世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するファスト・ライフ・ビーツは、ニューヨークを拠点とするヒップホップ・プロデューサー・デュオで、ビート・メイク専門のアブストラクト(写真左)と、レコーディング/ミックスを担当するダイレクト(同右)によって構成されている。スピード感を重視したワークフローを生かし、気鋭ラッパーを数多く手掛けている。
キャリアのスタート
アブストラクト 俺とダイレクトは、ニューヨークにある音楽専門学校インスティテュート・オブ・オーディオ・リサーチ(IAR)で出会った。ある授業がきっかけでつながり、それから2人の絆が深まっていったんだ。卒業後は一緒にいろいろなスタジオで働いていたよ。
ダイレクト 俺たちがプロデューサー・デュオとして動き始めたのは2008年ごろだ。2人で役割分担して働くことによって、さまざまなアーティストにビートを提供できるようになったし、アーティストの方からも俺たちのスタジオを訪ねてくるようになったんだ。
機材の変遷
アブストラクト DAWはずっとIMAGE-LINE FruityLoops(現在のFL Studio)を使っている。最初の1〜2年は使い方がよく分からなかったけど、試行錯誤しているうちに上達していった。ほかのDAWも試してみたけど、やっぱりFruityLoopsが一番使いやすかったね。頭の中にあるアイディアを5~10分で形にして、すぐレコーディングに取り掛かれる。速さはマジで大切だね。
ダイレクト 俺はレコーディングやミックスをやっていたから、DAWはAVID Pro Toolsで、オーディオI/OはDIGIDESIGN MBoxを買った。手ごろな値段だったし、セットアップも簡単だったよ。
アブストラクト 卒業後に働いていたスタジオには大量のアウトボードが壁を覆い尽くすほどあって、俺たちはそれらを使いこなしていた。だけど今のスタジオではPro ToolsをメインDAWにし、ボーカル用としてAPI 500 互換モジュールのEQ、SSL 611EQのほか、コンプレッサーのEMPIRICAL LABS Distressor EL8などを置いているだけだ。あとはプラグインでほとんどの処理を賄っている。オーディオI/Oは、APOGEE Symphony I/Oを使っているね。
ダイレクト Pro Toolsは、アーティストの創造プロセスを容易に具現化してくれるし、ボーカル・レコーディングのオペーレーションも容易だね。
2人のワークフロー
ダイレクト 大抵は、アブストラクトがクレイジーで創造的なビートを調理するところから始まる。早くビートが完成すればするほどアーティストは早くレコーディングに入れるんだ。逆に俺がアーティストのボーカルを分析して、それに合うビートやキー、テンポ、楽曲全体のアレンジなどをアブストラクトにアドバイスするパターンもある。
アブストラクト 中でもダイレクトはボーカル・ミックスにたけていて、一瞬にして曲の印象を変える力を持っている。そういった意味でも、ミックスはビート・メイキングと同じくらい重要で、彼もプロデューサーとしての役割を担っている。
読者へのメッセージ
アブストラクト 本格的な収入が入るまでには時間がかかるから、結果が出るまでの数年間は辛抱して仕事をする覚悟を決めることだ。そして、いつだって究極に自分を信じるんだ。何者にも行く手を邪魔させるな。
ダイレクト ときには今までやったことのない音楽ジャンルに挑戦したり、アーティストと一緒にスタジオで作業するのもいいかもしれないね。アーティストがどんなタイプのビートを必要としているか、それをじっくり見極め、二度と忘れられないような好印象を彼らに与えるんだ。とにかく、あらゆる要素が組み合わさって一曲が出来上がる。いろいろな人たちのためにレコードを制作する楽しさを忘れないで続けてほしい。
SELF SELECTED WORKS
芸術性のあるビートに乗る複雑なコード進行。まさに最高の組み合わせと言えるドープな作品
タイ・ジェームスのフィーリングをうまくサウンドに具現化できた楽曲だ
既にKJ・ボーラは他界してしまったが、現在この曲は世界中のリスナーに聴かれているんだ
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