「REPRODUCER AUDIO Epic 55」製品レビュー:パッシブ・ラジエーターを搭載するミッドフィールド・モニター・スピーカー

REPRODUCER AUDIOから発売されたモニタースピーカー「Epic 55」

 ニアフィールド・モニターのEpic 5で知られるREPRODUCER AUDIOより、MTMタイプのミッドフィールド・モニターEpic 55が発売されました。Epic 5で得た評価とフィードバックに元に、3年近くの開発期間を経て登場した進化版モデルです。

リニアにそのまま音が出てくる印象
低域はタイトに引き締まりしっかり届く

 REPRODUCER AUDIOは、ドイツ南西部ブライザハにあるUNITED MINORITIESのCEO、アティラ・サージェック氏によって2015年に設立された新興メーカーです。UNITED MINORITIES自体は、20年にわたってドイツやスイスのコンサート・ホールの音響デザインを行ってきた会社で、スピーカーやアンプ、マイクなどのカスタム・メイドも手掛けているとのこと。REPRODUCER AUDIOのすべての関連部品が自社開発で作られているのも頷けます。

 

 早速Epic 55の底面の4隅に付属のピン・スパイクを取り付け、左右のスタンドへ縦向きに設置してみました。独特なタワー形のためか、なんだか古代エジプトの遺跡の前にいるような気分になり、なかなかインパクトがあります。重さは1本で14.1kgと、このサイズのスピーカーとしては標準的な重さなので、一人での持ち上げも苦になりませんでした。

付属スパイクを装着して縦置きにした状態。製品名ロゴは回転させることが可能だ。天面と底面には、低域再生をカバーするパッシブ・ラジエーターがある

付属スパイクを装着して縦置きにした状態。製品名ロゴは回転させることが可能だ。天面と底面には、低域再生をカバーするパッシブ・ラジエーターがある

 前面は、2基の5.25インチ・ウーファーと1基の1インチ・ツィーターを搭載。加えて、底面と天面に1基ずつ6.5インチのパッシブ・ラジエーターが備わっています。背面にあるパラメーターはシンプルで分かりやすい仕様です。GAINとTRIM HF&LFノブは3つ共にステップ式で、GAINは±20目盛と細かい調整が可能。チューニングのためのHF&LFノブは1dB刻みで±5dBの範囲で調整できます。HFが2.5kHzより上、LFが250Hzより下の帯域に作用する仕様です。

リア・パネルにはスタンバイ・スイッチやXLR入力端子、GAIN(-15〜+15dB)、TRIM HF(-5dB〜+5dB)、TRIM LF(-5dB〜+5dB)を備えている

リア・パネルにはスタンバイ・スイッチやXLR入力端子、GAIN(-15〜+15dB)、TRIM HF(-5dB〜+5dB)、TRIM LF(-5dB〜+5dB)を備えている

 実際のチェックはEpic 55を縦置きし、主に2020年にリリースされた楽曲や、筆者自身のエディット〜ミックス作業で行います。一聴して、思った以上の素直な出音に驚きました。リニアにそのまま音が出てくる感じなので、音の立ち上がりがとてもしっかりしています。そのためスピード感も分かりやすいですが、中高域が耳に痛い感じはありません。粒立ちはやや粗め。低域も出ていますがタイトに引き締まっているので、音を大きく再生しても膨れ広がらずにしっかり飛んできて分かりやすいです。ただ、筆者は低域がたっぷりあるモニター環境が好きなので、背面のLFノブを+2dBにしたくらいが一番気持ち良く作業できました。HF&LFノブは効きが良いので、それぞれの環境に応じて効果的に使えそうです。

曲の足りない部分や過剰な部分が
楽器の響きや残響にかかわる中低域が見えやすい

 “色気<正確さ”なキャラクターで、中域の再生能力も高く、いろいろな楽曲を聴いたときに足りない部分や過剰な部分がよく分かります。ラフ・ミックスを磨き上げることが多い昨今のミックスやマスタリングでも活躍しそうです。ひそかに入っているノイズも聴き分けやすく、生ドラムの位相ズレも分かりやすかったので、録音時も力になってくれるでしょう。

 

 リズムのアタック感、ハイハットのニュアンス、ボーカルのサ行などの中高域は分かりやすく、ピアノやシンセの低い帯域の音、キックの皮鳴りの音など、楽器の響きや残響にかかわるような中低域の部分もよく聴こえることは個人的にとても高ポイントでした。高級スピーカーのような圧倒的な奥行き感は無いのですが、ベースの居場所や前後の距離感も不思議とよく見えるので、前後左右の音作りもやりやすそうです。また、高域の上げ過ぎでシンバルなどがゴチャついているような音源は心地良く再生されなかったので、Epic 55でこの辺りをしっかり聴かせられるようにすれば、スマートフォンなどで聴いても印象が変わらないサウンドにできると思います。

 

 低域は癖が無く、40Hzくらいまでは分かるのですが、ふくらはぎから下に響くような20〜30Hzあたりの超低域はさすがにあまり聴こえてこない感じでした。また、低域に依存して成立しているような楽曲や、低域に特徴がある楽曲を聴くとややすっきりとしていて物足りなく聴こえてしまうので、そこはサブウーファーやヘッドフォンを使うなどしてカバーする必要がありそうです。ここをクリアすればとても良いモニター環境を作れるでしょう。

 

 Epic 55は縦に長いですが、リスニング・ポイントはツィーターが耳の高さと同じになればOKで、低いスタンドに置く必要はありません。指向性も広く、左右に動いても音の印象はほとんど変わらないので、リスニング・ポイントに神経質にならずに作業できそうです。ミッドフィールドではありますが、分かりやすい中域と高域、タイトな低域感は個人スタジオや宅録環境でもオーバー・スペックとならずに活用できると思います。音量も出せて癖も無く耳も疲れないので、レコーディング・スタジオにあってもうれしいモニターです。

 

福田聡
【Profile】フリーで活動するレコーディング・エンジニア。ファンクやヒップホップといったグルーブを重視したサウンドを得意とし、ENDRECHERIやSANABAGUN.、EMILANDなどを手掛ける。

 

REPRODUCER AUDIO Epic 55

オープン・プライス(市場予想価格:155,000円/1台)

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SPECIFICATIONS
▪周波数特性:40Hz〜30kHz(±3dB)、35Hz〜35kHz(±10dB) ▪アンプ出力:75W( ツィーター)、120W+120W(ウーファー) ▪最大音圧:112dB ▪ユニット構成:1インチ・ツィーター+5.25インチ・ウーファー×2基+6.5インチ・パッシブ・ラジエーター×2基 ▪クロスオーバー周波数:2.5kHz(-24dB/oct) ▪入力インピーダンス:12kΩ ▪入力感度:+4dBu ▪外形寸法:190(W)×515(H)×320(D)mm(縦置き、スパイク非装着時) ▪重量:14.1kg

 

Epic 55の製品情報

 

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