「BEHRINGER TD-3-SR」製品レビュー:アシッドの名機を再現しつつモダンな仕様を誇るアナログ・シンセ

f:id:rittor_snrec:20200501110947j:plain

 

 1990年代アンダーグラウンド・テクノ・シーンには必ずBEHRINGERの製品がありました。ステレオ・イメージを制御するEX1 EdisonやグラフィックEQのUltra Curveシリーズ、そしてコンプMDX2000 Composer。そのBEHRINGERから、90’sテクノを象徴する16ステップ・シーケンサー付きアナログ・シンセ・ベースROLAND TB-303のクローン=TD-3が登場しました。筐体色により製品名末尾が異なり、今回試すTD-3-SRはシルバーです。

 

CV/Gate/MIDI/USB MIDIなどに対応
外部入力やディストーションも備える

 

 TD-3は持った瞬間“あ、軽い”と言葉が出るくらい軽量。思ったよりも重いTB-303とは違います。ボタンのキー・ストロークも軽めで、TB-303で連発したミス・タッチの心配はありません。またオリジナルにもあるCV、Gate、ヘッドフォン用の各出力を備えるほか、Mac/Windows対応のUSB MIDI端子やMIDI IN、OUTなどが加わり、至れり尽くせりです。

f:id:rittor_snrec:20200501112332j:plain

背面には左からライン・アウト(フォーン)、MIDI OUT/THRU、IN、USB 2.0端子(MIDI)、電源スイッチ、DC INが並ぶ。ちなみにヘッドフォン・アウト(ミニ・フォーン/モノラル)はトップ・パネルにスタンバイ

 VCOに用意された波形はTB-303と同じくノコギリ波と矩形波ですが、外部から入力した音声をオシレーターとして扱えるFILTER INを追加しています。単純にオーディオを入力するのも良いのですが、ここは本格的にCVやMIDI、USB MIDIを使って別のハードウェア・シンセやソフト・シンセを同期させ、その音をFILTER INに入れて使うと一味違ったアシッド感たっぷりのサウンドが生まれます。さらに、その音を内蔵ディストーションで加工できたりと、幅広い音作りが可能。しかもこのディストーション、ロング・サステインが特徴のBOSS DS-1をモデルにしているそうです。TB-303+DS-1と比較してみたところ、より深くひずみました。


 パターンの作成方法はTB-303と全く同じです。ただしこの方法、テクノ・シーンでは“南海(難解)路線”とやゆされるほどの癖者。ところがパターン作成をあっさりと行えるMac/Windows用ソフトSynthToolが無償で公開されています。もし独特の打ち込み方が分からなくてもコレで安心。

f:id:rittor_snrec:20200501111955j:plain

Mac/Windows用の無償ソフト、SynthTool。ピアノロールでのパターン作成、TD-3とのパターン・データなどのやり取り、16ポリ機能(PolyChain)の設定などが行える

 いやいや実機での打ち込み方を、というあなたのために方法を説明しておくと、音の高さ、長さ、スライドなどを個別に記録する形。まずはパネル中央MODE欄のPATTERN>WRITEにダイアルを合わせ、パネル下の白鍵に相当する1~8ボタンでパターン格納場所を選択。鍵盤部左のPITCH MODEボタンを押すと“音高の記録モード”に入るので、鍵盤部を使って打ち込みたい高さの音を入力していきます。


 適当なタイミングでFUNCTIONボタンを押してPITCH MODEを終了し、次に音の長さを記録。鍵盤部右のTIME MODEボタンで“音の長さを記録するモード”に入れるので9、0、100のボタンで入力します。9は16分音符、0は一つ前に記録した長さを16分音符だけ伸ばすボタン、100は16分休符です。例えば4分音符の打ち込みは、9を1回押して0を3回押す要領。各ボタンは16分音符の長さ、つまり1ステップなので、16ステップ分を記録した段階でTIME MODEは終了します。そうして記録した音の長さが、先に打ち込まれた音高へ頭から順に割り当てられる仕組みです。


 オクターブの上下、アクセント、スライドを記録する際は再度PITCH MODEに。パネル右端WRITE/NEXTボタンを押すと打ち込み済みの音高が頭から順に鳴らせるので、ボタンを押したまま9(オクターブ下げる)、0(オクターブ上げる)、100(アクセント)、200(スライド)の各ボタンを押しましょう。 

 

ノコギリ波にはキレがあり矩形波は分厚い
低ノイズでレゾナンスが気持ち良く暴れる

 

 TB-303には魔物が住んでいる……バグやエラー、それに各個体の音が全く違うので、当たり外れがあるとよく言われました。複数台を所有してみると確かにそれぞれ出音が違い、経年劣化などによる音の変化だったのでしょうが当時はそんなことも分からず、低音用、メロディ用、ディストーションをかけるための個体などと専用機を決めて使っていました。あのころTD-3を持っていたら、確実にメロディ専用機としていたでしょう。理由は、TB-303のようなサーっというノイズが感じられず、気持ち良くVCFのレゾナンスが暴れるからです。


 TD-3は、パーツの表面実装と性能向上により、クッキリとした輪郭の立った音がします。その反面TB-303より若干の硬さはあるものの、高音の抜けが良く、特にレゾナンスの効いた甲高い音を気持ち良く鳴らすので、ソフト・シンセを中心に曲を作っている方にはとても相性が良いでしょう。このように、厳密にはTB-303と違いはありますが、オリジナルの個体差を考えると、その範囲内のサウンドと言えます。


 詳細を見ていきます。まずはノコギリ波。TB-303の濁ったひずみ気味の音に対し、TD-3はベースらしいキリッとしたサウンドで、楽曲の中で埋もれず前に飛び出します。矩形波は、TB-303ではデチューンした感じで倍音が多く、重心が高めでしたが、TD-3はピッチが正確で分厚く、より低いところで鳴ります。VCFについては、生々しく色気のあるTB-303に対し、TD-3はキレッキレでバッキバキです。TD-3を使って楽曲を作るなら、矩形波はベース、ノコギリ波はメロディとしてVCFをひねりつつ鳴らすのが最適でしょう。


 音もさることながら、TD-3とSynthToolの組み合わせがとても気に入りました。打ち込みの方式からも分かる通り、TB-303のフレーズはほぼ偶然の産物なので再現性が無く、同じものは二度と作れません。そのため、消すに消せないパターンが内蔵メモリーにどんどんたまり、友人との貸し借りの際“このバンクは消さないでね”というお決まりの文句も、TD-3とSynthToolがあれば必要なくなります。TB-303の良さを生かしながら、新しい可能性を秘めたマシンです。

 

問い合わせ:エレクトリ

製品ページ:https://www.electori-br.jp/products/778.html

 

BEHRINGER TD-3-SR

オープン・プライス

(市場予想価格:14,800円前後)

 

f:id:rittor_snrec:20200501112724j:plain


 

SPECIFICATIONS ▪音源方式:アナログ ▪同時発音数:1(モノフォニック) ▪VCO:1基、ノコギリ波/矩形波を選択 ▪VCF:1基、ローパス ▪エンベロープ・ジェネレーター:1基(VCFカットオフ) ▪対応OS(USB MIDI):OS X 10.6.8以上、Windows 7以上 ▪外形寸法:305(W)×56(H)×165(D)mm ▪重量:800g