オカモトコウキ、オカモトショウ(OKAMOTO’S)インタビュー【前編】〜多彩で洗練された音像の『KNO WHERE』

オカモトコウキ、オカモトショウ(OKAMOTO’S)インタビュー【前編】〜多彩で洗練された音像の『KNO WHERE』

オカモトショウ(vo)、オカモトコウキ(g)、ハマ・オカモト(b)、オカモトレイジ(ds)からなる4人組ロック・バンドOKAMOTO’S。最新アルバム『KNO WHERE』には、多彩で洗練された音像の17曲を収録。ロック、ヒップホップ、AOR、エレクトロが反応し合って交わったり、格闘して心地良い攻撃性を放っていたりと、楽曲構成からアバンギャルドさが感じられる一枚。今回は作曲/作詞の中心人物、オカモトコウキとオカモトショウに制作の話を聞いた。

Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki(上の写真を除く)

今のOKAMOTO’Sだからこそ説得力を持ってできる挑戦

「Pink Moon」と「M」は電子音のビートが入った完全にダンス・ミュージックの音像で、とても驚きました。

ショウ 昔から得意で最近やってなかったこと、最近の自分の得意なこと、未来に向けた挑戦、全部自分たちが嘘無くできるすべてを広範囲でとにかくやってみようって、コウキとデモを作っていたんですよね。今のOKAMOTO’Sだからこそ、説得力を持ってできる挑戦がしたくて。

 

全体的にトラディショナルなロックを、コンテンポラリーなサウンドや、構成のアバンギャルドさで包み込んでいるような印象です。後半の曲では実際に、イントロとアウトロが電子音ですが、サビがロックだったりしますよね。

ショウ 確かに前までの4人で成立するものから結構はみ出して、挑戦的でいたいと思ってましたね。今はDAWで丸々曲が作れるからこそ、工夫したものを作りたいという出発点はあった。でも、僕らはほぼ楽器を一発録りしているし、それぞれの演奏が気持ち良いかどうかみたいなのが、自分たち的にかなり重要なんですよね。サビでバンド然とするのもそのあんばいでしょうね。

コウキ 極端なことを言うと、2人でデモを作っているときには「Pink Moon」や「M」のニュアンスが全編にあるようなものでもいいんじゃないかって話していたんです。一発録りでトラディショナルなフォーマットからちょっと逸脱して、あるところでは打ち込みや電子音があって、次の瞬間すごくいなたいギター・ソロが入り込んでくるとか、雑多なものになってもいいんじゃないかなって。でも実際にそれをバンドのリハで演奏してみると、やっぱり4人での気持ち良さとか、ライブでどういうふうにやっていくのかとか、そういうことを考えて揺り戻される部分もあった。それでも今までのアルバムと比べてみると、だいぶ攻めたサウンドにできたんじゃないかと思います。

 

ファンクのグルーブとトラック・メイカーがオーディオ・サンプルをDAW上で切り張りするグリッド感、2つの感覚が絶妙なバランスで混ざっている気がするんです。

コウキ 僕も聴き返すと、結構自分らがやってることが特殊な混ざり方をしているなって思いますね。APPLE Logic Proで割と縦がしっかりそろったデモを仕上げて、それをレコーディングで人力でやっているから。

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Studio KiKiの2階のスペース。オカモトショウ、オカモトコウキはここでデモ制作を行った。メイン・ディスプレイとMacBookが同期されており「ショウさんが来て作業するときに、2人で1つのプロジェクトを操作して打ち込みできるのが便利」だと言う。スピーカー後方の木製の壁には吸音材を張り、天井には布をかけてモニター環境を整えているようだ

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2階のデスク周り。スピーカーはYAMAHA HS7、オーディオ・インターフェースはUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin、キーボード/コントローラーのNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61、ヘッドフォンのBEYERDYNAMIC DT770 Proが置かれている

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オカモトコウキのプライベート・スタジオStudio KiKiにてAPPLE Logic Proで作った「Young Japanese」デモのプロジェクト画面。オカモトショウ、オカモトコウキが、ドラムや高音のシンセ・パートなどを交互に打ち込みをしてから、ギターやシンセ・リフを入れて楽器パートから作曲することが多かったという

音の分離感にこだわってLogic Proでアレンジを構築

パンクとかガレージ・ロックの一発録りだと特有のルーム感で一体感を演出することもありますが、『KNO WHERE』は分離感が際立つ奇麗な音がしますね。

コウキ 分離感は今までで一番考えてこだわっていて、アレンジも構築したんですよね。BRIAN SHINSEKAIがキーボードを弾いてくれて、ギターが必ずしもずっとコードを弾かなくてよくなったことも大きいのかなと思います。

 

