オカモトショウ(OKAMOTO'S)インタビュー【前編】〜ソロ・アルバム『CULTICA』は既聴感を抱かない音像を目指して実験/開発をしました

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OKAMOTO'Sのボーカリストで、同バンドの作詞/作曲も手掛けているオカモトショウがソロ活動をスタート。1stアルバム『CULTICA』をリリースした。テクノ、ヒップホップ、ハード・トランス、エレクトロ、ハウス、フォーク、ロックといった多種類の音楽性が歌やラップとともに展開したり、渾然一体となって押し寄せる作品。この混沌が聴者を時に心地良く、時にかき乱す……まさに“カルト的”と言えるユニークな構成にこだわった10曲を収録している。オカモトショウが自宅で自らボーカル/シンセ/アコギの演奏と録音、トラック・メイクも行ったからこそ描けた“謎”とも言うべきか? 紐解いていく。

Text:Mizuki Sikano

 

今すごくピュアな気持ちでテクノが好き
このエネルギーを生かして作りたかったんです

ー『CULTICA』を聴いた印象は、ロックを演奏してきた方でないと作らないようなリズム、フレーズ、歌メロの電子音楽だなということでした。

ショウ そうなるように意識はしました。僕はOKAMOTO’Sで10年ロックに触れてきたけれど“生録音に勝るものは無い!”とかそういう考え方はしていなくて、今すごくピュアな気持ちでテクノが好きなんですよ。このエネルギーを生かして音楽を作りたかったんですよね。

 

ー普段からテクノをよく聴いているのですか?

ショウ もともとは興味が無かったし、理解もできなかった。でも、ケミカル・ブラザーズ、ダフト・パンク、プライマル・スクリームは世代的にも通っていて格好良いと思っていたんです。でも彼らはデジタル・ロックとか、さまざまなジャンルの要素をミックスさせた音楽ですよね。

 

ーほかのジャンルと融合しない生粋のテクノに興味を持ったのは最近のことですか?

ショウ 2018年ですかね。ヨーロッパに父親が住んでいたのもあって、ロンドン、イタリア、スペイン、ドイツへ観光旅行に行ったんですよ。それでベルリンに行ったときに、ふと“ベルリンと言えばクラブじゃん”と思って遊びに行ったんです。そしたら、かなり大きなカルチャー・ショックを受けて……テクノの楽しみ方を知ったんですよね。

 

ーそのとき、ベルリン・テクノにはどういった印象を抱いたのでしょうか?

ショウ リズムのループで、過度な楽曲展開は不要であることから、民族音楽のような側面があるなと思いました。あとはEQで作り上げる気持ち良い音やグルーブを楽しむみたいな感じ……だから6時間ぐらいずっとクラブで聴いて、最後の方でちょっと展開して気持ち良いみたいな感覚を魅力的なことだなと初めて思えたんです。

 

ーしかし『CULTICA』は、テクノ以外にも、ヒップホップ、ハード・トランス、エレクトロ、ハウス、フォークなど、さまざまなジャンルのミクスチャーですよね。

ショウ 真面目なテクノを作るならば別名義でやった方が良いと思ったんです。今回僕がやろうとしているのは“オカモトショウ”のソロ・アルバムだったので、テクノに傾倒した時期だったとはいえ、テクノ一辺倒の作品は違うなと思った。だから、さまざまな音楽の影響がめちゃくちゃに混ざったものを作ることにしましたね。テンポもテクノでよく聴かれる140BPMを意識的に避けています。

 

ーテクノ以外で自分に流れてきている音楽の影響を反映させる目的があったということですか?

ショウ そうですね。自分のソング・ライティング能力への挑戦というか……自分が良いと思う音楽をできるだけ混ぜて、実験/開発をしたかったんです。そして『CULTICA』を一種のカルト盤にしたかった。ほかで聴く機会の無いすごく変な音楽を作れたら良いなと。だから耳当たりが良かったり、みんなが既聴感を抱く音像は作らないようにしています。“何これ?”と疑問に思うような音を目指しました。

 

ーカルトと言うと、例えばデヴィッド・リンチも謎を描いた中に苦悩や狂気を潜ませたりしますよね。

ショウ そういう感じです(笑)。“本筋とかからは外れている感じ”というか。普通の人が頑張って生きているメイン・ストリートに必要な音楽や映画とかは絶対にある。そこと全く関係無く存在している面白い作品ってあるじゃないですか。デヴィッド・リンチなら『ツイン・ピークス』は結構良いけど、ほかの映画を要らないと思う人も多いですよね。カルトは多くの人の豊かな人生に直結はしないけれど、一部の変わり者を支えることはできるのが魅力だと思う。だから、僕も自分が作れる“カルト”に挑戦したんです。友達には言わないけど、自分だけが知っている自分ってあるじゃないですか。友達に話すほどのことじゃない、しょうもないと思われそうな話とか。そういうものをソロならば反映して作っても許される気がしました。

 

ーOKAMOTO'Sでは扱わない領域なのでしょうか?

