世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するキッズ・イン・ブルックリンは、ニューヨークを拠点とするマット・B(写真左)とチャーチ(同右)によるプロデューサー・チームだ。90'sヒップホップを軸にした音楽を制作し、2019年12月にはシャドウ・ザ・グレート『Blessed』などを手掛けている。
Interview:Keiko Tsukada Photo:Shino
▪キャリアのスタート
チャーチ マットとは、15年ほど前に共通の友達を介して知り合ったんだ。最近のラッパーは、とりあえずYouTubeでフリー・ビートをダウンロードするところから始める人も多いだろうが、俺がラップを始めたころは、まだYouTube自体が広く世間に認知されていない時代。だから、ビートを作るにはまずサンプラーを手に入れることが必要不可欠だった。
マット・B 俺も最初はラップから始めた。俺の場合は、当時インターネットで無償ダウンロードできたDAW、IMAGE-LINE Fruity Loops(現在のFL Studio)を使ってビートを作り始めたんだ。そしたら夢中になって、より本格的な機材が欲しいと思い、サンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPC2000XLを手に入れた。
▪機材の変遷
マット・B MPC2000XLから始めて、その後2人でMPC4000を購入したんだ。MPC4000も好きだけど、2000XLはスウィングのノリがすごくよかったし、サウンドもザラついていて気に入っていたよ。今はハード/ソフトを統合したトラック制作システムNATIVE INSTRUMENTS Maschine Studioをメインに使っている。Maschineソフトウェアではビートをプログラムできるし、コンピューターの画面にずっと集中していなくても、ビート・メイキングができるから便利なんだ。見た目もMPCシリーズと似ているから親しみやすいね。
チャーチ Maschine Studioを使い始めてから、制作スピードが格段に上がった。音も最高だ。制作フローが途切れないところもポイントだね。モニターは、ADAM AUDIOやTANNOY、MACKIE.などいろいろ試してきたけれど、今はYAMAHAのHSシリーズに落ち着いた。YAMAHAのサウンドが好きなんだ。オーディオI/OにはUNIVERSAL AUDIO Apollo 8 Duoを使っているんだけど、理由はUAD-2プラグインを使いたかったからだね。
▪ビート・メイクの手順
チャーチ 俺はまずサンプリングから始めてからビートを作る。それからそのビートをベーシストに送って、ベースを入れてもらうんだ。ベースの生演奏が加わることで、ビートがすごく良い仕上がりになるのさ。
マット・B そのときの気分次第だ。以前はよく2人でスタジオに入って制作していたけれど、最近はオンラインでビートをやりとりして完成させることも増えたね。
▪ビート・メイクの醍醐味
マット・B 一番はサンプリングだね。1930年代のオーケストラから1980年代のソウルやロックまで、幅広くサンプリングできるからアイディアは無限にあると言ってもいいよ。
▪今後の展望
チャーチ 俺たちは、映画などのサウンドトラックの分野にも進出するべきだと思っている。あと、最近グループ名と同じ名前で、アパレル関係の会社もやり始めたんだ。そっちはゆっくりだけど前進しているよ。
マット・B 俺はチャーチの出身地でもあるプエルトリコや、ポーランド、日本など、海外を拠点とするラッパーたちともどんどんコラボレーションしていきたい。アメリカ以外にも良いアーティストはたくさんいるからね!
▪読者へのメッセージ
チャーチ 俺は音楽に助けられた。スタジオにこもって制作していれば、余計なトラブルに巻き込まれずに済んだからな。ビート・メイキングは続けているうちに上達するよ。“継続は力なり”という言葉を信じるんだ。
▪SELF SELECTED WORKS
①『Knowledge Born』
ローフ・ミュージック
(Joshua Colon)
当時無名だったローフ・ミュージックに才能を感じて制作した。現在、MVはYouTubeで170万回以上も再生されている
②『Blessed』
シャドウ・ ザ・グレート
(Shadow the Great)
スミフ・ン・ウェッスンのテックなど素晴らしいラッパー勢が参加したアルバム
③「Gold Mine」(『The Unfortunates 2』収録)
キッズ・イン・ブルックリン
(Joshua Colon)
ザ・ディプロマッツのヘル・レルとデイヴ・イーストがコラボした楽曲