プラグインやソフト音源を効率的に管理! ABLETON Liveのブラウザを活用したシステムの構築|解説:オカモトタカシ(12sound)

プラグインやソフト音源を効率的に管理! ABLETON Liveのブラウザを活用したシステムの構築|解説:オカモトタカシ(12sound)

 私サンレコの“Web+印刷版プラン”に登録しているのですが、全バックナンバー読み放題がなかなかにエグい……。“覚えている範囲で一番古い表紙どれだっけ?”“あれ? 表紙は覚えていないけど「お部屋一刀両断」の部屋は覚えてる!”“誌面でヲノサトルさんと渋谷慶一郎さんが殴り合いのケンカ(というオチ)してたのいつだっけ?”など、バックナンバーの沼に落ちると音楽制作どころじゃなくなるんですよね。という感じで“Web+印刷版プラン”お薦めです!

Liveで取り扱い可能な全ファイルを一括管理できるブラウザ

 現在は2021年12月。ブラック・フライデー・セールも落ち着いたころにこの文章を書いています。2021年末は熱かった! 11月前半には次世代EQが次々と発表され“幾つEQを買ったら気が済むの!?”状態だったのが、11月後半からは新作ストリングス・ライブラリーのリリース・ラッシュと定番ライブラリーのセールが重なって“幾つストリングス音源を買ったら気が済むの!?”状態になっていました。

 

 私に限らず新しいプラグインやソフトウェア音源を導入し続けている方も多いのではないでしょうか? 一方、効率良く制作を進めるためにお気に入りの音源を複数組み合わせてテンプレートを構築する方も多数いらっしゃると思います。この辺りってなかなか両立が難しくて、新しいプラグインやソフトウェア音源を導入するたびにテンプレートを組み直すと、曲を作っているのかテンプレートを作っているのか分からなくなりますし、“この仕事が落ち着いたら新しい音源を試そう”と考えていると、そのころにはすっかり熱が冷めていたりもします。

 

 しかし、ざっくりベーシックなテンプレートを用意しつつも柔軟にプラグインやソフトウェア音源を効率良く管理&ロードできるようなシステムが、Liveにはあります! というわけで、今回はLiveの“ブラウザ”を深堀りしていきたいと思います。

 

 特徴は、Liveで扱うことのできる全ファイルをブラウザで管理可能なことです。オーディオ・ファイルはもちろん、オーディオ・デバイスやインストゥルメント、他社製のプラグイン、そのプリセットまで同列に管理でき、基本的にドラッグ&ドロップだけで作業中のプロジェクトにロードできます。また、ユーザーが自由にラベルを設定できる“コレクション”機能を駆使すると、ユーザーが思い思いにデータを管理することも可能です。ちなみに、私は楽器種類別+エフェクトみたいな構成にしています。このコレクションは本当に個性が出るので、ぜひ周りのLiveユーザーに見せてもらってみてください。

オーケストラ系のライブラリーをアンサンブル単位でロード

 さてここからが本題なのですが、私のコレクション“Solo_Cinema”のスクリーン・ショットをご覧いただきたく。こちらに並んでいる“ISW_TSS”や“Spitfire_ChamberStrings”はすべてLiveのプロジェクト・ファイルです。Liveのブラウザは、プロジェクト・ファイル自体を扱ったり、その中に含まれるトラックやデバイスのみをドラッグ&ドロップで一括ロードしたりすることが可能です。これを利用して、オーケストラ系のライブラリーをロードしたプロジェクト・ファイルを作成→ラベル付けを行うと、各種設定済みのライブラリーをマルチトラックで一括管理できます! なので“ここまでSPITFIRE BBC Symphony Orchestraで組んだけどブラスだけCINEMATIC STUDIO SERIES Cinematic Studio Brassを持ってきたい”とか、“バンド・サウンドのつもりでアレンジしてきたけど弦を入れたくなったのでSPITFIRE Spitfire Chamber Stringsを一括ロードしたい”といった作業がカジュアルに行えます。

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ブラウザはLiveの画面左上に位置する。左列には、ユーザーが任意でカラー・タグを設定できるコレクション機能を搭載。筆者は楽器別+エフェクトで分けて活用している。コレクション内に並ぶ“.als”拡張子が付いたファイルはすべてLiveのプロジェクト・ファイル。内包するトラックやデバイスをブラウジングしてロードすることも可能だ