ショウ やってはみたいけど合わないだろうなって。OKAMOTO'Sでは演奏のグルーブを大事にしていて、楽曲では洗練とかインテリな部分を出したいわけですよね。だから引き算をしながら作曲します。でも僕個人はフィル・スペクター、大滝詠一、ビーチ・ボーイズといった系譜にあって、基本的に足し算が好きなんです。ソロに関しては“IQ低くて良いでしょ”って思っているから歌を録った後にシンセをたくさん足すのを繰り返しました。一方で「You Need Love」とか「Don’t Go to Heaven」では“不器用な人のテクノを作りたいがための引き算”をしています。プリミティブが故に音数が少ないみたいな引き算です。打ち込みの達人は、全体とのバランスを取りながら絶妙な位置に最適な音を埋めていくけど、ここではとにかくそういうアプローチはしないように心掛けました。

 

ー打ち込みを始めたのはOKAMOTO'Sのデモ制作?

ショウ そうですね。最初はギターの弾き語りをAPPLE GarageBandに録っていたんです。でもOKAMOTO’Sでアニメ『HELLO WORLD』(2019年)の主題歌(「新世界」)を作ったときに、尺が決まっていたので秒単位の調整をすることがあって。プロジェクトに映像を張れるAPPLE Logic Proの方が作りやすいということで購入しました。バンドにおけるDAWの役割は主に録音なんですが、ソロにおいてはもう少し創造的な役割を果たしてくれる存在だと思います。

 

ー宅録もされるとのことですが、『CULTICA』のボーカルのレコーディングはどのように?

ショウ すべて自宅で録音しました。マイクは今回ミックスをお願いしたエンジニアの小森雅仁さんにお借りしたSONY C-100です。クリーンな音で録れて加工しやすいコンデンサー・マイクだと思います。オーディオI/Oは以前から使っているZOOM TAC-2です。ボーカルには曲調に合わせてフェイザーやオートチューンといったエフェクトを積極的にかけました。

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作業場として使用しているのは、何年間もキッチンのコンロの上だという。「キッチンの後ろの壁にもたれかかると、コンロに置いたコンピューターや楽器との距離がちょうど良くて身体の収まりが良いので、このスタイルは気に入っている」とオカモトショウは語る。APPLE MacBookの下にはフライパンとオーディオI/OのZOOM TAC-2、そしてヘッドフォンのSONY MDR-CD900STがある。右側にはMOOGのセミモジュラー・シンセDFAMとMother-32が2台、奥にDOEPFER Dark Energy IIIとBEHRINGER TD-3-SRが見える

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録る場所と編集する場所は分けたい」と話すオカモトショウは、キッチンとは別の場所で録音を行っているという。マイクはエンジニアの小森雅仁氏に借りたというSONY C-100

≫≫≫後編に続く(会員限定)

 

インタビュー後編(会員限定)では、楽曲「Don’t Go to Heaven」のDAWプロジェクト・ウィンドウや、バスドラに使用したMOOG DFAMのセッティングを公開!

www.snrec.jp

 

Release

『CULTICA』
オカモトショウ(OKAMOTO’S)
(ソニー)

  1. SAKURA
  2. CULT feat.Pecori
  3. Slider feat.Last Dinosaurs
  4. You Need Love
  5. GHOSTS feat.Pecori
  6. Don’t Go to Heaven
  7. LOOP feat.AAAMYYY
  8. GLASS feat.AAAMYYY
  9. Replay feat.Pecori
  10. Revolution

Musician:オカモトショウ(OKAMOTO’S)(vo、prog、g、syn)、Pecori(vo)、AAAMYYY(vo、prog、syn)、Last Dinosaurs(g)、Sharar Lazima(cho)
Producer:オカモトショウ(OKAMOTO’S)、Pecori、AAAMYYY、Last Dinosaurs
Engineer:小森雅仁、葛西敏彦、青木 悠 (B-PILOT)
Studio:Studio CULT、ABS RECORDING、studio ATLIO、BAMP STUDIO