OKAMOTO’Sの最新アルバム『KNO WHERE』は、ロック、ヒップホップ、AOR、エレクトロなどが反応し合って交わったり、格闘して心地良い攻撃性を放っていたりと、楽曲構成からアバンギャルドさが感じられる一枚。前半に引き続き、作曲/作詞の中心人物、オカモトコウキとオカモトショウに制作の話を聞く!
Text:Mizuki Sikano Photo:Chika Suzuki(上の写真を除く)
インタビュー前編はこちら:
ジャック・アントノフになりきり会話しながら作る
ーデモ制作はショウさんとコウキさんお2人でされていたとのことですが、Studio KiKiで?
コウキ そうですね。Studio KiKiの2階で一緒にデモを作って、出来上がったらバンドの全員に共有して、レコーディングも外のスタジオで行いました。それからボーカルだけStudio KiKiの1階やエンジニア青木さんの個人スタジオで録ったんです。デモのギター録音には、LINE 6 HelixのエフェクトとオーディオI/OのUNIVERSAL AUDIO Apollo Twinを使っています。
ショウ こんなにデモを作れる時間が今まで無かったので、寝かしたり、直したり、アレンジを詰めたりを繰り返しました。だからコウキとは明確過ぎる目的とかで気負うことなく、会って飯とか食いながらいろいろ話せましたね。
ー音の制作は話し合いから発展させるのですか?
コウキ 基本的に集まる段階では何も考えてないんですよね。僕はジャック・アントノフが好きなんですが、テイラー・スウィフトのドキュメンタリーの会話で“歌詞でどんなこと言いたい?”みたいな問いに、“私は恋人と会って鍵を持って外に出るんだけど”って答えて、さらに“その後どうするの?”って問うと“車に飛び乗るの!”からのアントノフが“それだよ!”で、次にはその曲をスタジアムで歌ってるみたいなシーンがあって(笑)。それにめっちゃ感動した次の日が「Sprite」の制作だったんです。ショウさんにも会って一連の話をしたので、その流れで“じゃあ今どんなこと歌詞に乗せる?”って。
ショウ 急にアントノフみたいに、俺に聞き始めて(笑)。
コウキ ここの歌詞には“じゃあ、飲み物の名前とかを出そうか?”って言って“Spriteだ!”みたいな。
ーぜひドキュメンタリーとして鑑賞してみたいです。
ショウ 「M」はマクドナルドに行きたいって歌なんですけど、コウキの家に行くまでの間にマクドナルドに寄ってダブルチーズバーガーのセットを買って食いながら曲を書いていて。“今の俺らのリアルをなるべく出さないといけないと思うんだよね”みたいな話をして考えてみたら“今、確実に俺マック食ってる……”って。
ーなるほど、電子音でできたポップスの音とマクドナルドの大衆感をつなげた表現かと思っていました。
ショウ あ、でも最終的にはそんな感じだと思います(笑)。
コウキ ほとんどの曲で歌詞とメロディが同じタイミングにできていたので、歌詞もサウンドに引っ張られますよね。後から意味がついてくるし、アレンジも凝るから。制作は喋りで盛り上がるのが一番大事かなって思います。
ーデモではどういった音源などを使いますか?
コウキ 基本的にはAPPLE Logic Pro内蔵のものでやっていました。NATIVE INSTRUMENTS Kompleteを買ってシンセのMassiveやHybrid Keysを使っていたんですが、ベースを補強するためにSPECTRASONICS Trilianも買って、それで打ち込みました。
ーその中で本チャンになったものもありますか?
ショウ 「When the Music's Over」のサビでうっすら入っているのはMassiveの音。「Picasso」のサビ裏でコードを打っている部分では、ROLAND Juno-106とかを使いました。連動して鳴っているのはMassiveです。
コウキ BRIAN SHINSEKAIは主にソフト・シンセを弾いていて、モダンな音が欲しいときはSPECTRASONICS Omnisphere 2、レトロなオルガンやビンテージ系シンセの音色が欲しいときはARTURIA Analog Lab Vで使い分けていましたね。デジタル臭を消すために、ソフト・シンセの音にアンプを通して録音もしていました。レトロなシンセ・サウンドが好きなので、デモの音源もLogic Pro内蔵のシンセからそういったパッチを選んで打ち込んでいたと思います。
ショウ 「Sprite」のシンセはMOOG Mother-32で鳴らしていて、「Complication」のバンドインのタイミングで鳴る“デューン!”って音はMOOG DFAMでディケイを伸ばし目に設定した記憶があります。「Young Japanese」のサビ前の連続音もDFAMです。
レイジがTR-808の音をMPCで生ドラムと混ぜて鳴らす
ードラムは何で打ち込みますか?
