克哉(UVERworld)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

克哉(UVERworld)のプライベート・スタジオ|Private Studio 2022

皆でバンドの音楽性を拡張させるベく一人でアレンジの挑戦をし続けるための場所

 UVERworldのリーダーでギタリストの克哉は、バンドの作曲/アレンジに積極的に参加しており、3年前に造ったこのA-Life studioで日々制作しているという。コロナ禍で、より快適なスタジオ環境を目指し、現在もさまざまに改良中だそうだ。またUVERworldはメンバー全員がAPPLE Logic Proを扱いアレンジにかかわるとのこと。それがバンドの音楽性を拡張させ続ける理由になっているという。

Text:Mizuki Sikano Photo:Yusuke Kitamura

デッド過ぎる空間にしたくないので吸音材などは張っていない

 まずはUVERworldの楽曲制作のフローを、克哉が考えるプライベート・スタジオの必要性と合わせて聞いた。

 

 「まずはTAKUYA∞がメロディを作るんですけど、僕らはそれを踏まえて皆でアレンジを考えます。その方法は“各自で一斉に自分のパソコンに入ったAPPLE Logic Proと向き合いAメロ~サビを考える”というもの。それを集めて、一番ハマるパズルのピースを探すんですよ。この方法だと、メンバーが個人で作業するプライベート・スタジオがどうしても必要になるんです。最近はコロナ禍というのもあり、僕はスタジオで過ごす時間も増えたので、より居心地の良い場所にしようと思って改良中です。部屋の照明を変えたり、棚を作ってもらうなどしました。これからスピーカー裏の壁に絵を描いてもらう予定でいます。だからまだ自分の中でA-Life studioの完成度は8割くらいなんです」

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デスク周り。克哉はDAWのAPPLE Logic Proを20年間使用しているという。VSTプラグインを使うためにPRESONUS Studio Oneも併用もするそうだが、克哉は「まだStudio Oneを習得できていないので、ほとんどLogic Proを使っている。最近はABLETON Liveが気になります」と話す。ディスプレイ前には2ndモニターとして使用しているスピーカーPHONON ML-1 WB、さらに手前にはキーボードのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol A49が置かれている

 A-Life studioは鉄筋コンクリート造ビルのワンフロアにあり、12畳ほどの面積になっている。

 

 「この物件を見つけたのは3年前くらいだったと思います。周囲はオフィスや店舗なのと、ここはワンフロアに1物件の部屋なので、騒音の心配が少ないです。僕はそこまで生音の録音や爆音でのミックス作業などをしないので、壁からの反響音もそれほど気になりません。それに、デッド過ぎる空間にしたくなかったので、吸音材などを張るのはやめました」

 

 デスクにはATCの3ウェイ・アクティブ・モニター・スピーカー、SCM25A Proが設置されている。

 

 「ロサンゼルスに行った際に、現地のクリエイターがスタジオでATCのモニターを使っていて、その音が衝撃的だった……何を鳴らしても良い音だったんです。A-Life studioに置くモニターはほかのメーカーのものも候補にしていたけれど、SCM25A Proが圧倒的に解像度が高くて奇麗だったので選びました。サブウーファーはGENELEC 7040Aです。モニター・コントローラーはCONISIS M04で、SCM25A Proと7040Aを個別で音量調整できるようにしています。ディスプレイの前に置いているスピーカーPHONON ML-1 WBは、デモ作りをしてラフ・ミックスのチェックなどを行う際の2ndモニターとして使うことが多いです」

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164mmベース・ドライバーを採用するATCの3ウェイ・アクティブ・モニターSCM25A Proをメイン・スピーカーとして使用

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サブウーファーはGENELEC 7040Aで「最初はバンドで購入したものですが、それを引き取って今は僕が使っています」と克哉は話す

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ヘッドフォンはセミオープン型のBEYERDYNAMIC DT880 Proを使用。メイン・スピーカー+サブウーファーの音量調整は、モニター・コントローラーのCONISIS M04で行っているそうだ

 次にスタジオを造ったメリットを尋ねると「シンプルに、良い音で作業できるようになったこと」と即答する。

 

 「ちょうどA-Life studioを造っていた3年前にTAKUYA∞と彰がロスから帰ってきて、Jポップと洋楽の低域の違いについて理解したことを僕らに共有してくれたんです。それで10thアルバム『UNSER』を制作する前に、僕らは“低域のあり方”について強く意識するようになりました。でもイアフォンとかヘッドフォンとかで作業していると疲れて、もう低域の判断ができなくなってくるんですよ。でも、せっかくの良い音楽を良い音で届けたいじゃないですか。良いスピーカーとウーファーで疲れずにチェックできる環境になって、より音の研究と向き合えるようになりましたね」

