オカモトショウ(OKAMOTO'S)インタビュー【後編】〜MOOGとDOEPFERとSEQUENTIALのシンセを駆使してウェスタン・トランスを完成させました

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インタビュー後編では、1stアルバム『CULTICA』に納められた楽曲それぞれの制作過程を紐解きながら、「Don’t Go to Heaven」のDAWプロジェクト・ウィンドウとプラグイン・エフェクト、バスドラに使用したMOOG DFAMのセッティングを見ていこう。

Text:Mizuki Sikano

 

≫≫≫前編はこちら

ありえないことが平然と起こる
独創的なムードを出したかった

ーフィーチャリング・ゲストに踊Foot WorksのPecoriとAAAMYYY、Last Dinosaursが参加していますが、オーディオ・データのやり取りで制作を進めたのですか?

ショウ PecoriとAAAMYYYちゃんは近所に住んでいてよく会うから“何か作ろうよ”って感じで参加してもらいました。Pecoriとの曲はサウンドの相談をしながら作りました。もらった意見に基づいて音を探して、ラップはPecoriが、オケは僕が担当しています。AAAMYYYちゃんとは実際に会って一緒に演奏したりはしたけれど、オケはほとんど彼女がLogic Proで作ったものです。Last Dinosaursはオーストラリアのバンドで、今回はギタリストのラクラン・キャスキーと2人で作っています。ラクランとも基本的にはデータのやり取りで、半年以上かけてゆっくり制作しました。

 

ー「CULT feat.Pecori」で、ヒップホップに始まってフォークに展開するのにはとても驚かされました。

ショウ 不思議ですよね。映像作品で『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』というシリーズがあって、俺とPecoriはそれが大好きなんです。フェイク・ドキュメンタリーで、内容はかなりカルティック。例えば、ディレクターが撮影をしながらカッパを探しに行って、ぶん殴るまでの一部始終を映しているとか……このムードを出したいなって。

 

ーどういったムードなのでしょうか?

ショウ ありえないことが平然と起こってしまう独創的な世界ですね。このシリーズはCGも白石晃士監督が自ら行っていて、そのコラージュの質感に魅力があるんです。明らかに嘘なんだけど、監督の熱意で本当の出来事みたいになっちゃっている。ありえないことを技術じゃなくて、情熱で持っていく感じに感動したんですよ。

 

SEQUENTIAL Prophet-6を弾いて
2時間分のオーディオを切り張りしました

ー同じくPecoriさんが参加する「Replay feat.Pecori」はキレの良いハード・トランスと粘り気のあるヒップホップ・ラップ、そしてハッピーな歌メロのミックスですね。

ショウ Pecoriと彼の家で“無い音楽を発明しよう”って話をしたんです。AAAMYYYちゃんの家にSEQUENTIAL Prophet-6があるから借りて、自分の演奏をサンプリングしました。100BPMで合計2時間分ぐらいの演奏をして、家に帰ってトラックを並べて切り張りしていったんです。最初はビート無しの状態のシンセだけが鳴っている謎なトラックを作りました。でもビート無しではまとまらないねって話をして、完全に不協和音になっているサビにポップなメジャーっぽいメロディを乗せて、テンポを200BPMに上げてバスドラも倍にしたんです。そうやって作っていたら“トランスにウェスタン・ギターを乗せている人は居ないんじゃないか”ということを思い付いて……結果的にウェスタン・トランスというジャンルが完成したんですよ。世界初かもしれない(笑)。ウェスタン・トランス・トラップ・ハイパー・ポップとも言えますね。

 

ー「SAKURA」もトランスがベースになっていますね。

ショウ 「SAKURA」は一番最初に作った曲で、俺の打ち込み感が一番出ている。2020年の春にコロナ禍で楽器屋へ選びに行けなかったので、バスドラ以外は全部Logic Proのプラグインで作りました。“ヒュンヒュン”鳴っているシンセの下降音はLogic Pro内蔵シンセのツマミを操作して、リアルタイムに録音したものです。シンセ・ブラスもLogic Proの音源を使っていて、ディレイやリバーブなど空間系エフェクトで加工しました。バスドラは、僕が好きなイギリス/グラスゴーを拠点とするテクノ・レーベル=Soma Recordsの『Soma Sample Pack - Layered Kicks』というサンプル・パックの音を使っています。