ショウ Logic Pro内蔵のドラム音色で打ち込んでいて、本チャンには残っていないですね。「You Don't Want It」の2コーラス目前とかでは、ドラムのレイジが持っている実機のROLAND TR-808の音をAKAI PROFESSIONAL MPCに入れて生ドラムと混ぜたりしていました。
コウキ 「Star Game」のハイハットは、音声を入れるとランダムでアルペジオを生成する8ビット・ピッチ・シフト・シーケンサー=BANANANA EFFECTS Tarariraをレイジが使いました。それは彼が持っているやつだったんですけど。
ショウ 買いたてで使いたかったんだろうね。「M」のボーカルにもTarariraをかけていて、ドライと2パターン録ってる。それをミックスをしてくれたギブン(Giorgio Blaise Givvn)が切り張りして使ってるんですよ。
ー「Picasso」でイントロからずっと鳴っている効果音はシンセなどを使って作るのですか?
コウキ 中間部分ではBEHRINGER Odysseyが出てきたりしているけど……缶をたたいた音を録ったりもしたよね。
ショウ ザ・ストゥージズ「Search & Destroy」のデヴィッド・ボウイがミックスしている方に“カーンカーン”って刀をぶつけ合っている音が入っているんですよ。それがウケるって話になって、コウキがやろうって言ってくれたから、パーカッション担当の俺がたたきました。
コウキ あとDメロのドラムはダブっぽい処理がされているよね。それはリアルなテープ・エコーの実機にスネアを入れて、フィードバックをリアルタイムでコントロールしている音なんですよ。それを録ってレイジさんが持っているPIONEER DJのシンセToraiz AS-1の中に入れて、フレーズを作っていたと思います。
ーレイジさんがサンプラーやリズム・マシンなどをかなり所有されているんですね。
コウキ OKAMOTO’Sではあまり使ってこなかったけど、結構持っているようですね。実は「Blow Your Mind」とかの後に、TR-808を使ってハウスっぽくなるアレンジも考えていたんですが、それはボツになりました。ほかにも間奏で鳴っているのはToraiz AS-1だったと思います。
ショウ いつかリミックスみたいな感じで出したいけどね。
ーこの時期だったからこそ『KNO WHERE』の制作にはかなり時間をかけることができた感じですね。
コウキ バンド活動をして10年たったからこそできるというのもあるかもしれないです。いろいろ合致してショウさんとお互いやりたいことの周期が合ったタイミングだったんだろうなとも思います。
ショウ 17曲という長いアルバムが完成したわけだけど、この前リリースされたカニエ・ウェスト『DONDA』とかもっと長いし、これが今のアルバムの形だと思うんだよね。
コウキ 『DONDA』、全然聴けるよね。
ショウ トラップやEDMが世の中に出てきたときに“新しいものが出たぞ!”って皆で駆け寄ってくムードがあったと思うんですよ。でも今ってそういうの無いじゃないですか。皆が自分と向き合ってて、ちょっと暗いムードさえ漂ってる。でも、今まで自分が見聞きしたことに嘘は無いから、そこに真摯に向き合うのが大事だって思うんですよ。
コウキ 『KNO WHERE』はロックのアグレッシブさは残しつつ、作り込まれた音像や曲調の雑多な感じとかは2021年的な雰囲気なんじゃないかなって思っています。
インタビュー前編では、 今のOKAMOTO’Sだからこそ説得力を持ってできる挑戦をしたかったと語る、最新アルバム『KNO WHERE』の全体像を見ていきます。
Release
『KNO WHERE』
OKAMOTO’S
BVCL-1176
(Sony Music Labels)
Musician:オカモトショウ(vo、perc)、オカモトコウキ(g、prog)、ハマ・オカモト(b)、オカモトレイジ(ds)、BRIAN SHINSEKAI(k)
Producer:クレジット無し
Engineer:Giorgio Blaise Givvn、青木悠(B-PILOT)
Studio:Studio KiKi、ONKIO HAUS、Studio Sound DALI、BAMP STUDIO