SE ELECTRONICS DynaCaster レビュー:インライン・プリアンプを内蔵したフロント・アドレス型ダイナミック・マイク

SE ELECTRONICS DynaCaster レビュー:インライン・プリアンプを内蔵したフロント・アドレス型ダイナミック・マイク

 YouTubeやライブ配信用ボーカル・マイクなどで、SHURE SM7Bのようなフロント・アドレス型のダイナミック・マイクが使われているのをよく目にするようになりました。今回紹介するSE ELECTRONICSのDynaCasterも同じくフロント・アドレス型ですが、時代の波に乗ったブロードキャスト・スタイルに適したマイクというだけでは収まらない卓越した性能の万能なマイクです。

厚みとパンチがあるクリアなサウンド。DYNAMITE機能で感度と解像度が向上

 DynaCasterはダークな色合いで重厚感があり、重みのあるフロント・アドレス型。外見はシンプルで高級感が漂い、頑丈なので安心感があります。3層構造のポップ・フィルターが備え付けられており、ショック・マウントやポップ・フィルターが不要なのも特徴です。クリーニングも考えて取り外しが可能になっています。マイク・カプセルは同社Vシリーズの技術に基づくDMC8で、指向性はカーディオイドです。

3層構造のポップ・フィルターを搭載しており、ポップ・ノイズに強い。分解も可能で、クリーニングもしやすく清潔を保てる。カプセルは同社Vシリーズのノウハウを詰め込んだDMC8カプセルを採用

3層構造のポップ・フィルターを搭載しており、ポップ・ノイズに強い。分解も可能で、クリーニングもしやすく清潔を保てる。カプセルは同社Vシリーズのノウハウを詰め込んだDMC8カプセルを採用

 このDMC8と統合されているのが、アクティブ・インライン・プリアンプのDM1 Dynamite。単体製品としても発売されているプリアンプがDYNAMITE機能としてDynaCasterに内蔵されているのです。DynaCasterの底面にある真ん中のスイッチでそのDYNAMITE機能のオン/オフが切り替えられ、オンにするとゲインが30dB増幅されます。このDYNAMITE機能をオンにする場合は、48Vファンタム電源の供給が必要なので注意しましょう。

 

 DynaCasterの底面にはDYNAMITE機能のスイッチのほかに、低域トリム・スイッチと高域トリム・スイッチがあります。低域側はブースト/フラット/カット、高域側は2パターンのブーストとフラットを選択可能です。ちなみにマイク底面にあるスイッチや製品名ロゴの向きは、DynaCasterを上からつるしたときに読めるようになっていました。

底面には3種類のスイッチを搭載している。左から低域トリム、DYNAMITE機能のオン/オフ、高域トリムだ。低域トリムはブースト/フラット/カット、高域トリムは2段階のブーストとフラットを選択できる

底面には3種類のスイッチを搭載している。左から低域トリム、DYNAMITE機能のオン/オフ、高域トリムだ。低域トリムはブースト/フラット/カット、高域トリムは2段階のブーストとフラットを選択できる

 まずはDYNAMITE機能をオフにした状態で聴いてみました。厚みとパンチのあるクリアなサウンドです。3層のポップ・フィルターのおかげで破裂音や吹かれが無く、とてもよくできた構造になっています。次にDYNAMITE機能をオンにしてみると、コンデンサー・マイクのように感度が良くなり、解像度が上がったように感じました。よりクリアに、そして少し角が丸くソフトになった印象も受けます。

高域/低域トリムの組み合わせは9パターン。楽器や歌の録音に対応できる音へ自然に変化

 トリム・スイッチを使ってみます。高域トリム・スイッチで1段階目のブーストにしてみると、中高域がほのかに持ち上がった感じになり、声がとても鮮明に聴こえました。フラットでソフトだったイメージに少し芯が足される印象で、個人的にとても気に入った設定です。過度なブーストでない“程良さ”が素晴らしく、声質や楽器の性質に合わせて積極的に使いたくなります。少しこもりがちの僕の声にはぴったりでした。2段階目のブーストでは、さらに程良くブーストされますが、痛くなるほどではなく、マイクのタイプが変わったかのような自然な印象。ハイファイになることで透明感が増し、ポップスのつややかなボーカル録音には効果を発揮しそうです。

 

 次に高域トリム・スイッチはフラットに戻し、低域トリム・スイッチをブーストにしてみます。こちらもマイクのタイプを変えたかのように自然なウォームさが増し、温かみのあるサウンドになりました。声が細い方やマイクから少し離れたところで収録したい場合に効果を発揮しそうです。この状態で高域トリム・スイッチを1段階目のブーストにしてみたところ、温かみがあって、かつパンチのあるサウンドになりました。これはベース・アンプやキックなど、しっかり低域感があり、輪郭を見せたいシーンにぴったりだと思います。さらに高域トリム・スイッチを2段階目のブーストにすると、アグレッシブでパワフルなサウンドになりました。ギター・アンプのオン・マイクに合うでしょう。

 

 低域トリム・スイッチのカットも試します。こちらも過度な減衰ではなく、音やせせずにスッキリと聴こえます。小さいスペースで収録するときの特有の定在波などはこの設定で解消できそうです。ドラムのハイハットの収録にも合うでしょう。カットで低域を減衰させた状態でも音がこもってしまうという場合は、高域トリム・スイッチで調整すると解消できると思います。

 

 DYNAMITEスイッチをオンにした状態でのトリム・スイッチの効果は上記と同じ傾向でしたが、こちらの方がとても感度良く変化しているように感じました。ライブ用のときのボーカル、キックやベース、ギター・アンプのように出力の大きくアタックが必要な場合はDYNAMITE機能をオフ、アコギやソフトめなボーカル、空気感を含めたハイハットなどはDYNAMITE機能をオンにする、というようにうまく使い分けると良いと思います。

 

 マイクに備わっているトリム調整はとても重要で、あらかじめ低域や高域のトリムを調節することによってレベルが変わってきます。そのレベルに合わせ、マイクプリでおいしいひずみ成分が出てくるぎりぎりまでゲインを調整するのですが、後々のEQやコンプで加工してもその音になることは到底難しいです。つまり、コンデンサー・マイクのようにもダイナミック・マイクのようにも音を変えられ、さらにトリムを9パターン使用できるこのオール・イン・ワンのDynaCasterはものすごく多様性があります。ポッドキャストやライブ、ストリーミングのようなブロードキャスト・スタイルにはもちろん、楽器やボーカルのレコーディングにも適した超万能な高性能マイクと言えるでしょう。

 

yasu2000
【Profile】NYのInstitute of Audio Reserch卒業後、ブルックリンBushwick Studioを経て、2005年に帰国。現在はorigami PRODUCTIONS所属アーティストのほか、あいみょんなどを手掛ける。

 

SE ELECTRONICS DynaCaster

31,900円

SE ELECTRONICS DynaCaster

SPECIFICATIONS
▪カプセル・タイプ:ダイナミック ▪周波数特性:20Hz〜19kHz ▪指向性:カーディオイド ▪感度:-54dBV/-24dBV(DYNAMITEオン時) ▪インピーダンス:300/135Ω(DYNAMITEオン時) ▪外形寸法:62(φ)×220(H)mm ▪重量:850g

製品情報