プロデューサー/ループ・メイカーのPulp Kです。僕は主にヒップホップやトラップの楽曲をFL Studioで制作しています。ループ・メイカーとは、ビートの上モノを専門に作る人のことです。現在、アメリカのシーンを中心にループ・メイカーの存在が広がっており、日本においても少しずつその名前が浸透してきていると感じています。前回、前々回では、上モノを作る際に役立つ便利なFL Studioのテクニックや、作った上モノをループとして完成させるための方法を紹介しました。そこで今回は、完成した上モノ・ループをアレンジして実際にビートを作成する方法について解説していきたいと思います。
各ステムに合わせてスライスしたオーディオを組み合わせてアレンジ
多くの場合、ループ・ファイルのタイトルにはループ・メイカーがテンポを記載してくれています。それに合わせてFL Studioのテンポを変更し、ループがオンタイムになるように設定しましょう。その際、ループのデータがMP3である場合には注意が必要です。MP3でオーディオ・データを書き出すとデータの頭の部分にわずかな空白ができてしまうことがあるので、ループを使用する際は注意して、データがMP3であった場合にはこの空白をカットしなくてはなりません。
前回説明したように、ループ・メイカーが作るループの後ろには各セクションが個別で鳴っているステムが付いているのが一般的です。多くの場合、ループの時点である程度のアレンジがされていますが、自分はこのステムを活用して自分流に上モノのアレンジをします。
まずはアレンジメント画面のツール・バーにあるSliceツールを使って、オーディオを各ステムごとにカットします。カッター・ナイフのようなアイコンを選択し、オーディオのスライスしたい場所で縦にドラッグしてみましょう。ドラッグしたラインに沿ってオーディオが分割されます。オーディオ・ファイルをスライス位置によってはクリック・ノイズが発生してしまうこともあるので、そのときはSamplerの画面にあるDeclicking modeからGeneric(bleeding)を選択しましょう。クリック・ノイズを目立たなくすることができます。
スライスしたステムのオーディオを使ってアレンジをしていくわけですが、僕は“音の抜き差し”と“抑揚”を意識しています。各セクションごとでさまざまな音が入り乱れるようにすることで、リスナーの耳を飽きさせないように工夫することが大切です。
ノレるハイハットの打ち込みに便利なMIDIノートを分割するchopper
いよいよドラムの打ち込みです。ドラムの打ち込みで心掛けていることは、シンプルさとバウンス感。ボーカルが乗ることを考えて、ビート自体にはある程度のスペースを残しておくことを意識しましょう。
ハイハットの打ち込みでは、シンプルかつ“ノレる”ことを意識しています。ただ適当にハイハットを刻むのではなく、上モノ・ループにあるメロディとの掛け合いを意識しながらMIDIノートを配置していきましょう。同じピッチで鳴らすだけでなく、階段上にピッチを変化させて打ち込むことでバウンスとグルーブが生まれます。また、MIDIノートごとのベロシティに差をつけたり、パンを振ることで、さらにバウンスとグルーブを出していきましょう。
ここで、ハイハットを配置するときに使えるFL Studioの機能、chopperを紹介します。選択したMIDIノートを均等にチョップすることができ、またその細かさ(一つ一つのMIDIノートの長さ)もノブを回すことで簡単に変更することが可能です。トラップ的なハイハットの刻みを演出するのにピッタリな機能となっています。チョップしたいノートを選択し、Alt+U(Windows)またはoption+U(Mac)を押すことでもchopper機能を呼び出すことができます。また、ツール・バーにあるブラシの形をしたPaintツールでは、ドラッグすることでMIDIノートを等間隔に連続して配置することが可能。前述した階段状にピッチの違うノートを並べるときなどに便利です。
ROLAND TR-808系キックを使用する際には、Samplerにサンプルをインポートし、ボリューム・エンベロープでATT/DEC/SUS/RELのノブを0まで下げ、HOLDを100にしましょう。これを行うことで、連続してキックが鳴る場合でも音同士が干渉してしまうのを防ぐことができます。TR-808系キックに関しても、“シンプルかつバウンス感があること”を念頭に置いて配置していきましょう。ピッチがなめらかに変化するグライド・ノートや、連続して鳴らすロールを挟むことで変化を付けていくことも有効です。
打ち込む際は、キックのピッチと上モノ・ループのキーを合わせることに気を付けます。キックのピッチを上モノのルートに合わせるとうまくいくでしょう。また、キックのピッチ感が聴こえにくい場合は、ピッチを1〜2オクターブ上げることで改善することがあります。対応できる音域を外れないように注意しながら行いましょう。
音のすき間を埋めるようにパーカッションとスネアを配置する
パーカッション、スネア(クラップ)はのようになっています。コツとしては、それぞれの音がすき間を埋め合うように、音の掛け合いが生まれるように作ること。また、パーカッションに関しては音数が増え過ぎて複雑になり過ぎないように注意しましょう。あくまでシンプル、かつバウンス感があるようなドラムが良いと考えています。
ビート全体のアレンジメントはのようになりました。まずイントロが8小節あり、フック16小節+バース16小節+ブリッジ8小節を2回繰り返した後、フック16小節、アウトロ8小節という流れの構成です。上モノ・ループのアレンジメント同様、音の抜き差しを行うことでビートに抑揚を付けています。イメージとしては、フックで盛り上げて(音の数を多くする)、バースで落ち着かせる(音の数を少なくする)という構成を心掛けています。ブリッジを作ることでフックとバースの違いをより明確にすることができるのでお勧めです。
今回は上モノ・ループから実際にビートを打ち込むところまで解説しました。次回はドラム・サウンドのミックス、そしてビートを完成させるまでのプロセスを解説したいと思います。
Pulp K
【Profile】1997年生まれ、千葉県を拠点にするビート・メイカー/ループ・メイカー。主にヒップホップやトラップを制作しており、これまでにTAEYOやJP THE WAVYなどのアーティストの楽曲を手掛ける。LAを拠点とするマネージメント・レーベルと契約するほか、ティンバランドが主宰する招待制プラットフォーム“Beat Club”のVIPメンバーになるなど、日本だけでなくアメリカのシーンにも活動の幅を広げている。
Instagram:@_pulp_k
【Recent work】
『WAVY TAPE 2』
JP THE WAVY
(bpm tokyo/bpm plus asia)