Ⓒ暁佳奈・京都アニメーション/ヴァイオレット・エヴァーガーデン製作委員会
手紙の代筆業に就く一人の少女を中心とした群像劇『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』。暁佳奈の小説を原作とした本作は、2018年に京都アニメーションの制作でTVシリーズが放送され、その美しい映像とストーリーは多くの人を魅了した。2019年には『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』が公開され、再び話題に。そして今年9月18日には、新作となる『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の上映がスタートした。本作のテーマ・ソングとなったのは、作詞家としても活動するTRUE(唐沢美帆)の「WILL」。そのほかにもTVシリーズで使用された楽曲など、複数の歌が作品を彩っている。その音楽の魅力を、音響監督と音楽プロデューサー、TRUEのインタビューから探っていく。
Interview:Yusuke Imai Photo:Takashi Yashima
音響監督&音楽プロデューサー・インタビュー
鶴岡陽太 & 斎藤滋
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』では、テーマ・ソング「WILL」をはじめ、複数の歌が劇中で流れる。それらの音楽に携わったのが、音響監督の鶴岡陽太氏と音楽プロデューサーの斎藤滋氏。数多くの名アニメを手掛けてきた2人に、『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』における音楽、そしてアニメにおける歌の重要性について聞いた。
Overview:『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
少女ヴァイオレット・エヴァーガーデンが、手紙を代筆する仕事を通じて人の心に触れ、大切な人から告げられた言葉の意味を知るまでの物語。感動的なストーリーと京都アニメーションによる繊細な映像は世界から評価されている。9月18日より、最新作『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』が公開された。
作品の世界観を広げてもらうため
海外からの目線を持った作曲家を選んだ
ーまずは音響監督の仕事内容について教えてください。
鶴岡 音楽では基本的に劇伴に関する仕事になります。作品内のどこに音楽が入るのか、ストーリーや演出面を考慮し、監督の意見を汲み取りつつ考えていく。そして作家へ発注します。また、セリフのレコーディングもこちらで行い、ディレクションもしています。最終的なセリフと劇伴のバランスも見て、ここでも聴こえ方を意識しながら作品に応じて構築していくんです。
ー一方、音楽プロデューサーはどのような仕事になるのでしょう?
斎藤 人によっても違うと思いますが、僕の場合は環境作りをすることが多いです。鶴岡さんと同じく、監督と寄り添って作曲家を選んだり、アイディアを出すなど、監督の作りたい音楽を実現するための環境作りに尽力します。いざ作曲家が決まったら、その作曲家にどういう制作環境を与えるのか、予算やスケジュールを含めて決めていくんです。なるべく作曲家にとってベストな環境となるようにしています。
ー『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』においてはどんな環境作りを?
斎藤 音楽を担当したミラクル・バス所属のエバン(コール)君と、マネジメントの池田(貴博)さんのための環境を用意しました。ドイツにてレコーディングをすることが決まったので、実現するための予算作りであったり、委員会の理解を得るための説明だったり、ドイツに行くということを宣伝に使うべきだという提案をしたり……作曲家のモチベーションが最大限に上がるような環境を作りました。エバン君はTVシリーズでの制作を通して『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』という作品の理解を十分にしていただいていたので、創作については僕からあまりコメントしないようにしていましたね。エバン君がやりたいように曲を作ってくれればうまくいくと確信していたので、今回はコーディネートに徹しました。
ーエバン・コールさんが作曲家として選ばれた理由はありますか?
斎藤 僕の中で、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の世界は産業革命時代のヨーロッパのイメージがありました。なので、日本人的な音作りをする方よりも、海外からの広い目線を持った作曲家がいいかなと思ったんです。エバン君は海外で育ち、バークリー音楽大学出身ということもあり、我々に無い感覚と文化を持っているので、作品の世界観を広げてくれるだろうと考えました。
アニメ作品と歌は
相乗効果を生む関係
ーアニメにおいての歌の魅力はどんなことが挙げられますか?
