世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するマイク・スロットは、アイルランド出身で、現在はロサンゼルスを拠点とするプロデューサーだ。ヒップホップの影響を受けながらも、エレクトロニカやアンビエントなどを制作。2020年3月には、ビートレスな最新作『Vignettes』をリリースした。
■キャリアのスタート
僕はアイルランドの首都ダブリンで生まれた。僕のいとこはマークスマンというヒップホップ・グループのメンバーで、Talkin' Loudと契約していたんだ。彼はコンピューターを使ってビート・メイクをしていて、僕はとても衝撃を受けた。その後、いとこは音楽制作のためにロンドンに移住し、定期的にア・トライブ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルなどが入ったミックス・テープを僕に送ってくれるようになったんだ。そのときの僕はまだ10歳だったから、すごく影響されたね。それからターンテーブルやサンプラーの存在を知り、自分もビート・メイキングがしたいと思うようになったんだ。
■機材の変遷
最初はターンテーブルを買って、次にYAMAHA SU10というコンパクトなサンプラーを入手した。それからSTEINBERG Cubase LEとMIDIキーボードを手に入れ、初歩的なビートを作れるようになったんだ。しばらくしたらIMAGE-LINE FruityLoops(現在のFL Studio)に移行して、より本格的なビート・メイクができるようになった。そのころ、僕はグラスゴーに移住してハドソン・モホークと友達になったんだ。彼もFruityLoopsを使っていたから、すぐに意気投合したよ。ちなみに彼と僕のデュオ=へラルズ・オブ・チェンジ名義でALL CITY DUBLINからリリースした4枚のEPは、FruityLoopsで作ったんだ。サンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPC60とS950も、ヒップホップの制作においてはクラシックな機材だったからしばらく使っていたね。
■現在の制作環境
今はABLETON Live 10を使用している。一時期はソフトウェア・メインだったけど、最近はアナログ・シンセのKORG Poly-61やNOVATION Bass Station IIなどのハードウェアを用いることも多い。また、セミモジュラー・シンセのMAKE NOISE 0-Coastは、変な音を作り出すのに最適なんだ! 基本的にはDAW内で作業することが多いけど、ハードウェアを使うのも楽しいね。気分によってハードを使い分けたりしているんだよ。
■ドラムに使用する音源
オーディオ・サンプルだ。だけど、なるべく市販のものは使わないようにしてる。皆と同じ音色を使うのはつまらないからね。僕は、スマートフォンやハンディ・レコーダーのZOOM H4Nで周りの物音を録音し、それをドラムの音に加工することが多い。この方がユニークな音になると思うんだ。あとからROLAND TR-808の音を重ねたりすることもあるね。
■使用プラグイン
SOUNDTOYSやVALHALLA DSPがお気に入り。あと、PSP VintageWarmerは長年使っていて、必ずドラム・バスに通すよ。サンプラー・ソフトSERATO Serato Sampleは、サンプル・チョップする部分を自動検出してくれるから便利だ。そこから、新しいアイディアをひらめくこともある。
■読者へのメッセージ
自分のサウンドを探求すること。以前、僕はコンピューターに、“Remeber to forget the world”(世の中を忘れろ)という言葉を書いたテープを張っていたことがある。音楽のトレンドは常に変化しているけど、自分の内面に目を向けたときの方が良い曲が作れる。時間がかかるかもしれないけれど、“こういうサウンドであるべき”という制限を設けず、自由にビート・メイクすることが大切さ。あとは、皆と違うことにチャレンジすること。僕は、音楽制作者は“音楽を進化させるために存在している”と思うんだ。だから、まだ誰も聴いたことがない音楽作りに挑戦してみてほしい。
SELF SELECTED WORKS
①『Vignettes』
マイク・スロット
(LuckyMe)
2020年3月にリリースした最新作。現実逃避できるサウンドだから、混乱した状況にピッタリだ
②『Lucky 9teen』
マイク・スロット
(パワーショベル)
ヒップホップ的なビートに、フィールド・レコーディングした素材などを組み合わせるなどのアプローチを行ったアルバム
③『Mayday』
マイク・スロット
(LuckyMe)
アナログ機材とソフト音源の両方で作った楽曲だ