。そんなangelaのサウンドの要であるKATSUへインタビューを行い、angelaの作曲について、そしてKATSUから見たアニメ・ソングという存在についてを語ってもらった。

 

キング関口台スタジオ

KATSUのインタビュー当日は、キング関口台スタジオにてangelaの新曲のレコーディングが行われていた。その模様を写真とともにお伝えしよう。

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キング関口台スタジオのStudio 1。コンソールはSSL SL9072J、モニター・スピーカーはラージにGENELEC 1035B、ニアフィールドにYAMAHA NS-10Mが用意されている

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Studio 1のメイン・フロア。天井高は約10mとなっており、周りには6つのブースも用意されている。取材当日はオカリナのレコーディングが行われており、オンマイクにNEUMANN M149とオフマイクにB&K 4006がステレオ・ペアでセットアップされていた

Phantheraと1073の組み合わせが
atsukoの特徴をしっかりととらえてくれる

ーKATSUさんの制作環境は?

KATSU DAWはAVID Pro Toolsで、オーディオ・インターフェースはPro Tools|HD I/Oです。モニター・スピーカーはADAM AUDIO S3Aをメインとして使っています。S3Aの前はずっとYAMAHA NS-10M Studioでした。NS-10M Studioは難しいスピーカーだと思っていて、このスピーカーで奇麗に聴こえれば、ほかのスピーカーで慣らしたときにも良く聴こえるという持論があったのですが、だんだんとそれがストレスになってきて。新しいスピーカーを探していく中で見つけたのがS3Aでした。大きな音でも小さな音でもバランスが崩れにくいことが魅力です。同社のA7Xも持っていますが、S3Aとは全く違うタイプで、僕はラジカセ・チェックのような用途で使っています。

 

ーヘッドフォンでのモニタリングもされますか?

KATSU UMBRELLA COMPANYがモデファイしたSONY MDR-CD900ST(Mod)を使っています。通常のモデルと比べて輪郭がはっきりとしたサウンドです。リスニングでは疲れてしまいますが、とても解像度が高いですね。このMDR-CD900ST(Mod)を使って歌録りをすることで、ピッチが正確に取れるようになります。モニターしている音と自分が発している音に違いが生まれることが、ピッチの安定しない理由の一つだと思いますが、MDR-CD900ST(Mod)ではその差が無くなる。でも解像度が高い分、リップ・ノイズなども鮮明に聴こえるので、今まで気にならなかったところを修正し出して仕事が増えるというデメリットはあります(笑)。

 

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レコーディングに持ち込まれていたatsukoとKATSU所有のモニター・ヘッドフォン。UMBRELLA COMPANYによってモデファイされたSONY MDR-CD900ST(Mod)だ。通常のモデルと比べて輪郭がはっきりとしたサウンドで、歌のピッチも取りやすくなるという

 

ーギターなどの楽器はレコーディングすると思いますが、ソフト・シンセなどソフトウェアの音源も使いますか?

KATSU ソフトウェアももちろん使いますが、ハードウェアもよく使っています。1曲の中ですべてがソフト音源だと、ペタッとした奥行き感の無いサウンドになってしまう印象があって。逆にそれが今風のサウンドとも言えますが、僕はあまり好きではないんです。昔から一番使っているのはサンプラーAKAI PROFESSIONAL S6000。アウトプット部分の性能だと思うんですが、どのソフト音源でも真似ができない独特なサウンドなんです。ストリングスはVIENNA SYMPHONIC LIBRARYの音源を使っていますが、後から生に差し替えることが多いですね。その生の弦に対して混ぜる音はS6000を使ったりしています。

 

ーatsukoさんのボーカル録音ではどのようなマイクを?