埋めるための演奏をしなくてよくなったんですね。

ショウ アレンジの詰めとBRIAN SHINSEKAI、どちらも作用したんだろうね。僕は2021年のロック・バンドの最新形の格好良いアルバムってこういうことでしょ?って提示できるアルバムを作りたい気持ちがありました。例えばアークティック・モンキーズ『AM』やテーム・インパラの『Currents』。どちらも時代の音と昔からのロックの良いとこ取りをしてるのと同じニュアンスで追求したかった。ジャンルごとのそれっぽさで聴きやすさが左右するじゃないですか。ロック以外を好む人が受け入れたくなるサウンドであり、ロック・ファンが熱狂する、ロック最高って思える音を作りたいって考えてたと思います。

コウキ 密室で録って音がカブる、いわばフィル・スペクターのサウンドみたいなのから僕らは出発したんだけど、雑多な感じとかも含めてハイブリッドなニュアンスを追求したいなと。曲調が目まぐるしく変化したり、極端なアレンジが一カ所に集まってるとこからポップに展開したり、そういう時代のカオスをパッケージしたかったんです。

 

ショウさんのボーカルも、今までの衝動性をはらんだ生歌というより、ケロケロ・ボイスになっていたり楽器隊とのなじみが深まっているような印象です。

コウキ ボーカルの加工とかコーラスの入れ方とかも、以前とは比べものにならないぐらいこだわったかもしれない。まず個人スタジオ=Studio KiKiでエンジニアの青木(悠)さんに来ていただいて、AVID Pro Toolsに本チャンを録音したりしました。僕や一緒にスタジオを運営している(マスダ)ミズキちゃんが録音を担当するときもありましたね。

ショウ ミックス段階では青木さんに、歌詞ごとに細かく区切って音像を変えてもらったり、リクエストに応えていただきました。ボーカルがバツッと切れたりする表現は、今みんなやってますよね。もうアナログ機材でやる時代じゃないし、プラグインとかで変更できるから、そういう時代ならではの凝り方をしているんじゃないかと思います。

コウキ 「Welcome My Friend」で思いっ切りボン・イヴェールみたいにしようとか話して、海外のSOUNDTOYS Crystallizerのチュートリアル動画とか見てめちゃくちゃ勉強したりね。あと「When the Music's Over」のサビのコーラスとかR&B的な感じも新鮮かも。

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アコースティック・ギターのGUILD D-25とデモ制作のギター録音で使用しているエレキギターのSQUIER BY FENDER Classic Vibe '60S Telecaster Thinline

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以前使っていたYAMAHA NS-10Mのためのモニター・コントローラーJBL PROFESSIONAL M-Patch 2やギター用エフェクターのLINE 6 Helix Rack、チャンネル・ストリップPRESONUS Studio Channelをセット

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左からAUDIO-TECHNICA AT4050、デモの歌録りによく使うというSHURE SM7B。オカモトショウのボーカル録りに使われたAKG P420は「ロックに合っていて、自然なコンプ感とミッドにガッツがある感じで録れる」とオカモトコウキは語る

「When the Music's Over」からの「M」からの「MC5」の目まぐるしい曲調の変化もすごく印象的です。

コウキ 「When the Music's Over」は、本当は最後の曲にしようとしてたんだよね。

ショウ でもアルバムがこってりし過ぎて、それだと最後まで聴く人が居ないんじゃないかって。その3曲は確かに『KNO WHERE』を象徴していて、プレイ的な面白さから打ち込み、生演奏っぽい曲になる一番振り幅がある部分。「MC5」とか「Blow Your Mind」は最近は避けてきたOKAMOTO'Sのロックくさい部分なんですよね。活動10周年を迎えて日本武道館ライブも終えたOKAMOTO'Sが、次のアルバムどうする?ってときに“もうロックくさいのよくない?”みたいな飽き性も含めた照れがあったのですが“いや、でも結局俺らロック好きだし!”って感情に目を逸らさず制作しようって。「MC5」は、曲調が変わる前までは2011年ぐらいに作ってボツになった曲のままなんですよ。

 

このタイミングで掘り起こした理由は?

ショウ 時々昔のデモとかを聴き直しているから、ボツにはなってたけど、俺は気に入ってたんですよね。俺たちもそれぞれが違う音楽を好きで、それを見せようとしたら束になってきて。でも厳選して、この形になりました。

 

 

インタビュー後編(会員限定)では、Studio KiKi1階の機材写真を中心に、二人によるデモ制作の様子や使用した音源&プラグインを振り返ります。

Release

『KNO WHERE』
OKAMOTO’S
BVCL-1176
(Sony Music Labels)

Musician:オカモトショウ(vo、perc)、オカモトコウキ(g、prog)、ハマ・オカモト(b)、オカモトレイジ(ds)、BRIAN SHINSEKAI(k)
Producer:クレジット無し
Engineer:Giorgio Blaise Givvn、青木悠(B-PILOT)
Studio:Studio KiKi、ONKIO HAUS、Studio Sound DALI、BAMP STUDIO

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