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SLATE DIGITALのバーチャル・マイクロフォン・システムVMSに対応するコンデンサー・マイクML-1は、デモのボーカルやアコギの録音に使用しているという。ポップ・ガードはSE ELECTRONICS製

シンセとのバランスにこだわった結果、エレキギターはライン録り

 制作では主にギターをライン録りで行っており、最近はライブでもアンプ・シミュレーターをよく使うという。

 

 「ギターはDIのUMBRELLA COMPANY SignalForm Organizerに入れて、そこからオーディオ・インターフェースのAPOGEE Symphony I/O MK IIを介してLogic Proに録音しています。そうしたらアンプ・シミュレーターFRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe FX IIIやKEMPER Profiler Rackを使ってリアンプするんです。Axe FX IIIはライブでも使っています。僕らはシンセとのバランスにこだわるので、ギター・アンプの音は稀(まれ)にちょっと遠めに響くのが気になるんです。どれだけオンマイクで録っても、音はラインの方が速いことが多い。シンセに負けない奇麗なギターにするために、ラインで録って、後でアンプ・シミュレーターやプラグイン・エフェクトで音色加工するこの方法は、即座に修正もできて便利です」

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デスク脇に置かれたスタジオのメイン・エレキギターPRS 513。「ピックアップの切り替えによって13通りの音が出せて、FENDER Stratocasterのような芯のある硬質なサウンドも作れます」と克哉は話す

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左から、GIBSON HummingBirdは「シャキッと音が立っていてロック・バンドで混ざるギター」とのこと。VANZANDT、SUHRのギターは最近購入したもので「今まで高域が攻撃的な感じのギターを選んでいなかったので、少し自分にとって異質なものが欲しかったんです」と購入理由を話す

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ギター録音に使われているDIのUMBRELLA COMPANY SignalForm Organizer(上)とボーカルやアコギ録音に使っているというGOLDEN AGE PROJECTのチャンネル・ストリップPREQ-73 Premier(下)

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上からアンプ・シミュレーターのFRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe FX III、KEMPER Profiler Rack、一番下にはオーディオ・インターフェースのAPOGEE Symphony I/O MK IIが置かれている

 克哉はギター以外にも、ミックスを依頼する前にボーカル処理を担当することもあるという。

 

 「例えば「AVALANCHE」のボコーダーは、僕がTAL Vocoderやそのほか3、4種類のボコーダーで作ったんです。2年前くらいにTAKUYA∞が自分の声に飽きたと言っていて、それから僕はボコーダーなどを勉強し始めて……そうしたら声を音としてとらえて遊ぶのが結構楽しいことだと知ったんですよ。僕らは常に革新的なものを求めているので、A-Life studioでは人前だと恥ずかしくてできないアレンジとかを一人で試してみたり、挑戦や実験をし続けられるのがいいなと思っています」

 

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“UVERworld”と書かれたネオン・サインで部屋の後方を飾っている

Equipment

 DAW System 
Computer:APPLE Mac Book Pro
DAW:APPLE Logic Pro、PRESONUS Studio One
Audio I/O:APOGEE Symphony I/O MK II

 Outboard & Effects 
Channel Strip:GOLDEN AGE PROJECT PREQ-73 Premier
Amp Simulator:FRACTAL AUDIO SYSTEMS Axe FX III、KEMPER Profiler Rack
Plugin Effects:KILOHEARTS Multipass(Mulch Effect)、TAL Vocoder (Vocal Effect)、STLTONES STL ToneHub、NEURAL DSP Archetype: Tim Henson(Amp Simulator)、etc.

 Recording & Monitoring 
Monitor Speaker:ATC SCM25A Pro、PHONON ML-1、GENELEC 7040A
Microphone:SLATE DIGITAL ML-1
Headphone:BEYERDYNAMIC DT880 Pro

 Instruments 
Keyboard:NATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol A49
Software Instruments:KILOHEARTS Phase Plant、ARTURIA V Collection、SPECTRASONICS Omnisphere(Synthesizer)、SPECTRASONICS Trilian(Base Library)、NATIVE INSTRUMENTS Battery 4(Sampler)、etc.
Guitar:PRS 513、GIBSON HummingBird、VANZANDT、SUHR、etc.

 

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克哉

6人組ロック・バンドUVERworldのリーダーでギタリスト。“自分たちの世界を超えて広がる”という意味のバンド名が提示する通り、幅広いジャンルのサウンドを取り込んだ多彩な楽曲が持ち味。2020年には、バンド結成20周年を迎えた。

 Recent Work 

『AVALANCHE』
UVERworld
(gr8! records)

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