KATSU 曲に合わせてNEUMANN U47やU67、BRAUNER Phantheraから選ぶことが多いです。マイクプリとマイクはセットで考えていて、atsukoにあった組み合わせをこれまでずっと探していたんですが、たどり着いたのがNEVE 1073とPhantheraでした。もともとはエンジニアの方が持っていた1073の音を気に入り、その音に近い個体の1073を探し求めたんですが、なかなか良いものが無くて。今はやっと見つけた1台と、最初にほれ込んだエンジニア所有の個体を売っていただき、計2台を使い分けています。その1073に合うマイクもいろいろなものを試して、たどり着いたのがPhanthera。atsukoは歌い方に特徴があり過ぎるくらいですが、その特徴をしっかりとらえて、歌詞の内容がよりリスナーに伝わるようなサウンドです。

 

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ボーカル録音のセットが組まれたブース内の様子。マイクにはBRAUNER Phantheraを使っている。このPhantheraとNEVE 1073の組み合わせがatsukoの声をしっかりととらえる組み合わせだという

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キング関口台スタジオに保管されていたマイクの一部。写真左側にはEARTHWORKS QTC50×2、COLES 4038が縦に並ぶ。写真中央上部に並ぶ4本は、左からNEUMANN M149、TELEFUNKEN M49、U47、AKG C12VR。その下段の3本はAUDIO-TECHNICA AT5040、BRAUNER VM1、TELEFUNKEN U67だ。写真右端のマイクはRCA 77DX

エンジニアとのコミュニケーションが無ければ
良い音は生まれないと思う

ー楽曲作りにおいて、一番意識していることは何ですか?

KATSU 音のインプット部分ですね。デビュー前は、録音したものを加工して仕上げるというアウトプット部分しか考えていなかったんです。でも、angelaのデビュー当時にエンジニアの北城“HAKASE”浩志さんが“インプットが一番大切だ”と教えてくれて。入ってくる音が悪ければ、出ていく音も悪いものにしかならない、ということですね。僕が1073にこだわった理由もそこにあります。

 

ーS6000などのハードウェアを使っているのも、そういう意識があるからなのですね。

KATSU そうですね。でも根本的なことを言うと、本当に大切なのはエンジニア。良い機材を使えば良い音が出ると思っている人もいますが、音を扱う人と自分のコミュニケーションが無いと、良い音は生まれないと思います。音楽はミュージシャンやエンジニアが一緒に作り上げる作品ですから。angelaにおいて、一番重要なのはアシスタントとエンジニアの2人なんですよ。自分の間違いを最初に気付いてくれる存在です。アシスタントとエンジニアがコロコロと変わっていた時期もあるんですが、“この前は奇麗にドラムを録れていたのに、今回は何か違う”“前と比べてベースのマイクが1本少なかった”など、いろいろと問題が起きたりしていました。レコーディングが忙しくなってきたら、僕自身も気付かないところが出てくるわけです。でも、そういうときでもしっかりと指摘してくれて、スピーディに作業を行ってくれる今のアシスタントとエンジニアには助かっています。

 

ー今は一人で音楽制作をしている人も多いですが、そういった人はどうすればよいのでしょうか?

KATSU 一緒に曲を作れる仲間を見付けることです。自分の得意ではない部分を補ってもらい、クオリティを上げるためには必要なことだと思います。最低限の人数で最大限の効果を生むチームだと良いですね。僕は歌えないし、作詞もできないから相方としてatsukoがいる。サウンド面ではアシスタントとメインのエンジニアにカバーしてもらっていて、最終的なミックスは、声の仕上げ方と音のバランス感覚に優れた調布レコードの原裕之さんに仕上げていただいています。チームの関係性は大事です。

 

ーインプット部分を良くするため、機材面でこだわっているところはありますか?

