皆でバンドの音楽性を拡張させるベく一人でアレンジの挑戦をし続けるための場所
UVERworldのリーダーでギタリストの克哉は、バンドの作曲/アレンジに積極的に参加しており、3年前に造ったこのA-Life studioで日々制作しているという。コロナ禍で、より快適なスタジオ環境を目指し、現在もさまざまに改良中だそうだ。またUVERworldはメンバー全員がAPPLE Logic Proを扱いアレンジにかかわるとのこと。それがバンドの音楽性を拡張させ続ける理由になっているという。
Text:Mizuki Sikano Photo:Yusuke Kitamura
デッド過ぎる空間にしたくないので吸音材などは張っていない
まずはUVERworldの楽曲制作のフローを、克哉が考えるプライベート・スタジオの必要性と合わせて聞いた。
「まずはTAKUYA∞がメロディを作るんですけど、僕らはそれを踏まえて皆でアレンジを考えます。その方法は“各自で一斉に自分のパソコンに入ったAPPLE Logic Proと向き合いAメロ~サビを考える”というもの。それを集めて、一番ハマるパズルのピースを探すんですよ。この方法だと、メンバーが個人で作業するプライベート・スタジオがどうしても必要になるんです。最近はコロナ禍というのもあり、僕はスタジオで過ごす時間も増えたので、より居心地の良い場所にしようと思って改良中です。部屋の照明を変えたり、棚を作ってもらうなどしました。これからスピーカー裏の壁に絵を描いてもらう予定でいます。だからまだ自分の中でA-Life studioの完成度は8割くらいなんです」
A-Life studioは鉄筋コンクリート造ビルのワンフロアにあり、12畳ほどの面積になっている。
「この物件を見つけたのは3年前くらいだったと思います。周囲はオフィスや店舗なのと、ここはワンフロアに1物件の部屋なので、騒音の心配が少ないです。僕はそこまで生音の録音や爆音でのミックス作業などをしないので、壁からの反響音もそれほど気になりません。それに、デッド過ぎる空間にしたくなかったので、吸音材などを張るのはやめました」
デスクにはATCの3ウェイ・アクティブ・モニター・スピーカー、SCM25A Proが設置されている。
「ロサンゼルスに行った際に、現地のクリエイターがスタジオでATCのモニターを使っていて、その音が衝撃的だった……何を鳴らしても良い音だったんです。A-Life studioに置くモニターはほかのメーカーのものも候補にしていたけれど、SCM25A Proが圧倒的に解像度が高くて奇麗だったので選びました。サブウーファーはGENELEC 7040Aです。モニター・コントローラーはCONISIS M04で、SCM25A Proと7040Aを個別で音量調整できるようにしています。ディスプレイの前に置いているスピーカーPHONON ML-1 WBは、デモ作りをしてラフ・ミックスのチェックなどを行う際の2ndモニターとして使うことが多いです」
次にスタジオを造ったメリットを尋ねると「シンプルに、良い音で作業できるようになったこと」と即答する。
「ちょうどA-Life studioを造っていた3年前にTAKUYA∞と彰がロスから帰ってきて、Jポップと洋楽の低域の違いについて理解したことを僕らに共有してくれたんです。それで10thアルバム『UNSER』を制作する前に、僕らは“低域のあり方”について強く意識するようになりました。でもイアフォンとかヘッドフォンとかで作業していると疲れて、もう低域の判断ができなくなってくるんですよ。でも、せっかくの良い音楽を良い音で届けたいじゃないですか。良いスピーカーとウーファーで疲れずにチェックできる環境になって、より音の研究と向き合えるようになりましたね」
シンセとのバランスにこだわった結果、エレキギターはライン録り
制作では主にギターをライン録りで行っており、最近はライブでもアンプ・シミュレーターをよく使うという。
「ギターはDIのUMBRELLA COMPANY SignalForm Organizerに入れて、そこからオーディオ・インターフェースのAPOGEE Symphony I/O MK IIを介してLogic Proに録音しています。そうしたらアンプ・シミュレーターFRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe FX IIIやKEMPER Profiler Rackを使ってリアンプするんです。Axe FX IIIはライブでも使っています。僕らはシンセとのバランスにこだわるので、ギター・アンプの音は稀(まれ)にちょっと遠めに響くのが気になるんです。どれだけオンマイクで録っても、音はラインの方が速いことが多い。シンセに負けない奇麗なギターにするために、ラインで録って、後でアンプ・シミュレーターやプラグイン・エフェクトで音色加工するこの方法は、即座に修正もできて便利です」
克哉はギター以外にも、ミックスを依頼する前にボーカル処理を担当することもあるという。
「例えば「AVALANCHE」のボコーダーは、僕がTAL Vocoderやそのほか3、4種類のボコーダーで作ったんです。2年前くらいにTAKUYA∞が自分の声に飽きたと言っていて、それから僕はボコーダーなどを勉強し始めて……そうしたら声を音としてとらえて遊ぶのが結構楽しいことだと知ったんですよ。僕らは常に革新的なものを求めているので、A-Life studioでは人前だと恥ずかしくてできないアレンジとかを一人で試してみたり、挑戦や実験をし続けられるのがいいなと思っています」
Equipment
DAW System
Computer:APPLE Mac Book Pro
DAW:APPLE Logic Pro、PRESONUS Studio One
Audio I/O:APOGEE Symphony I/O MK II
Outboard & Effects
Channel Strip:GOLDEN AGE PROJECT PREQ-73 Premier
Amp Simulator:FRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe FX III、KEMPER Profiler Rack
Plugin Effects:KILOHEARTS Multipass(Mulch Effect)、TAL Vocoder (Vocal Effect)、STLTONES STL ToneHub、NEURAL DSP Archetype: Tim Henson(Amp Simulator)、etc.
Recording & Monitoring
Monitor Speaker:ATC SCM25A Pro、PHONON ML-1、GENELEC 7040A
Microphone:SLATE DIGITAL ML-1
Headphone:BEYERDYNAMIC DT880 Pro
Instruments
Keyboard:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol A49
Software Instruments:KILOHEARTS Phase Plant、ARTURIA V Collection、SPECTRASONICS Omnisphere(Synthesizer)、SPECTRASONICS Trilian(Base Library)、NATIVE INSTRUMENTS Battery 4(Sampler)、etc.
Guitar:PRS 513、GIBSON HummingBird、VANZANDT、SUHR、etc.
克哉
6人組ロック・バンドUVERworldのリーダーでギタリスト。“自分たちの世界を超えて広がる”という意味のバンド名が提示する通り、幅広いジャンルのサウンドを取り込んだ多彩な楽曲が持ち味。2020年には、バンド結成20周年を迎えた。
Recent Work
『AVALANCHE』
UVERworld
(gr8! records)