ROTH BART BARON ストリーミング・ライブ at 月見ル君想フ

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 三船雅也(vo、g/写真右上)と中原鉄也(ds/同中央上)から成るデュオ=ROTH BART BARON(ロットバルトバロン)。フォーク・ロックを礎として多様な表現手法に挑む彼らが、東京・青山のライブ・ハウス、月見ル君想フで無観客のストリーミング配信ライブを行った。本稿では音響の面にフォーカスしながら当日の模様をお伝えする。

Text:Tsuji, Taichi Photo:Hiroki Obara

 

ライブ感を強めるために“かぶり”を利用
高域をスムーズに収めるSONYのマイク

 アルバム『けものたちの名前』を引っ下げて、昨年11月よりツアーを行っていたROTH BART BARON。そのファイナルが5月30日に東京・めぐろパーシモンホールで予定されていたが、新型コロナ・ウィルスに伴う緊急事態宣言の発令などで延期に。同日、月見ル君想フにて敢行されたのが、ここでレポートする配信ライブである。普段のライブ・セットから規模を縮小することなく、サポート・メンバーを含む7人編成という大所帯で臨んだ上、iOSアプリFAITH Video Clipperを活用したマルチアングル配信なども実践。オンライン・チケットは1,000円だったが、それをはるかに超える価値があったことはインターネット上の反響を見ても明らかだ。

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三船雅也のマイクはSENNHEISER MD431。足元にはボイス・プロセッサーTC-HELICON VoiceLive 2やNEUNABER TECHNOLOGY Wet Reverb、CHASE BLISS AUDIO Mood、CROWTHER AUDIO Hotcakeなどのギター用ペダルが並ぶ

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中原鉄也のドラム

 当日は、ステージとフロア(通常時の観客用スペース)の両方にミュージシャンが構え、いわばライブ・ハウス全体を使ってのパフォーマンスとなった。PAシステムのインプットは約40chで、YAMAHAのデジタル・コンソールCL5にてミキシング。「配信用システムには2ミックスのみを送っています」とは、サウンド・エンジニア岡直人氏の弁だ。


 「それが視聴者の方々に届く音声なので、ヘッドフォンなどでモニタリングしつつテスト配信もチェックして音作りを進めました。ミュージシャンのマイクとラインだけではダイレクトな音ばかりになってしまうため、ライブ・サウンドらしさを強めるべく、メイン・スピーカーから2ミックスを鳴らしているんです。普段の1/3程度の音量ですが、各マイクにかぶることで“混ざった感じ”が得られる。またフロアにアンビエンス・マイクを立てて、その音もミックスしています。この手法は、別の配信ライブでやってみたときに感触が良かったので、今回も採用することにしました」

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エンジニア岡直人氏

 マレットで演奏されたドラムやペダル・エフェクトの扱いも、通常のライブ・ミックスとは異なっていたそう。


 「マレットの音については、細やかなフェーダー操作が必要でした。ヘッドフォンでモニタリングしていると、タッチの強弱がスピーカーとは違う感じに聴こえるからです。そしてペダル・エフェクトの音。ミュージシャンがボーカル・リバーブなどとして作ってくるプリセットは、ライブ・サウンドとしては深くかかり過ぎている場合があって。普段はあまり気にならないのですが、今回の配信用ミックスではなじみにくい部分もあったので、EQを使ったりして少しドライに聴こえるよう調整しました。原音とエフェクトが混ざった信号しか来ないため、なかなか大変でしたが(笑)」

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岡田拓郎(g)の持ち場。ギターは左からFENDER Telecaster、Jaguar、HARMONYのセミアコ

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竹内悠馬(tp、k、perc)の持ち場。ELEKTRON Digitaktはサンプル・トリガーなどに使用


 今回初めて採用されたツールとして、SONYのコンデンサー・マイクC-100とECM-100Uが挙げられる。前者はペアでドラムのトップに、後者はグロッケンシュピール、トーン・チャイム、ハイハットに使われた。


 「C-100は奇麗な音のマイクですね。高域が暴れて耳障りになるようなこともなく、周波数的にフラットだと思います。普段トップにはAKG C414を立てるのが好きなんですが、比較してみるとC414はもっちりとした音で、C-100はサラっとしている。あとサイズが良くて、取り回しやすいのも魅力です。ECM-100Uに関しては“楽器とマイクの相性”がさらに良い印象でした。グロッケンシュピールなどをスモール・ダイアフラムのマイクで収音すると耳に痛くなりがちですが、ECM-100Uでは高域のピーキーな部分が自然に収められます。とは言え物足りなさは無く、少なくとも今回の配信にはすごくマッチしていました」

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ドラムのトップに使われたSONY C-100。「フラットで奇麗な音」とエンジニア岡氏

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大田垣正信(tb、k、perc)のところにはKORG Microkorg XL+やグロッケンシュピールの姿が

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グロッケンシュピールを収めるSONY ECM-100U。岡氏いわく「高域がピーキーにならず自然な音」

マルチアングルの配信は
本線にプラスしての視聴を推奨

 2ミックスはCL5からビデオ・スイッチャーのROLAND V-1HDに入力され、そのHDMIアウトがビデオ・キャプチャーのI-O DATA GV-HUVCを経て、USB 3.0でAPPLE iMacへとインプットされた。iMacの中ではライブ配信用ソフトのOBS OBS Studioが動作し、そこで音声と映像の時間差を補正。エンコード後、月見ル君想フ生配信特設サイトの“MoonRomantic Channel”から配信された。


 このMoonRomantic Channel はコンピューターでの視聴を推奨しており、当日は7台のカメラによる映像を配信。それに加えてiOSアプリのVideo Clipperを活用した配信も行われ、マルチアングル・チケット購入者は全4台のAPPLE iPhoneで撮影されている映像を自由に選んで見ることができた。視聴にはVideo ClipperをインストールしたiOSデバイスが必要で、音声はメインの配信とは別。「各iPhoneの内蔵マイクが収めた音だったので、メインを視聴しながら、気になるアングルがあればVideo Clipperを併用していただく形をお勧めしていました」と、月見ル君想フの店長タカハシコーキ氏は説明する。

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須賀裕之(tb、k、perc)はトーン・チャイムなども演奏。そのそばにはTEENAGE ENGINEERING OP-1

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トーン・チャイム用のECM-100U

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西池達也(k、b)はMOOG Sub 37、SEQUENTIAL Prophet Rev2、MANIKIN ELECTRONIC Memotron M2D、YAMAHA CP300などを演奏


 ライブ本番は『けものたちの名前』の収録曲を中心に、『HEX』や『ATOM』といった旧譜の楽曲も披露され、約2時間のロング・セットとなった。ダンサブルな前半部とエモーショナルな後半部のコントラストが印象的で、観客を前にしたライブとはまた趣を異にする、研ぎすまされた集中力のようなものを感じた。ROTH BART BARONは7月1日(水)にも有料の配信ライブを予定しているので、今後の新たな公演手法として関心のある方にも、ぜひご覧いただきたい。

 

www.rothbartbaron.com

www.moonromantic.com

 

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