2年ぶりのフル・アルバムとして『30』をリリースしたUVERworld。今回は曲作りを先導するTAKUYA∞と克哉に、制作方法や使用機材、ライブに向けた音作りに特化したインタビューを敢行した。克哉のプライベート・スタジオで話を聞くと、2人は“歌詞に寄り添うオケの音作りを意識した結果、ほとんどが打ち込みになった”と潔く発言。これは、詳しく聞くしかない。
Interview:Mizuki Sikano Photo:Hiroki Obara
バンド・サウンドは意図的に引き算
―前作『UNSER』はエフェクティブで超低域を感じるサウンドが鍵で、UVERの高揚感を一変させていた印象です。 1月号の特集「プライベート・スタジオ」で克哉さんは「TAKUYA∞と彰がLAで感じたことがきっかけで低域のあり方」を強く意識するようになったのが『UNSER』の制作に影響した”とコメントされていましたね。
TAKUYA∞ LAでプロデューサーのスタジオを見て“こういう環境で自分たちの音楽の音を確認していくべきだよな”と思って。で、まずGENELECのサブウーファー7040Aを買って、自分たちのスタジオや曲作りのためにずっと使っている録音スタジオに持ち込んだんですよね。
―『UNSER』はエレクトロニックやダンス色が強く出ていたので、低域はエフェクティブな音との親和性を高める役割を果たしていた印象でした。でも『30』は演奏の人間味やボーカルのニュアンスを際立たせるために、低域も含め全体のサウンドがコントロールされている印象です。
克哉 『UNSER』が出来上がったときに、TAKUYA∞がポロッと“もうちょっと歌詞が入ってくる感じにしたいな”っていうのを言ったんですよ。僕は今回それがずっと頭にあって、歌詞に寄り添うようなオケの音作りを一番意識したんですよね。だから重心となるベースやドラムは残しつつ、バンド・サウンドについては『UNSER』よりも『30』の方がだいぶ意図的に引き算した感じです。エゴを割と取り払って、すっきりさせました。
―ボコーダーも『UNSER』のときのメインにがっつりかけるのとは違い、メインのドライにボコーダーを重ねて厚みを出す使い方をよくされているようでした。
克哉 今回はボコーダーをハモリとしても使っていましたね。コードにして、TAKUYA∞がしなさそうなメロディ・ラインを奏でてみたりとか。現時点では、ボコーダーには音の聴き心地として新鮮なものを感じるので、そういった自分たちにとって新しい音を求めるときに有効な手段なんです。
―TAKUYA∞さんはボコーダーにどういったイメージを抱いていますか?
TAKUYA∞ 今、好きですね。今までドライな歌が好きだったので、自分の声にエフェクトをかけるのはあまり好きじゃなかったんですけど、やっぱり曲の雰囲気と合うし。エフェクトで変化させていくことの楽しさにも気付いたんですよね。
―『UNSER』を経てそう思うようになったのですか?
TAKUYA∞ ん~、基本的に僕たちって自分たちのあり方について音楽のジャンルだったりとか、音の肌触りに関してはこだわりが無い方がいいと思っているんですよ。
―それはいろいろな音楽性を混ぜる上での感覚?
TAKUYA∞ もう、もはや混ぜる感覚も無いんですよね。僕らは“らしくなさ”が一番好きだから。俺らっぽいとか、ロックっぽいとか、それは僕たちにとって必要の無いことで。もちろん、EDMとかハードコア“たるもの”が確実にあるのは分かっているし、一つのジャンルに特化されている人もそれはそれで僕らも格好良いとは思うんですけど。ただ、僕らみたいに“っぽさ”からどれだけ離れることができるのか、っていうのを考えるのも時々重要だと思う。
生っぽい音はほぼ打ち込み
―その“っぽさ”から離れるために何をするのですか?
TAKUYA∞ 僕ら洋楽のヒット・チャートとか旬なものが好きなんですよ。ただ、新しいもので奇をてらうだけではなく、そこに“歌詞がしっかり届く”のは軸にあって。おそらく生っぽい音は生のアンサンブルを使っているように思われたと思うんですけど、ほとんど打ち込みなんですよね。
―え、ほとんどと言うと、どれくらいですか?
TAKUYA∞ ベースなんて弾いてるの2、3曲なんじゃないかな。僕らは全員打ち込みするので。
克哉 ドラムも、割合で言うと録音した音は少ないですね。
―ドラムはほぼソフト音源ということですか?
克哉 最後だけレコーディング素材入れるとか?
TAKUYA∞ 大体、採用されないですね。生音って周波数レンジも不安定ですし。安定していない低域とか、ヒューマニズムな感じも良いんですけど、音源で何を伝えたいかというところで優先順位を決めていくと、打ち込みになっていく。基本的には1に歌、2に曲の世界観を大事に考えて、それ以外をとにかく削ぎ落とす。3辺りでバンド感が出てきますが、それは曲によって出すべきかを考えるんです。僕らはライブと音源の考え方を分けている。どんな楽曲でもライブで格好良くする自信がありますし。しかもライブをCDに詰め込むのって不可能で、そこで何かおかしなことになるから。メンバーの共通言語は“歌が良ければそれでいい”ってやつなんですよね。
克哉 僕とか楽器をメインで弾くメンバーは全員でめっちゃこだわって作って“俺らはここまで良いと思う。あとはどっちが良い?”って最終ジャッジをTAKUYA∞にしてもらってるんです。歌詞の伝わりが良い方を選んでもらいたいので。あと、TAKUYA∞は音選びのセンスがめっちゃ良いんですよね。
TAKUYA∞ 「AVALANCHE」はIZOTOPE VocalSynth 2のかかったボーカルを軸にすることが初めに決まっていて、そのメロディとか基準となるサウンド・メイクはかっちゃん(克哉)が持ってきたんですけど。
克哉 TAKUYA∞は僕が突っ込み切れない処理も感覚的にグッと行ってくれるので、最終的にVocalSynth 2とかの設定は任せたんですよね。
―TAKUYA∞さんもご自身のスタジオでDAWと向き合ってプラグインなどを触ったりされるんですね。
TAKUYA∞ 多少しますけど、音を探すとか面倒くさいことは一切しなくなりました。ここ3~4年の音のことはかっちゃんに任せてます。だから今は、かっちゃんにオーディオ・ファイルなどを渡して“これをちょっとMIDIで作って良い感じにやっといて”って頼んだりするんです。
克哉 で、音を探す旅に出るっていう。俺はそれがむしろ好きなので。TAKUYA∞には良い歌詞を書いてもらわないといけないですし。
―それを主に担うのは克哉さんだけですか?
TAKUYA∞ それについては、かっちゃんだけを信頼していますね。ベースは信人に頼むし、適材適所なんですけど。
―例えば、彰さんは?
TAKUYA∞ 彰は俺がイメージしたものをアレンジするよりも、0を100にしてもらうのが一番良いんですよね。“SE作っといて”って丸投げする方が、自分の世界観をちゃんと作り込んできてくれます。
インタビュー後編(会員限定)では、 実際に使用したプラグインを紹介しながら、各パートの音作りへのこだわりを語っていただきました。
Release
『30』
UVERworld
(gr8! records)
Musician:TAKUYA∞(vo)、克哉(g)、信人(b)、彰(g)、真太郎(ds)、誠果(sax、manipulate)、愛笑む(vo)、青山テルマ(vo)、山田孝之(vo)
Producer:UVERworld
Engineer:平出悟
Studio:芸森、Cloud Lodge