世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するジョン・キャロル・カービーは、フランク・オーシャンやソランジュらとコラボレーションするロサンゼルスの鍵盤奏者/プロデューサー。ジャズ・ピアノを軸としながらも、ニュー・エイジやアンビエント・ミュージックなどを掛け合わせる手法が特徴的だ。
Interview & Photo:Hashim Bharoocha
キャリアのスタート
僕のバックグラウンドにはジャズ・ピアノがある。子供のころから大学まではずっとジャズを勉強し、大学卒業後はウェポン・オブ・チョイスというロサンゼルスのパンク・ファンク・バンドに加入した。セバスチャン・テリエというフレンチ・エレクトロ・ミュージシャンともしばらく仕事をしていたことがある。大きなターニング・ポイントは、ソランジュの『ア・シート・アット・ザ・テーブル』(2016年)に参加したとき。最初は収録曲「クレインズ・イン・ザ・スカイ」のキーボード奏者として声が掛かったんだけど、作業していくうちにプロデューサーとして起用されることになったんだ。ソランジュと信頼関係を築いたことで、彼女は僕にキーボードやビートのプロダクションを任せてくれるようになった。これ以来、僕は音楽プロデューサーとして認められるようになったんだ。
機材の変遷
僕は本来ジャズ・ピアニストだったから、最初は機材を集めることにためらいがあったんだ。でも大学時代に同級生が持っていたROLAND Juno-60を触って、アルペジエイターがすごく面白いことに気付いた。それで僕もJuno-60を購入し、現在も使っている。以来、RHODESやHOHNER Clavinet、FARFISAのオルガンなど数々のキーボードを集めてきたよ。Juno-60のほかに今も使用しているのは、MOOG Minimoog Model D、CRUMAR Orchestrator、YAMAHA DX7、WURLITZER 200Aだけ。ちなみにMinimoog Model Dは、以前スタジオに置いてあったもので、スティーヴィー・ワンダーが『インナーヴィジョンズ』(1973年)の制作で使ったと言われている。Orchestratorは、改造してMOOGのフィルターを入れた。ペダルと併用することでワウっぽいサウンドが出せるんだ。YAMAHA DX7を買ったのは、ブライアン・イーノの『アポロ』(1983年)を聴いて、DX7の可能性に気付いたから。WURLITZER 200Aは15年以上前に手に入れた。キーボーディストのマニー・マークが、ベックやビースティ・ボーイズの曲で使っているというのが購入の決め手だったね。
ビート・メイクの手順とインスピレーション
まずはコードから手を付けることが多い。それから一人でセッションし、曲の土台を作っていく。あまりコードを前面に押し出したくないときは、APPLE Logic Pro Xを立ち上げ、サンプルをSpliceで探してビートを組み立ててみるんだ。それらが曲として成立するかどうかを見極めるコツは、何時間ループして聴いても飽きないかどうか。たまに車の運転中に良いメロディを思い付くこともある。そんなときはすぐにAPPLE iPhoneのボイスメモで録音し、スタジオに帰って編集するんだ。僕が好きな曲を模倣していくうちに、全く違う曲ができたりすることもあるよ。
ビート・メイキングのこだわり
大抵のプロデューサーは“ドラムを録音してからベースに進む”というような定番のプロセスを持っていたりするけど、僕の場合、そういうものにはあえて従わないようにしている。偉大なミュージシャンたちと作業して分かったのは、彼らのほとんどが“既存のルールに則って作業していない”ということ。だから僕も常識にとらわれずに、クリエイティビティを最優先にして作業するようにしているんだ。
読者へのメッセージ
急いではいけない。僕は30代半ばになってやっと注目されるようになった。そのときがくるまでは、しっかり自分の技術を磨き続けておくといいよ。いつか必ずそれを生かせるときが来るから。
SELECTED WORK
今年の4月にリリースした1stアルバムは、ピアノとリズム・マシンを軸にほとんどの曲を作っている。“僕の人生のストーリーにリスナーを招待する”というテーマの作品なんだ。