世界の各都市で活躍するビート・メイカーのプライベート・スタジオを訪れ、トラック制作にまつわる話を聞いていく本コーナー。今回紹介するマイロン・ヘイドは、ジョン・ベリオンなどに楽曲提供するニューヨークのヒップホップ・プロデューサー。ドラムやベースを演奏するミュージシャンでもあり、相方であるys.thevampとのバンド/制作チーム=Tape.Squidでも活動している。
Interview:Keiko Tsukada Photo:Omi Tanaka
キャリアのスタート
もともと僕はジャズの教育を受けたサックス奏者で、学校のマーチング・バンドなどで10年ほど演奏していた。ビート・メイキングは、中学生のときにIMAGE-LINE Fruity Loops(現在のFL Studio)をダウンロードしたところから始まったんだ。それで遊んでいるうちにルーティングのやり方を理解したり、ハードウェアのサンプラーがあることを知った。それからは、ひたすらビート・メイキングの道を前進したよ。
機材の変遷
最初に手に入れたハードウェアは、サンプラーのROLAND SP-404とAKAI PROFESSIONAL MPC2000XL。SP-404は、自由にサンプリングして素材を再構築する能力を与えてくれた。内蔵されたエフェクトも大好きだ。MPC2000XLはパッドのフィーリングが最高だね。最近はスタンドアローン・タイプでも動作する音楽制作システム、 MPC Liveも使っている。DAWはABLETON Live。ほかのDAWと比べて、スピーディにアイディアを音へと変換できるんだ。お気に入りのプラグイン・ブランドは、SOUNDTOYSだね。ディレイ・プラグインのEchoBoyやCrystallizerなどをよく使っているけど、どれも素晴らしいね。
ビート・メイクの手順
大抵は生ドラムをたたいて、各パーツのトーンを調整するところから始める。それから複数のドラム・パターンをLiveに録音するんだ。次にシンセのパッチングを変えたり、ギター・アンプやキャビネットの前に異なるマイクを設置したり、エフェクト・ペダルを組み合わせたりして音作りし、これもLiveに録音。僕とパートナーのys.thevampはお互いミュージシャンのバックグラウンドがあるから、たくさんの楽器をさまざまなアレンジで演奏できるんだ。ys.thevampは、主にベースやピアノなどの鍵盤楽器を弾く。僕はベースとドラム、サンプラーを操作しているんだ。すべての録音が終わったら、これらのオーディオ素材をLive上でチョップ&スライスしてビート・メイキングしていく。アナログ・レコードからサンプリングするより、こっちの方が速いんだよね。
ビート・メイキング/ミックスのこだわり
一般の人たちにはまねできないような、ジャズの要素をビート・メイキングに取り入れているところだ。僕は生まれも育ちもニューヨーク。サウンドはとても東海岸的だよ。ミキシングに関しては、作業前にアーティストがその楽曲に対してどんなビジョンを持っているのかを知ろうとするのが大切。また、工場の組み立てラインのように流れ作業的なものではなく、よりユニークなミキシングを目指しているよ。すべては楽曲をより輝かせるためなんだ。
ビート・メイクの醍醐味
自分が作り上げた世界観を他人と共有できることだね。何より、ビート・メイキングは自分を解放してくれる。僕は中学の終わりごろまで、人前で話すと緊張して口調がしどろもどろになっていたんだ。でもサックスを吹いたりビート・メイキングに没頭しはじめると人前で話すことが楽になって、自然とそれがなくなったんだよ! 恐らく演奏やビート・メイキングを通して自己表現ができるようになったことで、自信が生まれたんだと思う。音楽にはとても感謝しているよ。
読者へのメッセージ
決して自分のアイディアを軽視してはいけない。君にはクリエイティブな能力があるということを信じるんだ。そして、君の音楽にはリスナーの人生を変えられる力がある。これらを肝に銘じて真剣にビート・メイキングに向き合えば、君のイメージするような音楽を自在に表現できるようになるよ。
SELECTED WORK
今年3月にリリースされたトラヴィス・メンデスのアルバムで、僕たちTape.Squiedのプロデュース/ミックス作品。マーヴィン・ゲイに敬意を示したトラックも収録した。
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