KATSU 電源ケーブルです。“電源ケーブルくらいで音は変わらないだろう”とデビュー前は思っていたんですけど、あるときマスタリング・エンジニアの方がアナログ・テープ・レコーダーの音が抜けないからと言って、電源ケーブルを変えているのを見たんです。そうしたら本当に音が良くなって驚きました。angelaのサポートをしてくれているベーシストのIKUOさんも電源ケーブルにはかなりこだわっていますね。僕も自分で納得できる電源ケーブルを探し始めて、今は根岸通信の電源ケーブルを使っています。ZAC1というモデルなんですが、芯が強く抜ける音にしたいという僕の希望に合わせて、コネクター部とケーブル部の組み合わせを考えてもらいました。音はびっくりするくらい変わりましたし、ディスプレイが付いている機材ではその明るさも1段階上がるんです。コンピューターとマイクプリ、コンプは全部根岸通信の電源ケーブルで、それぞれで仕様も違います。

 

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KATSUがこだわって導入した電源ケーブル、根岸通信 ZAC1。キング関口台スタジオに用意されたNEVE 1073に使用されていた。KATSUが求めるサウンド、接続する機材に合わせて作られた特別仕様とのことだ

アニメのロゴからインスピレーションを受けて
イメージを音へ変換する

ーこれまで聴いてきた中で一番印象に残っているアニメ・ソングはありますか?

KATSU 高橋洋子さんの「残酷な天使のテーゼ」一択ですね。angelaがデビューしたきっかけでもあるんです。まだデビューできずに焦っていた時期に、いろいろな音楽をコピーしてその要素を自分の楽曲に取り入れるということをやっていたんです。小室哲哉さんがはやっていたときはビートものだったり、orange pekoeやEGO-WRAPPIN'がはやっていたときはジャズっぽいものを作ったりしていました。手を替え品を替え、いろいろなジャンルをやってみてもなかなかデビューできない……という時期に放送されたのが『新世紀エヴァンゲリオン』で。オープニングの「残酷な天使のテーゼ」は“これは面白い!”ってatsukoとも話していて、オマージュ曲を作ったんです。それがangelaの「merry-go-round」という曲で、それを路上ライブで演奏していたときにキングレコードの方にスカウトされました。「残酷な天使のテーゼ」もキングレコードだったということもあり、すごく思い入れがあります。

 

ーいろいろなジャンルを取り入れていたことは、今のangelaにもつながっていますね。

KATSU そうなんです。当時はオーディションを受けても、“君たちはいろいろなことをやり過ぎていて、何がしたいのか分からない”と言われて審査に落ちたりしていたんですよ。それからスカウトされてCDデビューを果たし、アニメ・ソングを作るアーティストになり、アニメ作品に合わせた曲を自在に作れるようになったのは、デビュー前の苦難があったからなんだと感じています。

 

ーアニメ・ソングを手掛ける際、アニメ制作チームとはどのような打ち合わせが行われますか?

KATSU 作品によって全然違いますが、ありがたいことに最近は“作品から感じられるものを自由に作ってください”と任せていただけることが多いです。打ち合わせがある場合は、作品の監督やプロデューサーがその作品に対してイメージしている音とか、いろいろな情報をもらうようにしていますね。

 

ーどんな意見や情報があると曲が作りやすいですか?

KATSU 原作があるアニメだと、漫画家の先生がその漫画を書いているときに聴いている音楽があるかを尋ねます。あと、アニメのロゴからインスピレーションを受けることがほとんどですね。“ロゴからイメージできるサウンドって何だろう”と音への変換を行うんです。例えば、ドラえもんの音楽を作るとすれば、僕は鈴の音を絶対入れると思います。ドラえもんのロゴには鈴のマークが入っていますよね。ロゴのイメージを音に変換するというのは、僕がデビュー当時から一貫してやっていることです。

 

自分たちのカラーを加えないことが
アニメ・ソング制作のセオリー

ーアニメ・ソングを作るときにはどのような部分を重視していますか?

