単一指向性のスモール・ダイアフラム機ECM-100U、無指向性のECM-100N、指向性可変の2ウェイ・カプセル機C-100。26年ぶりに開発されたソニーの新世代コンデンサー・マイクだ。ECMの2機種は、今年10月にマッチド・ペア製品のECM-100UMP/ECM-100NMPとしても発売され、注目を集めている。今回は、これらソニー新世代マイクを愛用するレコーディング・エンジニア=ニラジ・カジャンチ氏に製品の魅力を語ってもらう。
Photo:Hiroki Obara
そもそもこんなに奇麗でピュアな音のマイクを
ペアにできるのだから使い道が多いと思います
【ECM-100UMP】ソース・フォロワー回路を採用した単一指向性コンデンサー・マイク、ECM-100Uのマッチド・ペア製品。楽器のトランジェントをありのままに収音するという。価格は199,000円前後
【ECM-100NMP】増幅型回路を備え、空間に響く音を色付け無く、存在感豊かに収めるという無指向性コンデンサー・マイク、ECM-100Nのマッチド・ペア製品。価格は223,000円前後
【ECM-100UMP/NMP共通】50kHzまでフラットに伸びる周波数特性を誇る。マイク・ホルダー、ウィンド・スクリーン、スタンド・アダプター、キャリング・ケース、特性図などを付属する
【C-100】高域用カプセルと低域用カプセルを備えた2ウェイ構成のコンデンサー・マイク。指向性可変で、ECMの2機種と同じく50kHzまでの高域特性を実現している。価格は156,880円前後
※記載の価格は市場予想価格
ニラジ・カジャンチ氏がソニー新世代マイクで録ったサウンドをご試聴&ダウンロードいただけます。インプレッションと併せてお楽しみください!
ECM-100UMP × ドラム・セット
ECM-100NMP × ドラム・セット
ECM-100U × ウッド・ベース
C-100ペア × ピアノ
C-100ペア × ドラム・セット
C-100 × ウッド・ベース
オフめでも音の輪郭をとらえるECM-100U
ニラジ氏がソニーの新世代マイクを使い始めたのは発売当初の2018年。“ハイレゾマイク”と銘打ち、50kHzの超高域まで収める仕様から「アコースティックを生かせるソースに使ってみようと思った」と語る。3機種共、ドラムのトップやスネア、ウッド・ベースにピアノ、ブラスなど、さまざまなソースに試したそうで、かねてより使用してきたマイクとの比較まで行ったという。その上で「各モデルに共通しているのは、ものすごくリアルに収音できること」と評する。
「これ以上のリアリティはなかなか無い、と思えるほどです。リスナーから求められるサウンド・クオリティを超えて、作品を作る側が出したい音、さらにはエンジニアが聴き手に届けたい周波数をとらえてくれる。そんなマイクです」
モデルごとに見ていくと、まずはECM-100U。「すごく気に入っています。収音の難しいソースにも有用で、僕の中ではウッド・ベースがその最たるものです」と言う。
「Fホールへのオンマイクから5cmほど引いたところに立てることが多いですね。マイクに入る音というのは、オンから離していくと周波数バランスが整ってくるものですが、代わりに音像がボヤけてしまいます。しかしECM-100Uには、それが無い。少し離してもトランジェントをしっかりと収められるし、低域がやせてしまうこともありませんから、バランスの良さと輪郭を両立できるのです。だからウッド・ベースにECM-100Uを使うときは、EQが要りません。アコースティック・ギターとも相性抜群で、胴鳴りと弦自体の音をバランス良く収められます。存在感の強い音が得られますね」
兄弟機のECM-100Nについては「オンで立ててもルーム感が強く残り、驚くべき情報量です」と言う。この特性をウッド・ベースに応用することもあるそうだ。
「ECM-100Uの指向性でカバーしにくい楽器の場合に、ECM-100Nへ差し替えるとオンマイクながら奥行きのある音が得られます。また、オンマイクへルーム感を加えたいときに、同位相でブレンドできるのもうれしい。普通はオフマイクを混ぜるので、特に低域の位相ズレにはローカットなどの対策が必要なのですが、ECM-100Nなら同じオンで立ててもルーム感を加えられます。これは非常にユニークな部分でしょう」
高域に広大な世界が見えるECM-100N
先述の通り、ECMの2機種はマッチド・ペアのECM-100UMP/ECM-100NMPとしても発売された。「商業スタジオなどでペアのマイクを選ぼうとすると、意外に選択肢が限られるんですよ。ECMのペアが加わればチョイスが増えるわけだし、そもそもこんなに奇麗でピュアな音のマイクをペアにできるのだから、使い道が多そうです」とニラジ氏。
「先日、ECM-100UMPとECM-100NMPをジャズ・ドラマーのトップに立ててみたんです。ECM-100UMPは、もう最高。普段、トップのマイクはシンバルが奇麗に入れば良しとしているのですが、シンバルだけでなくスネアやタムもクリアに収音でき、トップだけでドラム全体をとらえられました。だから、各パーツのオンマイクを途中で使わなくなったんです。ECM-100NMPは、やはりルーム感がすこぶる豊かなので、マレットで演奏する柔らかなプレイにマッチしました。高域については、聴感上はECM-100UMPよりも伸びやかな印象で、広大な世界が見える……それが曲にフィットしているので、本チャンのミックスに採用予定です」
ECMのみならずC-100にも通暁するニラジ氏。さまざまな現場で活用してきたが、最近のトピックとしてはバイオリニスト石川綾子の配信ライブが挙げられる。「バイオリンとFAZIOLIピアノの収音にC-100を使いました。配信でのメリットの一つは、中域に味付けが無いことです」と語る。
「ビンテージ・マイクなどには中域に味付けがあるものも多く、配信ライブで使用すると、スマートフォンやパソコンの内蔵スピーカーでは時に過剰に聴こえてしまいます。その点、C-100の音は中域もクリアで、どのような再生環境にもマッチする印象。これなら映像を見ながらでもスムーズに聴き入ってもらえるだろうと思いました」
ソニー新世代マイクと出会い「どれほどの情報をミックスに入れるべきか考え直す機会を得ました。次の世代の音をイメージしつつ使っていきたいです」と話すニラジ氏。まさに、製品が音楽制作をインスパイアした出来事と言える。
ECM-100UMP / ECM-100NMP / C-100 製品情報
SONY ECM-100UMP / ECM-100NMP / C-100
オープン・プライス
(市場予想価格:199,000円前後/ECM-100UMP、223,000円前後/ECM-100NMP、C-100/156,880円前後)
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