プロデューサー/ループ・メイカーのPulp Kです。僕は主にヒップホップやトラップの楽曲をFL Studioで制作しています。ループ・メイカーとは、ビートの上モノを専門に作る人のこと。現在、アメリカのシーンを中心にループ・メイカーの存在が広がっており、日本においても少しずつその名前が浸透してきていると感じています。前回は、上モノ・ループを使用してビートを作成する方法について、具体的にはサンプルのアレンジメントから実際にビートを打ち込むところまで解説しました。そこで今回はドラムのミックス、そして上モノと合わせて完成させるまでを解説したいと思います。
Sampler Channelの設定でパンチのあるキックを作る
まずは、上モノのローエンドの部分をEQでカットします。これを行うことで、上モノの低い周波数の部分とキックの音がクラッシュしてしまうのを防ぐことが可能です。僕はローエンドのカットにはFruity Parametric EQ 2を使用しており、周波数の出方が視覚的に分かりやすいため非常に重宝しています。もちろんそれぞれの上モノにもよるのですが、大体100〜150Hzまでをカットすることが多いです。また、Fruity Parametric EQ 2には“20Hz+18kHz cut”というプリセットが用意されており、それを活用することもあります。
次に不要な帯域の処理です。具体的にはのようにEQのポイントを動かして、自分があまり好きではない、耳障りな周波数を見つけ出してカットします。これをしないと、パンチの効いたROLAND TR-808系のキックを乗せたときにサウンドがクラッシュしてしまう可能性があります。
次はキックについてです。まずはSampler Channel上でTR-808キックのサンプルをブーストさせます。これを行うことで、現行のトラップで見られるパンチの効いたサウンドを作ることが可能です。さらに、OUTノブやTRIMノブを使って自分好みにエディットしていきましょう。OUTノブを使ってフェード・アウトを加えることで、現行のサウンドによく見られる“パンチがあって短いTR-808キック”を作ることができます。
これらは有名なTR-808のサンプル音源Spinz 808やZay 808を現代的なトラップ・サウンドに近付けるために有効なテクニック。EQで中域をブーストしてあげるのも一つの手です。
パーカッションのパンニングはMIDIノートごとに細かく調整
次にハイハットやパーカッションなど、リズム楽器のミックスについてです。前回書いた通り、できるだけシンプルかつバウンス感のあるものを目指していきます。アーティストがボーカルを乗せるスペースを残しておくことが大切です。
ハイハットは基本的には音量調節のみを行っていますが、例えばリバーブを加えてEQで高域をブーストすることで、より空間的なハイハットを作ることも可能です。作るジャンルに応じて使い分けることができるので、ぜひ試してみてください。
クラップ/スネアも、基本的には音量調節のみ行っています。特にクラップに関して気を付けていることは、音量を大きくし過ぎないようにすることです。クラップ/スネアのサウンドが大き過ぎてリスナーの耳を痛めてしまわないようにしましょう。
パーカッションは音量調節した後、パンニングを行います。それぞれのパーカッションをL/Rに振り分けることでバウンス感を出すことが可能です。また、ピアノロール画面下にあるControlタブからもパンニングができます。個々のMIDIノートごとにパンを細かく設定したい場合はこの画面から行いましょう。
リミッターでクリッピングを防ぎつつパンチのあるトラップ・サウンドをキープ
次にドラムのマスター・トラックについて解説します。個人的には、現行のパンチの効いたトラップ・サウンドを作る上でこのマスター・トラックが一番大切なポイントだと思います。ここでは自分が普段行っているミックス方法を紹介しましょう。
全体のレベルを0dB以下に抑えるために使うのが、Fruity Soft Clipperです。これによってブーストしたキックによるクリップを防ぎ、パンチの効いたドラム・サウンドを作ることができます。
同じリミッター&コンプ・エフェクトのFruity Limiterを使う場合は、ENVELOPEオプションのATT(アタック)、REL(リリース)、SUSTAINをすべて0に設定します。これによってアタック部分だけをリミッティングし、サウンド全体がこもってしまうことを防ぐことが可能です。GAINノブを持ち上げることで、さらに全体の音圧を上げることができます。Fruity Soft Clipperと同様に、クリップを防ぎつつパンチの効いたドラム・サウンドを作るときに重宝します。
今のトラップ・シーンではFruity Soft Clipperを使う方法でミックスされることが多いように感じます。個人的にもFruity Soft Clipperを使用することが多いです。もちろん、作るものによって合うミックスの仕方は異なってくるため、いろいろなビートでこれらの方法を試してみることをお勧めします。
ローカットのオートメーションやFXサウンドを追加して完成
全体のアレンジメントはのようになりました。キックやベースが鳴っていない部分のEQは、オートメーションでオフにしています。ローカットするのはキックやベースと上モノがクラッシュしないようにするためなので、それらが鳴っていない部分では必要が無いのです。
また、ライザーなどのFXサウンドも加えています。これらは必ずしも必要なものではないですが、効果的に使用することでビートにバウンス感を付け足すことができます。ただし、これらのFXサウンドに関してもやり過ぎないように気を付けましょう。ボーカルを乗せるスペースをつぶさないように!
全4回にわたって上モノの作り方からビートを完成させるまでを解説しました。注意してほしいのは、これらはあくまで僕のやり方であり、必ずしもこうしなければいけないというものではないということです。音楽制作にルールはありません。ぜひとも試行錯誤を繰り返して、自分なりのやり方を見つけてほしいと思います。つたない解説でしたが、読んでいただいた方々、本当にありがとうございました!
Pulp K
【Profile】1997年生まれ、千葉県を拠点にするビート・メイカー/ループ・メイカー。主にヒップホップやトラップを制作しており、これまでにTAEYOやJP THE WAVYなどのアーティストの楽曲を手掛ける。LAを拠点とするマネージメント・レーベルと契約するほか、ティンバランドが主宰する招待制プラットフォーム“Beat Club”のVIPメンバーになるなど、日本だけでなくアメリカのシーンにも活動の幅を広げている。
Instagram:@_pulp_k
【Recent work】
『WAVY TAPE 2』
JP THE WAVY
(bpm tokyo/bpm plus asia)
IMAGE-LINE FL Studio
LINE UP
FL Studio 20 Fruity:17,600円|FL Studio 20 Producer:28,600円|FL Studio 20 Signature:37,400円
REQUIREMENTS
▪Mac:macOS 10.13.6以降、INTELプロセッサーもしくはAPPLE Silicon M1をサポート
▪Windows:Windows 10以降(64ビット)INTELもしくはAMDプロセッサー
▪共通:4GB以上の空きディスク容量、4GB以上のRAM、XGA以上の解像度のディスプレイ