斎藤 オープニング曲は、その作品を端的に知れるワクワク感があります。“これから始まるアニメはこういう感じかな”と想像し、期待しながら見る89秒です。本編に入る前に気持ちを高めてくれるものであり、それが皆さんから愛されている理由かもしれません。一方で、エンディング曲に関しては余韻を楽しむ時間というふうに考えています。感動的な話をしんみりしながら過ごしたり、来週はどうなるのだろうとドキドキしながら見たり。翌週へつなげるための余韻という意味を持つ89秒かなと。
鶴岡 相乗効果があると思うんです。作品の魅力が歌の魅力につながったり、歌の魅力が作品の魅力につながったりする関係がとても良い。やっぱり音楽や歌の力は大きいじゃないですか。特に『けいおん!』など、歌抜きでは語れない作品の中で、その相乗効果が得られたときの訴求力や爆発力はすごいと思います。
ー『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』ではテーマ・ソングとしてTRUEさんの「WILL」が採用されています。この曲はエンディングで流れるのですか?
斎藤 エンディングでは前半で「WILL」が、後半で「未来のひとへ」という曲が流れるという2曲構成になっています。「未来のひとへ」は、TVシリーズ放送後に発売されたイメージ・ソング・アルバムの中の1曲です。そのアルバムは基本的にはレコード会社として『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の余韻を味わってもらうために作ったものでした。その中の1曲である「未来のひとへ」を石立監督はとても気に入ってくださっていて、しかも今回の劇場版のテーマに不思議とメロディも歌詞もすべてが合致していると感じたそうなんです。だからこそ石立監督は「未来のひとへ」を映画のエンディング・テーマとして使いたいと考えていて、またそのために最後のカットも用意していました。「未来のひとへ」もTRUEさんが歌と作詞を手掛け、魂を削るように言葉を紡いで作ってくれた曲です。しかし、“とてもうれしいことだけれど、あくまでTVシリーズの延長線上で書いた曲であって、今回の劇場版のシナリオに合わせた気持ちで書いていないので……”とTRUEさんは悩んで。“劇場版に合わせてあらためて曲を作りたい”という訴えを聞き、石立監督とも相談しつつ2本立てのエンディングとなりました。2本立てにするにあたって、劇伴を担当するエバン君に「WILL」の作編曲、「未来のひとへ」の編曲をお願いし、それぞれをエバン君という一人の作曲家が構築することで自然なつながりを生むことができたと思います。
本編のエモーショナルなシーンに
「みちしるべ」がシンクロした
ーその2曲のほかにも、茅原実里さんが歌ったTVシリーズのエンディング曲「みちしるべ」が劇場版本編で使われているそうですね。
斎藤 この曲は鶴岡さんが“入れないと”と主張されて。鶴岡さんが歌ものを本編中に入れるというのは珍しいので驚きました。
鶴岡 例えば、ドキュメンタリー番組のエンディングで流れる曲があるじゃないですか。感動的な話だったりつらい話があったりするわけですが、毎週同じ曲で締めくくられる。そういうすべてを包括してくれるようなエンディング曲というのはすごく意味があると思っていて。「みちしるべ」は本シリーズにおけるそういう楽曲です。劇場版本編のクライマックスでエモーショナルなシーンがあるんですが、「みちしるべ」は歌詞も含めてとてもシンクロして、“ここにこの歌を入れないのはおかしい”と監督を説き伏せて(笑)。こんな出過ぎたことを音響監督として言うのは最初で最後だと思いますね。
ーアニメに長らくかかわってきたお二人から見て、アニメ・ソングの変化はどう感じていますか?
鶴岡 僕らがやってきた中で、アニメ・ソングとビジネスを結びつけた作品があったよね?
斎藤 『涼宮ハルヒの憂鬱』ですね。僕が音楽プロデューサーで、鶴岡さんが音響監督を務めた作品でした。
鶴岡 アニメの形態も含めて新しい価値観が生まれた感じだった。
斎藤 それ以前は、声優が歌って踊るというのはやってはいけない、というような雰囲気がありました。声優というお仕事を考えれば当たり前ですよね。でも、涼宮ハルヒを演じていた平野綾ちゃんがアフレコ・スタジオで遊んで踊っていたのをきっかけに、スタッフたちも“これはいけるかも”と実際にイベントを行なってみたのが始まりです。それから、“声優も歌ったり踊ってもいいんだ”と考え方が変わってきました。それが今のアニメ作品にもつながっていると思いますし、大きなターニング・ポイントだったと感じています。
特集アニメ・ソングの最前線
『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』
主題歌「WILL」作詞/歌唱 TRUE インタビュー
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