TENDRE インタビュー【前編】アルバム『IMAGINE』の制作スタジオを公開!

TENDRE インタビュー【前編】アルバム『IMAGINE』の制作スタジオを公開!

ベース、キーボード、ギターなど楽器の演奏にとどまらず、プログラミングも行うマルチプレイヤー河原太朗のソロ・プロジェクト=TENDRE。今回は彼の新しいプライベート・スタジオを訪問して、メジャー1stアルバム『IMAGINE』のデモのアイディアと使用楽器の関係など、楽曲の発生源にスポットを当てて話を聞いた。

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki

生ピアノが実家にあったので一番聴きなじみがあるのかな

この新しいスタジオに名前はありますか?

TENDRE え、名前ですか? 考えたこともなかったな……じゃあTENDRE Studioにします。

 

今ジャズが流れていますが、普段からTENDRE Studioでこういった音楽を流しているのでしょうか?

TENDRE 基本的に休日とかはずっと流してますね。僕はピアノ・トリオが好きで、それらはライブの熱量みたいな音源ではあるけれども、音色が何よりもすっと入ってくるから良いなと思うんです。

 

生ピアノの音が好きということですか?

TENDRE 最近はそうなのかなぁ……疲れたときに、ふと再生ボタンを押すのがジャズに限らずピアノの入った曲なんですよ。ピアノの音が単純に昔から好きなんでしょうね。

 

TENDREのどの楽曲でも鍵盤楽器に色気を感じます。シンセも効果的に用いられていますね。

TENDRE 実機の音が好きなんですよね。『IMAGINE』にはシンセのASHUN SOUND MACHINES HydraSynth Keyboardをよく使いました。WURLITZERのエレクトリック・ピアノ200Aも持っています。生ピアノについては実家にあったので、一番聴きなじみがあるのかな。

 

 TENDRE Studio 

2021年に引っ越したのをきっかけに新しく設けたプライベート・スタジオ。ASHUN SOUND MACHINES Hydra Synth Keyboardなどライブでも使用する一部の楽器は、外部の倉庫に保管されているという。

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デスク周り。APPLE MacBook Proには同社のLogic Proが入っており、出力はUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin Xを通ってパワード・モニターのGENELEC 8010Aへ送られている。写真右にデモ制作時のボーカル録音に使われているコンデンサー・マイクNEUMANN TLM 103、写真左下にライブ配信で使用するダイナミック型BEYERDYNAMIC M88TGがある。ヘッドフォンは密閉型のBEYERDYNAMIC DT150

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マイク入力などを行うアナログ・ミキサーYAMAHA MG10のメイン・アウトはApollo Twin Xへ送られて、USB接続でMacBookにつながっている

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WURLITZER 200Aは「ハンマーの具合や少し入るノイズなどが魅力。弾いた心地が感じられるのがいい」と河原は語る

デモ作りの手順でも、最初に触れるのは鍵盤ですか?

TENDRE 確かにそうですね。下地を描くためにスタジオに行って生ピアノを弾いて録音することも多いです。ビートのストックもあるし、まず自分の中のアイディアを増やすんですよ。サンプルを録っておくこともある。友達が何の気なく発した言葉の言い回しや声質とかがヒントになって、面白いものができたりもします。最近ギター用ピッチ・シフター・ペダルのDIGITECH Whammyを買って、音色からイマジネーションが広がることもありました。

 

ピアノだけじゃなく、ベース、シンセ、サックスなどまでご自身で演奏されますよね。『IMAGINE』収録曲では「PARADISE」や「胸騒ぎ」「FLOWER」「RAINBOW」はすべてお一人での演奏です。

TENDRE 『IMAGINE』を2020年の12月から作り始めて、何となく本当は一人で作ろうと思ってたんですよ。でも進めるうちにだんだん心情の変化があって“周りに頼ってもいいのかも”って思った。声をかけるまで少し意地になってたんですよね。でもそれが故に、よくできたなって思う部分もあるんですけど。「ENDLESS feat. SIRUP」とかでは、それが顕著かもしれないですね。

 

作品クレジットによると、歌詞作りからシンガー・ソングライターのSIRUPさんが参加していますね。

TENDRE  SIRUPは音楽性のルーツないしデビューした時期も違うけれど、歩んできたプロセスが似ていたんです。どういう意思でアーティストとして発言するかとかを考えさせられるキッカケになった友人でした。尊敬できるから一緒にできる、足し算でなく、かけ算の関係が良い。他者からいろいろと吸収したいんです。誰かと作る音楽の魅力は『IMAGINE』を作る中で再認識できた部分があります。

 

共同制作では、デモ作りの入口が変わりますか?