 具体例として、ブラウザ上でSpitfire Chamber Strings用のテンプレートとして作成した“Spitfire_ChamberStrings.als”というプロジェクトの中身を見てみましょう。それぞれのパートのパフォーマンス・レガートとDecorative(トリルやトレモロなどの装飾系アーティキュレーションを集めたパッチ)が並んでいます。これらを一括選択し、ドラッグ&ドロップするとアンサンブル単位でのロードが可能です。余談ですが、Liveにはトラックやデバイス、プリセットなどにテキスト情報を埋め込む“インフォテキスト”という機能があります。私はよく使うキー・スイッチ情報などを書き込むことが多いです。

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トラックやデバイス、プリセット上で右クリックすると表示される“インフォテキストを編集”を選択することで、テキスト情報を入力することができる。日本語入力にも対応する

カテゴリーごとに接頭辞を付けて検索効率を飛躍的に高める

 皆さんは、ブラウザ画面最上段の検索窓は使っていますか? Liveは待機中にインデックス化を自動で行うため検索結果の表示が爆速です。私は作曲だけでなく効果音制作の仕事もするので、効果音ライブラリーの中から目当ての素材をピックアップするのにこの検索窓をフル活用しています。

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効果音を収納しているフォルダ“00_SoundFX”内で検索窓に“Foot”と入れることで足音のファイルとそれらが含まれるフォルダだけをピックアップしている

 さて、もう一歩活用しましょう。よく使う音源やエフェクトをラックやプリセットとして保存する際に、カテゴリーに応じた接頭辞、例えばEQには“_FXEQ_”、コンプやリミッターは“_FXDY_”と付けると、検索効率が飛躍的に高まります。

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筆者はデバイス名に接頭辞を付けることでカテゴリーごとにデバイスを管理。“FXEQ”で検索するとEQデバイスのみが表示されるシステムを構築することで、検索効率を上げている

 そうは言っても“毎回付けるのは面倒くさい”との声が聞こえてきそうです。自分もかつてはそうでしたが、今はマクロをショートカット登録するフリーフェアで自動化しています。私が使うのはKeyToKeyというWindows専用フリーウェア。これを活用して“Ctrl+F2キーでよく使うEQをリストアップ”まで自動化しました。リストアップできれば、マウスを握らず矢印キーで選択してEnterキーを押すだけで選択中のトラックにロードできます。

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筆者はWindows用ソフトウェアKeyToKeyを使用してCtrl+F2キーを押すことでよく使うEQがリストアップされるように設定している。そのほか、Ctrl+F1はよく使うインストゥルメント、Ctrl+F3はダイナミクス系がリストアップされる設定だ。なお、サード・パーティ製のソフトウェアのため、使用する際はABLETONのサポート対象外であることを了承いただきたい

 自動でロードまで行う設定も可能ですが、そこまで頻繁に使うなら“デフォルトオーディオトラックとして保存”または“デフォルトMIDIトラックとして保存”すると良いかなと。

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MIDIトラック上で右クリックすると、メニュー最下段に“デフォルトMIDIトラックとして保存”(オーディオ・トラック上では“デフォルトオーディオトラックとして保存”)が表示される。保存すると、最初から任意のインストゥルメントとエフェクトを読み込むことができるようになる

 ちなみに、私はこんなラックが読み込まれるように設定しています。なお、これはLive外部に対して行う設定なので、ご自身の責任の範囲で行っていただければと思います。

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筆者がデフォルトに設定しているラック。左から、Utility、EQ Eight、Compressor、Utilityと並ぶ。Utilityは2段がけしており、前段では音量が大きいソフト音源などのインプット・ゲインを調整。後段のUtilityでは、ミキサー側の音量やパンニングをオートメーション用に温存するため、音量やパンニング、ステレオ・イメージを調整し、ざっくりとしたミックス・バランスを作っている

 作曲や編曲は基本的に“面倒くさい”との戦いです。その“面倒くさい”に打ち勝つには常に効率化が必要。ショートカットを整備して体にたたき込みつつ、ライブラリーを整理、構築して最短距離でたどり着く方法を模索する日々の鍛錬が重要です。Liveのブラウザはその辺り、打てば響く設計です!ぜひご自身なりの活用方法を探してみてくださいね。

 

オカモトタカシ

【Profile】12sound合同会社代表社員/作編曲家/ゲーム・サウンド・クリエイター/Ableton認定トレーナー。開発会社のインハウス・クリエイターを経て独立。近年は『オバケイドロ』『こちら、母なる星より』『彼女、お借りします ヒロインオールスターズ』『五等分の花嫁 五つ子ちゃんはパズルを五等分できない。』『Re:ゼロから始める異世界生活 偽りの王選候補』などのゲーム音楽を手掛けてきた。

【Recent work】

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『オバケイドロ』
©️Freestyle,inc.

 

ABLETON Live

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LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)

REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境

製品情報