世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するジョーイ・ペコラロは、近年人気のローファイ・ヒップホップ・シーンで活躍するデトロイトの気鋭ビート・メイカーだ。最新作『シー・モンスター』では、これまでとは異なるシンセウェーブやドラムンベースの要素を取り入れている。そんな彼の音作りの秘けつについて、細かく聞いてみよう。
Interview & Photo:Hashim Bharoocha
キャリアのスタート
小さいころ、友人がサンプラーのAKAI PROFESSIONAL MPCを持っていて、よくそれで遊んでいた。最初にDAWを触ったのは16歳くらいのとき。兄がIMAGE-LINE Fruity Loops(現在のFL Studio)をダウンロードして、僕のコンピューターにインストールしたのがきっかけさ。独学だったからこそ、個性的なやり方を生み出せたんだと今思うよ。
影響を受けた音楽やアーティスト
高校生のころはメタル系のバンドでギターを演奏していて、そのときに曲作りも覚えた。大学ではJ・ディラやNujabesにハマったね。最初はJ・ディラを模倣したビートを作っていて、そこから自分のサウンドを見つけていったのさ。
機材の変遷
Fruity Loopsをしばらく使った後、ABLETON Liveに転向した。ライブ・パフォーマンスのオファーが入ったことが大きな理由で、Liveの方がパフォーマンスに向いているということが分かったんだ。それ以降はビート・メイキングでもLiveを使うようになった。Liveはトランスやハウスなど、ダンス・ミュージックの制作にも向いていると言えるね。
使用機材
以前はiPhoneの付属イアフォンとラップトップのみで制作していた。MIDIコントローラーすら使っていなかったんだよ(笑)。だけどある程度成功することで、こうやって機材を買えるようになった。プログラミングではNATIVE INSTRUMENTS Komplete Kontrol S61、リード・シンセを録音するときはNORD Nord Lead 4を弾く。モニターはYAMAHA HS8で、色付けのない正確な音がするね。HS8で格好良いサウンドが鳴らせたら、APPLE iPhoneのスピーカーでも良い音に聴こえるはずだ。最も重要なのは、オーディオI/OのUNIVERSAL AUDIO Apollo Twin MKII。安定した動作とコンパクトさで、ライブ時も活躍している。
ソフト音源やプラグイン
ビート・メイキングを始めたときはレコードからサンプリングしていたけれど、近年はWebサービスのSpliceを使っている。愛用のドラム・サンプルが15〜20個あって、曲ごとにEQやリバーブをかけて音色を変えているんだ。サブベースはROB PAPEN SubBoomBass一択。お気に入りはARTURIAのソフト音源Mellotron Vで、ビンテージな音が良いね。チェロにはEMBERTONE Blakus Celloを用いており、本当に誰かが生演奏しているように聴こえるんだ。自分のトラックではレトロ感を演出したいから、XLN AUDIO RC-20 Retro Colorでノイズを足したりしている。最近はUNIVERSAL AUDIO UAD-2プラグインをたくさん買ったから、次のアルバムのサウンドが楽しみだね(笑)。
ハードとソフトの違い
アナログ・モデリング・シンセのNord Lead 4は、アルバム『Deep in a Dream of You』(2019年)の全曲で使用した。それまでソフト・シンセしか扱ったことがなかったんだけど、ハードの音源から出るリッチなサウンドに感動したよ。
読者へのメッセージ
スタジオには高価なギターやキーボードがあるけれど、僕の一番の人気曲「Tired Boy」(『FRESH PACK LIVE VOL.3』収録)や、セレーナ・ゴメスに提供したリミックス「Back to You (Joey Pecoraro Remix)」は、すべてラップトップとイアフォンだけで作っている。高価な楽器や機材をたくさん持っているからと言って、良い音楽を作れるとは限らない。一つ一つのツールと真剣に向き合って、しっかり使い倒すことをお勧めするよ。
SELECTED WORK
シンセウェーブやドラムンベースなど、これまでとは大きく異なるアプローチを実践できた。1980年代のシンセ・サウンドと、自分のファンタジーな世界観を融合してみたんだ。
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