世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するアドリアーノは、ドイツを拠点とするハウス・プロデューサー/DJだ。AKAI PROFESSIONAL MPC2000XLなどを駆使したローファイなビート・メイキングを得意としながらも、2020年2月にはトランスの楽曲をリリースするなど幅広く活動する。
キャリアのスタート
子供のころからレコードを集めるのが好きで、小さな会場でDJやバンドをやったり、一人でエレクトロニック・ミュージックを作ったりしていました。当時オリジナル・トラックをSoundCloudにアップしていたのですが、ある日Soul Notesのオーナー=カースティルから突然メッセージが届き、その数カ月後に「Snapback Grooves」という作品をリリースすることになったのです。それからはDJとしてブッキングされるようになりました。とてもクレイジーですよね(笑)。
機材の変遷
エレクトロニック・ミュージックの制作を始めた当初は、恐らくほかの皆と同じように“名機”と呼ばれるビンテージのシンセやリズム・マシンを所有したいと思っていました。実際には、そのあとROLAND D-50やJunoシリーズ、 TR-707、KORG M1、MS-20、YAMAHA DX7などをたくさん買いましたね。しかし、あるとき置き場所がなくなってきたことと金銭的な理由から、購入し続けることを辞めたんです。そして、それらをサンプリングしてほとんどを売り払いました。現在は、制作で使う必要な機材だけをスタジオに置くようにしています。また、初めてDAWを使ったのは19〜20歳のころで、PROPELLERHEAD Reasonを使っていました。その後、自分のニーズに対して限界を感じたのでABLETON Liveを導入することにしたんです。
ビート・メイクの手順
まずはイメージする音が見付かるまで、いろいろな楽器でジャムります。そして、その音をEQのWARM AUDIO EQP-WAやエキサイターのAPHEX Aural Exciter Type C2、コンプレッサーのTL AUDIO C-1などで調整や色付けを行い、Liveに録音するのです。ドラムは、サンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPC2000XLでプログラミングしたあと、Liveに録音しています。だけどスタジオに居るほとんどの時間は、ゴールを設定せずにひたすらジャムったり、音で実験したりしていることが多いです。モジュラー・シンセをパッチングし直したり、シンセのアルペジエイターをいじったり、レコードからランダムにサンプリングしたり……。これらは僕にとって学びのプロセスなんですよ。普段からこういったことに時間を割いているからこそ、曲のアイディアやメロディが浮かんだときに、それらをスムーズに音に変換することができるのだと思います。
ミックスについて
ミックスはほとんどLiveで行います。フィルターやエンベロープの設定をノブで行いたい場合は、Live専用コントローラーのAKAI PROFESSIONAL APC40を使います。僕は自分の耳を一番信頼しているので、感覚的にミックスするのが好きなんです。マスターには、FABFILTER Pro-Q3やLiveに付属するプラグインを用いています。
今後の展望
今まで作りためておいた楽曲を、これからたくさんリリースする予定です。パンデミックが終われば、またツアーをすることになるでしょう。そうなることを願っています。
読者へのメッセージ
若い人から“どうすれば皆が聴いてくれるような音楽が作れるの?”という質問をもらいますが、その問い自体が間違いだと思います。周囲からの評価を得るためにビート・メイキングしてはいけません。音楽制作のプロセス自体に喜びを見いだすこと、失敗を恐れないこと、最終的な結果を気にし過ぎないことが大事。まずは自分の好奇心を最優先にするといいでしょう。
SELF SELECTED WORKS
初期の作品。恐らく最も人気のある曲です。
2020年2月にリリースしたばかりのトランス・トラック。普段のハウスとは違った、楽しい楽曲になっています。
90’sハウスにインスパイアされて作ったトラック。主にAKAI PROFESSIONAL MPC2000XLを使っています。
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