 

バスドラとスネアはMOOG DFAMを
ハイハットはLogic Pro内蔵プラグインです

ー「Don’t Go to Heaven」はアナログらしいウォームなシンセ・ビートが印象的です。

ショウ アルバム制作終盤にMOOGのシンセMother-32×2台をベーシストのマーティ・ホロベックから借りて、同じくMOOGのDFAMを自分で購入したんですよ。「Don’t Go to Heaven」はこのアルバムの中でも最後に作った曲なのでDFAMを駆使できました。バスドラとスネアはDFAMで作っています。ハイハットはLogic Pro内蔵プラグインのROLAND TR-909系の音源で、同じく内蔵のEQで要らなそうな低域を削り、コンプで音圧を少し上げて、その後EQでハイとか欲しいところを伸ばし、最後にコンプで仕上げました。ハイハットは高域の生かしどころを、上寄りかミッド寄りか楽曲によって分けています。コンプで余韻を残し気味で作ることが多いですね。

 

ー「GHOSTS feat.Pecori」の最初で聴くようなアシッド・シンセ・ベースはどのように?

ショウ AAAMYYYちゃんに借りたProphet-6で弾いた演奏ですね。Prophet-6で弾くベースは音が太くて、低~高域まで豊かに聴こえるのが心地良いです。上で“キー”と鳴っている効果音はPecoriが見つけてきたサンプルなんですけど、冒頭でシュワシュワシュワ鳴っているシンセは僕が演奏しました。DOEPFER Dark Energy IIIの音をMother-32に通して、ディケイを長く設定しLFOで動きを付けた音です。

 

「Don’t Go to Heaven」Project Window & Plugin

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「Don’t Go to Heaven」プロジェクト・ウィンドウ。画面上部にはボーカル、MOOG DFAMで作ったバスドラ、スネア、ベースなどのオーディオ・ファイルが並び、その下にはLogic Pro内蔵の音源で作ったハイハット、シンセやベルなど上モノのトラックが並ぶ

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Logic Pro内蔵プラグインで、シーケンサーの付いたマルチエフェクトのStep FX。このセッティングは「Don’t Go to Heaven」の1分11秒辺りから聴くことのできるベル音に使われたもの

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「Don’t Go to Heaven」のバスドラに使用したMOOG DFAMのセッティング。2つのオシレーターのうち、1つは三角波、もう1つは矩形波が鳴っている。ディケイは9時の位置、ピッチは10時の低い位置にあり、“VCO EG AMOUNT”でアタックでのピッチ上昇でパンチを加えているのも分かる。2kHz以上をカットオフしており、レゾナンスは抑えられている

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ハイハットにかけられたLogic Pro内蔵EQ/コンプ。800Hz以下の中低〜低域と4kHz付近をカット。“Studio VCA”モードのコンプをかけた後、500Hz以上の高域を持ち上げて、 “Platinum Digital”モードのコンプで仕上げている

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DFAMでドラムのアタック感やパンチのあるバスドラを作った後に、Logic Pro内蔵ディストーションで倍音を付加している。また、EQで8kHz以上の高域をカットし、6kHzと400Hz付近を持ち上げている

 

シーケンサー通りのビートの方が
一周回って格好良いし最新だと思う

ー「GHOSTS feat.Pecori」にはかなり細かくシンセで作ったような効果音が散りばめられていますね。

ショウ シンセで作る効果音ならば、楽曲の軸となるようなサウンドとは別に、存分に鳴らしておいても結構形になるなと思ったんですよね。僕はそういう音が好きなんだけど、OKAMOTO’Sの楽曲には投影できないものだから、ここぞとばかりにPecoriと入れまくったんです。