KATSU 当たり前ではありますが、そのアニメ作品のための楽曲であることです。アニメ・ソングは自分たちの命を救ってくれたジャンルなので、そういう楽曲を作ることで恩返しになると考えています。デビューする前はどんなジャンルやアーティストのサウンドを真似たとしてもうまくいかず、解散を考えているときに出会ったのがアニメ・ソングの仕事でした。この世界に入ったときに“アニメ・ソングに命を捧げよう”とatsukoとも話して決めたんです。

 

ー作品に寄り添った曲を作る中でも、自分たちのカラーを出すようにしていますか?

KATSU 自分たちのカラーというのをアニメ・ソングに加えてはダメだと思うんです。そのアニメ作品のメッセージを自分たちが代弁して歌うわけですから。守っていかなければいけないアニメ・ソングのセオリーだと考えています。

 

ーアニメ・ソングのトレンドを考えて作曲することはあるのでしょうか?

KATSU トレンドというのは、アニメ・ソングで売れている人や音楽に対して、業界全体が引っ張られてしまっていることだと思います。例えば、激しいバトルものの作品であれば、マイナー・キーでテンポの速い曲をみんな作りがちです。誰しもが同じ方向性に引っ張られるというのは、僕は良くないと感じています。やっぱりそのアニメ作品に対しての曲を作りたいし、自分でも聴きたいわけです。トレンドを意識するというよりは、このアニメ作品は真面目でかっこいい曲の方が良いのか、それともトリッキーで面白いことに挑戦できるのか、という見極めは慎重に行っています。

 

ーオープニングやエンディングの映像を意識した制作はしていますか?

KATSU “この場所でタイトルが出るな”と感じることはありますし、実際に完成した映像を見ると、想定していた場所にタイトリングされていることが大半です。自分が考えていた場所でなかったとしても、それはそれで面白いですね。そこはクリエイター同士の表現の掛け合いという感じを楽しんでいます。なので、こちらから“こういうオープニング映像にしてほしい”とか“ここにタイトルを入れてほしい”というようなリクエストは一切したことがありませんね。

 

ーアニメのオープニングやエンディングは、楽曲と映像それぞれのチームの考えが合わさることで出来上がるものですからね。

KATSU そうですね。僕らが作品に対して表現した曲と、映像制作チームが表現する映像が組み合わさって作り上げられる総合芸術だと思っています。

 

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アニメ作品のオープニング/エンディング・シーンは
音楽と映像チームの総合芸術だと思っています

 

Release

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『叫べ』
angela
キングレコード:KICM-92051
11/18 on sale

  1. 叫べ(『蒼穹のファフナー THE BEYOND』新オープニングテーマ)
  2. カップリング曲(曲名未定)
  3. 叫べ(off vocal version)
  4. カップリング曲(曲名未定/off vocal version)

Musician: atsuko(vo)、KATSU(g、syn)、蓮沼健介(p)、山内“masshoi”優(ds)、IKUO(b)、小島”じんぼちゃん”億洋(perc)、長澤孝志(g)、杉野裕ストリングス(strings)、白石圭美(cho)、熊坂真理(cho)、永井美奈子(cho)、村田悦子(cho)、阿部修二(cho)、杉江真(cho)
Producer: angela
Engineer: 石井満、原裕之
Studio: キング関口台スタジオ、調布レコード

 

Overview:『蒼穹のファフナー THE BEYOND』

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ⒸXEBEC・FAFNER BEYOND PROJECT

平和な孤島、竜宮島に突如襲来した未知の生命体“フェストゥム”から人々を守るため、少年少女が人型兵器“ファフナー”に乗り込み命を賭して戦う姿を描くオリジナル・アニメーション。2004年にTVシリーズ第1期の放送を開始し、これまでにTVスペシャルや劇場版、TVシリーズ第2期が公開されてきた。シリーズ15周年を迎えた2019年より新作『蒼穹のファフナー THE BEYOND』が劇場先行上映でスタート。全十二話が順次公開されており、11月13日には第七~九話の上映が予定されている。オープニング曲はangelaの「叫べ」。

fafner-beyond.jp

 

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