TENDRE 「ENDLESS feat. SIRUP」は、僕がベースで石若駿のドラムとセッションをして曲の骨組みを作ったんです。この時点で僕はプレイヤーのモードなんですけど、そこからDAWと向き合って鍵盤楽器を重ねたりするときにはプロデューサーの気持ちになっている。デモという土台作りでは、自分の持つさまざまな側面を発揮します。

 

SIRUPさんとはシンガーのモードで対話する?

TENDRE 常に全体を見るプロデューサーではあるけれど、そうですね。シンガーとしてSIRUPの歌っていることに共感を覚えたり、僕の歌を聴いて何か言ってくれたり、そういうのがお互いの糧になっていました。SIRUPは同じシンガーとして歌の力や言葉の選び方で、自分に無いものを持っている。もっと彼の魅力を知りたいから、歌詞もすり合わせたりはしないんです。お互いにアーティストとしてやりたいことを、各々が別々のバースで用意した感じ。そして制作が進んで、最終的にミックスのときはプロデューサーの顔になっているのでしょうけど。

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「ENDLESS feat. SIRUP」の冒頭のコーラスにかけたというテープ・シミュレーターWAVES FACTORY Cassette。河原による6trと河原とSIRUPによる6trの全12trのコーラスが「遠くから合唱団の声が聴こえて、何か始まる予感」の役割を果たすために用いたという

制作過程でスイッチが切り替わるのが面白いですね。

TENDRE 特に、誰かと一緒に生楽器の録音をするときとかは“いかに良いプレイやフレーズが残せるか”っていう、野生的になる時間です。

 

楽曲を理性的に見るのにDAWが役立っていますか?

TENDRE はい。でも寝る前とかにアイディアが浮かんでAPPLE Logic Proに向かうと途端に現実性を帯びてくるのが、ちょっと難しいですよね。シンセの音色が発想源なら“この音だけでいける”って喜びがあるのに、音を探せば探すほどに見付からないときがあるじゃないですか。おいしいご飯を本能のままに入れられるだけぶち込めたら良いけれど、よくまとめようとすると考え込んじゃうことが多いです。

 

ソフトには、本能が反応するようなうま味は無い?

TENDRE ソフト・シンセはめちゃくちゃ使っていて便利なんですけど、実機よりは音が細いので聴感上の感動が少なくて、でも奇麗で滑らかだからほかのパートとなじみやすいですよね。実機のROLAND Jupiter-XとかSEQUENTIAL Prophetは温かみや音圧があって、ローも多いから逆になじまないときもある……ハードとソフトの音を半々で用意する感覚で、両方とも大事にしたいです。

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デモ制作ではARTURIAのソフト・シンセをよく使用しており「ビンテージっぽい質感がインスピレーションになる」とのこと。丸みのあるJupiter-8Vがお気に入りだという

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、 楽器がアルバム『IMAGINE』に与えた影響とミックスへのこだわりを聞いていきます。

Release

『IMAGINE』
TENDRE
(ユニバーサル)

Musician:TENDRE(all)、小西遼(sax、fl)、石若駿(ds)、Yohchi Masago(tp)、中島由紀(vln)、山本大将(vln)、舘泉礼一(vln)、関口将史(vc)、他
Producer:TENDRE
Engineer:小森雅仁、葛西敏彦、染野拓
Studio:ABS RECORDING、青葉台、Augusta、HeartBeat recording studio、MONOGRAM SOUNDS、ATLIO、MECH、Somewhere

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