 

ーそうして切り張りしたオーディオ・データをLogic Proのプラグインなどを使ってエディットしていったと。

ショウ どうしたらLogic Proでテクノっぽい音を作れるか悩んで、あらゆる機能を調べて勉強していたときに便利なプラグインを見付けたんです。Logic Pro内蔵のStep FXというシーケンサー付きマルチエフェクトで、すごく面白いんですよ。基本的にはプリセットを選んでツマミを調整するんですけど、シーケンサーも付いているから音量とリズムを同時に変えることもできる! すごく便利なので各曲で使っています。例えば「You Need Love」のサビにある連続音的なピアノです。よく聴くとディレイ音みたいに加工したボーカルを潜ませているんですけど、そういったオケ中の目立たない音もStep FXで作っています。XYパッドを使えばリアルタイムで音を変えることもできるので、それを録音したりもしました。

 

ーOKAMOTO'Sで人間味のあるグルーブを作っていると、シーケンサーのようにリズムやフレーズの人工的な反復に制約を感じることはないですか?

ショウ DAWで音楽を作る人はグリッドから外してレイドバックさせたいと考える人が多いですよね。でも、僕はシーケンサー通りであったり、ギチギチにクオンタイズされたビートの方が“一周回って格好良いし最新じゃない?”って思っている……言うなれば“外しの美学”です。今回トランスを数曲収録しているけど、もともとトランスってダサいイメージがあったんですよ。でも今は何周か回って超格好良いという感覚がある。それに、どこでどう外すかって、作り手のセンスが試されると思うんです。行き過ぎて気狂だと思われない、絶妙なバランスを心掛けました。

 

ーお一人で制作した曲は葛西敏彦氏が、ゲストの参加する楽曲は小森雅仁氏が、Last Dinosaursの参加する曲は青木悠氏がミックスを手掛けていますね。

ショウ 青木さんはいつもOKAMOTO’Sのミックスをしてくれている方で、小森さんと葛西さんは今回初めてご一緒しました。皆さんとバンド・メンバーのように一緒にセッションをしたかったので、曲の解説を文章で送って積極的に処理をしてもらっていいとお伝えしましたね。

 

ー今後の作品ではご自身でミックスをしたりすることも考えているのでしょうか?

ショウ できるようにはなりたいけど、今はそれよりもっとシンセを買って、シンセの中で完結する音楽を研究したいという気持ちが強いです。ユーロラック・モジュラーを買って、それをミキサーからコンピューターに取り込んで作曲がしたい。そんなこと言って、2年後にめちゃくちゃプラグインを語っているかもしれないですけど(笑)。

 

ーそれは演奏を視野に入れているからですか?

ショウ クラブとかで演奏したら気持ち良いだろうな……前半テクノ・セットで、後半はギターで弾き語りとか(笑)。 “何でそういうことやるんだろう?”とか“誰も喜ばないかも!”みたいなことをやってみたいんですよね。

 

インタビュー前編では、オカモトショウの自宅作業スペース(キッチン)を公開!

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Release

『CULTICA』
オカモトショウ(OKAMOTO’S)
(ソニー)

  1. SAKURA
  2. CULT feat.Pecori
  3. Slider feat.Last Dinosaurs
  4. You Need Love
  5. GHOSTS feat.Pecori
  6. Don’t Go to Heaven
  7. LOOP feat.AAAMYYY
  8. GLASS feat.AAAMYYY
  9. Replay feat.Pecori
  10. Revolution

Musician:オカモトショウ(OKAMOTO’S)(vo、prog、g、syn)、Pecori(vo)、AAAMYYY(vo、prog、syn)、Last Dinosaurs(g)、Sharar Lazima(cho)
Producer:オカモトショウ(OKAMOTO’S)、Pecori、AAAMYYY、Last Dinosaurs
Engineer:小森雅仁、葛西敏彦、青木 悠 (B-PILOT)
Studio:Studio CULT、ABS RECORDING、studio ATLIO、BAMP STUDIO

 

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