ニラジ・カジャンチに聞くAMS NEVE 33609Nの魅力

ニラジ・カジャンチに聞くAMS NEVE 33609Nの魅力

コンプレッサー/リミッターの33609は、これまで度重なるパーツや仕様の変更があり、その都度異なるリビジョンが登場してきた。現在は中古でも入手の難しいモデルがある中、その全リビジョンを所有するエンジニアのニラジ・カジャンチ氏にインタビューを敢行。リビジョンによる違いや、日本での供給が再開したAMS NEVE 33609Nの魅力を尋ねた。

Photo:Hiroki Obara(製品写真除く)

AMS NEVE 33609N

 ステレオ/デュアル・モノラル仕様のコンプレッサー/リミッター。MARINAIR製トランスを採用し、ほかのリビジョンには無いアタック速度の変更スイッチ(Fast/Slow)を備える。

AMS NEVE 33609N

33609N|585,200円

AMS NEVE 33609Nのリア・パネル

リア・パネルには、2系統の入力(すべてXLR)と、複数の33609でマルチチャンネルで使用する際や外部制御を行うための接続端子(D-Sub 15ピン)を装備

【Specifications】
■入力インピーダンス:10kΩ ■最大出力レベル:+26dBu ■周波数特性:20Hz~20kHz ■ひずみ率:0.075%(バイパス)、0.2%(コンプレッサー)、0.45%(リミッター) ■スレッショルド(リミッター):4~15dBu ■アタック・タイム(リミッター):Fast(2ms±1)、Slow(4ms±1) ■リカバリー・タイム(リミッター):50~800ms/a1(100/2000ms)/a2(50/5000ms) ■レシオ(コンプレッサー):1.5:1~6:1 ■アタック・タイム(コンプレッサー):Fast(3ms±1)、Slow(6ms±1) ■リカバリー・タイム(コンプレッサー):100~1500ms/a1(100/2000ms)/a2(50/5000ms) ■外形寸法:480(W)×88(H)×255(D)mm ■重量:5kg

33609は本当に最高なランクの“普通”

 ニラジ氏と33609の出会いは、アメリカでのアシスタント・エンジニア時代に遡るという。

 「ニューヨークのザ・ヒット・ファクトリーでのアシスタント時代、33609はどのセッションでも必ず使われていたので興味を持ったんです。その後フリーのエンジニアになって、これを持っておけば自分の夢に向かってうまくいくだろうと、機材に力をもらう意味で最初の1台を買いました。それからも別のリビジョンを見つけたときに買い続けて、10年かけて33609A/B/C/J/JD/Nをそろえたんです」

ニラジ・カジャンチ氏の33609コレクション。上から33609A/B/C/J/JD/N

写真上から33609A/B/C/J/JD/N

 NEVE製の初代33609から最新の33609Nまでは年代に50年近く差があり、サウンドの傾向は異なると氏は語る。

 「古いリビジョンほどまとまりが出て音がタイトになって、最近のものほどコンプが強めで、位相感が良いですね。僕はいつもステレオ・リンクをしないでデュアル・モノラルで使うのですが、新しい機種ほどステレオの広がりがあります」

 加えて、ニラジ氏は音圧を上げる際に付加される質感を色でとらえており、楽器ごとに使用するリビジョンを決める。

 「33609はゲインを上げるだけでキャラクターが付くんです。それは音の裏にある無音の部分の空気がどこまで上がるかの違いで、そのノイズは空間の奥行きでもあるんですが、僕の頭の中では多く上がると黒く、全然上がらず奇麗な場合には白く感じるんです。33609は古いリビジョンほど黒、新しいほど白に近くて、例えばアニソンのドラムだと基本はロックなので、初代33609を通して黒に近付けます。ジャズの作品を録るときは、奇麗にコンプをかけるためにドラムのトップ・マイクに必ず33609Nを通していますね」

 その一方で、33609に一貫した音質の特徴をこう語る。

 「本当に最高なランクの“普通”なんです。絶対に安定するので安心感しかないですね。いろいろなジャンルのエンジニアが使いたくなる理由はそこだと思います」

 

 Neeraj's Setting 

ドラムのトップ・マイクと相性抜群なコンプレッサー設定

ドラムのトップ・マイクと相性抜群なコンプレッサー設定

分離良くワイドなミックスを実現する33609N

 33609の最新モデルであり、現在は国内流通も行われている33609N。そのサウンドの特徴をニラジ氏に尋ねた。

 「33609Nは古いリビジョンのようなまとまりもありつつ、コンプのかかり方が強くて、止まる精度がすごく良いんですよ。ワイドなミックスをするときに、プラグインで広げるのに比べて33609Nは位相が良く広げられるのでありがたいですね。一つ一つの楽器を分離良く奇麗に聴かせたいときに、クリエイターが狙う音に持って行きやすいと思います」

 加えて、33609N特有の機能に言及して解説を続ける。

 「今までのリビジョンはアタックが固定だったのですが、33609NはFASTとSLOWのスイッチが付いたんです。2つのキャラクターがはっきりしているので、上モノはSLOW、キックやスネアにはFASTというように使いやすくなりました」

 最後にニラジ氏は、今後33609Nを導入するクリエイターとの制作に期待を抱きつつ、こう語ってくれた。

 「33609Nは家でレコーディングや打ち込みをする人がより良いトラックを作るために使ってくれたら一番うれしいですね。そうするとミックスする段階で既にゴールに近いんです。そこにこだわりを持つ人が増えると、より良い作品をエンジニアと一緒に作っていけるかなと思います。あとは、スタジオにあるけど自分では所有していないプロのエンジニアや、ビンテージの33609が無いスタジオは絶対買うべきですね」

 

ニラジ・カジャンチ
【Profile】NYやLAでエンジニアとして活動し、ボーイズIIメンやマイケル・ジャクソンらの作品に携わる。日本移住後は三浦大知、氷川きよし、つじあやの、安室奈美恵、T-SQUAREなどを手掛ける

【特別企画】AMS NEVE〜継承される正真正銘の本物

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