初めまして! サンレコ初登場のオカモトタカシでございます。サンレコ読者歴26年、こうして執筆の機会をいただけてとても光栄です! 特にウチの奥さんが喜んでおります(笑)。さて私、主にゲームの分野で作曲したり効果音を作ったり組み込みしたりという仕事をしておりまして。本号から3カ月にわたって、どのようにABLETON Liveを活用しているのかを紹介していきたいと思います。
複数の映像をまとめて作業可能。効果音制作に適した条件を網羅
ゲーム分野で効果音を作る流れは、“クライアントから送られてくる映像資料に音を付ける→OKなら個別に書き出して組み込みに回す”というのが一般的なフロー。その“映像資料”が曲者で、短い尺のものが多数五月雨式に送られてくるのです。内容は“火の魔法(小)”“火の魔法(中)”“火の魔法(大)”だとか、“必殺技を発動する際のモーションのエフェクト(キャラによって微妙に尺が違う)”のようなもので、それぞれ別ファイルで届くことがほとんど。その一つ一つにDAWのプロジェクト・ファイルを作成するのも非効率的ですし、後々修正が入って映像が差し替わる可能性を考えると、送られてきた映像資料を一つのプロジェクト上で作業したいのです。
また、その作業ではシンセを使って非現実的な音を作る機会も多く、MIDIトラックも駆使したいので“複数のムービーを一つのプロジェクト・ファイルに並べられる”“それらに音を付けた状態でエクスポートできる”“MIDIトラック上でソフト音源を鳴らせる”という条件を満たすDAWを使いたいのですが、実はそれってすごく限られているのです。
その中にあってLiveはすべて満たしております! しかも尖りまくったエフェクト群を標準装備、かつ自由度の高いオートメーションと、まさにゲーム向けの効果音作成に条件がそろいまくっているのです。グリッドをフレーム単位にはできないものの、マスター・テンポを225BPMに設定すれば32分音符グリッドが1/30フレーム、64分音符グリッドが1/60フレームになるので、短い尺のムービーなら十分扱えると思います。
新バージョンで進化したShifter。強力な効果をもたらすGrain Delay
さてその“尖りまくったエフェクト群”の中からお気に入りのものを幾つか紹介させてください!
●Shifter
Live 11.1のベータ版より、Frequency ShifterがShifterへ名称変更。従来のShift(新バージョンではFreq)、Ring変調モードに加え、音程的な倍音構造を維持したままピッチが上下する一般的なピッチ・シフトのPitchモードが搭載されました。Freqモードでは、倍音構造に関係無く周波数(Hz)単位でピッチが上下し、非音程的な方向にもシフトされるので思わぬ表情の変化に出会えたりしますね。マニュアルには実例としてドラムのチューニングが挙げられていますが、私は取りあえずいろいろな音にShifterをかけてみます。圧倒的に面白いのは和音やアルペジオを鳴らしている楽器素材。FreqモードでCoarseを触るだけで和音の構造そのものが破壊され、簡単に不可思議な効果音を得られます。そのほか左右の信号の位相をコントロールして音を広げるパラメーターなど、サウンド・デザインの基礎たる部分がきっちりまとまっていて、使いやすいエフェクト・デバイスですね。
●Grain Delay
マニュアルには“入力信号を細かい粒(grain:グレイン)に切り分け、グレインごとにディレイをかけるエフェクト”とあります。実際に適当な音にかけてみると大変にカオスな音が出ますね(笑)。特にディレイ・タイムをランダム化する“Spray”と、ディレイ成分をピッチ・シフトする“Pitch”“Rand Pitch”の組み合わせは実に強力。不規則に揺れて落ちるナックル・ボールのようなディレイが得られます。
Rack機能を駆使して自作できる効果音加工に便利なプリセット
Liveには複数のエフェクトや音源をひとまとめにする“Rack”という機能があり、私はよく使うエフェクトをプリセットとしてまとめています。かいつまんで解説すると、マルチバンド・ダイナミクスで2バンドに分割し、各帯域にShifter→Grain Delayをインサート。その後2バンドを混ぜてからHybrid Reverbがかかるようになっています。シンプルな設計ですが、望む加工が手早くできて重宝しているのです。こういった“自分以外喜ぶ人居ないだろうな……”的なパッチをすぐカスタムできるのはLiveならではの機能ですね。
続いて、ランダマイズを駆使した効果音生成用の自作Rackを2つ紹介します。ゲームのジャンルにもよりますが、“キラキラした音”はかなり使用頻度が高いもの。単独ではもちろん、SEの輪郭をはっきりさせたり、立体感を出したりするためにレイヤーして使うことも多いので、手早くバリエーションを作りたいと思って自作したRackが、Bell Designerです。特にWavetableは本当に便利。豊富な波形の中から、きらびやかな波形素材を元にしてパラメーターを調整し、コーラスやリバーブをインサートしてベル的な音が出るようにしています。さらに、幾つかのパラメーターをマクロにマッピングしてランダマイズすることによって、ボタン一発で多くのバリエーションを生み出せるようにしているのです。ウェーブテーブル自体も手動で切り替えれば、より多くのバリエーションが作れますね。
次は、UISE Designerと名付けたRackを紹介。ゲーム内でユーザー・インターフェース操作時に再生される“ポッ”とか“ピッ”といった効果音は再生回数がとにかく多く、作品全体の操作感と世界観が大きく左右される重要なポイントです。例えば、柔らかめファンタジーな世界観のゲームでは“木の質感の音で統一”、SF設定なら“サイバーな質感で統一”など、サウンド・デザイナー的にはその辺りの文脈はきっちりしておきたいところ。このRackでは、それらの素材をWavetableで選択しつつ、エンベロープ・パターンとエフェクトを一定の範囲でランダマイズしてバリエーションを生み出しています。
Liveは“足回りがしっかりしている”という大前提がありつつ、手癖からの脱却をサポートしてくれる偶発的なパラメーターが要所に用意されているのです。その辺りが自分にとって毎日飽きずに触り続けられる重要な要因かなと考えています。
オカモトタカシ
【Profile】12sound合同会社代表社員/作編曲家/ゲーム・サウンド・クリエイター/Ableton認定トレーナー。開発会社のインハウス・クリエイターを経て独立。近年は『オバケイドロ』『こちら、母なる星より』『彼女、お借りします ヒロインオールスターズ』『五等分の花嫁 五つ子ちゃんはパズルを五等分できない。』『Re:ゼロから始める異世界生活 偽りの王選候補』などのゲーム音楽を手掛けてきた。
【Recent work】
『オバケイドロ』
©️Freestyle,inc.
ABLETON Live
LINE UP
Live 11 Lite(対象製品にシリアル付属)|Live 11 Intro:10,800円|Live 11 Standard:48,800円|Live 11 Suite:80,800円
*オープン・プライス(記載は市場予想価格)
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS X 10.13以降、INTEL Core I5以上のプロセッサー
▪Windows:Windows 10 Ver.1909以降、INTEL Core I5以上またはAMDのマルチコア・プロセッサー
▪共通:8GBのRAM、オーソライズに使用するインターネット接続環境