世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するのはスコットランド出身のビート・メイカー/DJのハドソン・モホークだ。ヒップホップとレイブを大胆に融合した彼の音楽は、2000年代後半のビート・シーンに大きなインパクトを与えたと言っても過言ではないだろう。そんな彼のスタジオで話を聞いた。
Interview & Photo:Hashim Bharoocha
現在のスタジオ
ロンドンからロサンゼルスに移住したのは4年前。そしてこのスタジオを購入したのは1年前だ。コンピューターはWindowsマシンで、DAWはIMAGE-LINE FL Studio。ボーカルの録音はAVID Pro Toolsで行っているよ。
ビート・メイクの手順
決まったプロセスは無い。プロセスを決めてしまうと同じような曲になってしまうからだ。そして、なるべく新しい機材を取り入れるようにしている。そうすることで、毎回新鮮な方法で曲作りができるんだ。機材の使い方を学ぶことは面倒かもしれないけれど、そこから新しい発見ができるんだよ。
音源について
最近好きなのはASHUN SOUND MACHINESのシンセ、Hydrasynth Desktop。パラメーター・ランダマイズ機能を備えているから、予想できないサウンドが生まれる。ドラムにはSEQUENTIAL TempestやBEHRINGER Rhythm Designer RD-8、KORG Volca Beatsなどのリズム・マシンをよく使うね。ソフト音源だとARTURIA Analog Labがお気に入り。ビンテージ・シンセの音色がいっぱい入っているんだ。そのほかには、OUTPUTやSPITFIRE AUDIOもよく使うよ。
ミックスについて
ラックのCRANBORNE AUDIO 500ADATに格納した、API 500互換モジュールで処理することもある。プラグインでは、SLATE DIGITALやUNIVERSAL AUDIO UADなどを使うことが多いね。中でもUADのManley Massive Passive EQは気に入っているよ。自分はビート・メイキングしながらミックスも同時進行するんだ。なぜならミックスも自分のプロダクションの一部だと考えているからね。もしエンジニアが自分の曲を聴いたら“キックが大き過ぎる”というかもしれないけれど、自分はあえてそうしている。エンジニアにミックスしてもらえば洗練された音に仕上がるかもしれないが、自分らしいサウンドでは無くなってしまう。不完全なサウンドが逆に良かったりするからね。
ビートを良い結果につなげるコツ
メインストリームやポップス系のアーティストと仕事をするときは、ビートを聴いてもらう“タイミング”が重要だ。メールで楽曲データを送るだけではうまく行かないことが多いけれど、アーティストとスタジオに居るときに曲を聴いてもらうと良い結果につながりやすい。曲の説明もできるしね。
カニエ・ウェストとの仕事
同じスタジオで作業することが多かったアーティストの一人に、カニエ・ウェストが居る。初めて彼とスタジオに入ったとき、彼に直接ビートを聴いてもらったことがきっかけで楽曲提供の話が決まったんだ。最初にかかわったのは「Mercy (feat. ビッグ・ショーン、 プッシャ・T&2チェインズ)」で、その後彼が立ち上げたレーベル=G.O.O.D Musicのコンピレーション・アルバム『Cruel Summer』に参加したり、アルバム『Life of Pablo』の楽曲を幾つか手掛けたんだ。
読者へのメッセージ
どんなに経験を積んでも、“自分はまだ新人”だと思って制作に取り組んだ方がいい。自分は何でも知っていると思うと曲がだめになってしまうからね。あと、みんなと同じ音源を使わないこともお勧めだ。近年は手軽にサンプルをダウンロードできるWebサービスがあるみたいだけれど、そういうことをしていると、自分のトレードマークとなるサウンドが見付けづらくなる。皆が同じ音色を使い、同じYouTubeのチュートリアル・ビデオを見ていたら、きっとユニークな音楽は生まれないだろう。
SELECTED WORK
『3PAC』
ハドソン・モホーク
(Warp Records)
コロナ禍でツアーがキャンセルとなってしまったため、代わりに2011年から2013年の間に作った未公開トラックをアルバムにまとめて発表したんだ。レアな楽曲がたくさんあるよ。
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